人手不足が続く中で、多くの飲食店経営者がこう感じているのではないでしょうか。
「人さえいれば、もっと回せるのに」「ピークタイムに人が足りず、取りこぼしている気がする」
売上が伸び悩む原因を「景気」や「客単価」に求めがちですが、実は大きな問題は回転率(席の回り方)にあるかもしれません。
本記事では、信頼できる公的データと企業の決算資料をもとに、外国人材、とくに「特定技能」を活用すると本当に回転率が改善するのかを、できるだけわかりやすく解説します。
なぜ人手不足は終わらないのか?数字が示す“構造問題”
出入国在留管理庁が公表している特定技能在留外国人数(分野別統計)によると、外食業分野の特定技能外国人は、制度開始直後の2019年はほぼゼロに近い水準でした。しかしその後増加を続け、2022年以降は急拡大し、現在は数万人規模に達しています。

わずか数年でここまで増えているという事実は、「外国人雇用が広がった」というレベルの話ではありません。
日本人だけでは店舗運営が維持できなくなっていることを意味します。実際、外食業は特定技能制度の中でも受け入れが進んでいる分野の一つです。裏を返せば、それだけ現場の人手不足が深刻だということです。
では、市場はどう動いているのでしょうか。日本フードサービス協会が毎月公表している「外食産業市場動向調査」によれば、外食全体の売上指数は2023年以降、コロナ前(2019年)水準に近づき、月によってはそれを上回る水準まで回復しています。
しかし問題は内訳です。客数指数は、業態によってはまだ2019年を下回っている月が続いている。
つまり、売上が戻っているのは、
・値上げ
・高付加価値メニュー
・インバウンド需要
といった要因による部分が大きく、来店客数そのものが完全に戻っているわけではないのです。言い換えれば、今の外食業界は客単価アップで売上を維持している状態とも言えます。
しかし、客単価には限界があります。これ以上の値上げは客離れにつながる可能性があります。その一方で、人手不足が原因で営業時間短縮やピークタイムの対応力低下が起きれば、本来取れたはずの客数を取りこぼします。ここが最大の危機です。
人手不足は、この回転率に直接ブレーキをかけます。需要が戻りつつある今でさえ、回しきれない店がある。今後、労働人口がさらに減れば、この状況は悪化する可能性が高い。つまり現在の人手不足は一時的なものではなく、
放置すれば売上の上限を決めてしまう構造問題なのです。
売上は「回転率」で決まる?
飲食店の売上は、次のように考えるとシンプルです。

売上 = 客単価 × 客数。そして客数は、客数 = 席数 × 回転率です。
席数を急に増やすことはできません。
ということは、売上を伸ばすには回転率を上げるしかないということになります。
では、回転率は何で決まるのでしょうか。
・注文がスムーズに取れるか
・料理提供が遅れていないか
・会計が混雑していないか
・ピークタイムに十分な人数がいるか
・営業時間を短縮していないか
これらはすべて「人」によって決まります。
つまり、人手不足は回転率に上限を作ってしまうのです。
外国人材を増やすと何が変わるのか?大手の判断とは?
例えば、すかいらーくホールディングスの有価証券報告書や決算説明資料を見ると、外国人従業員の採用を積極的に進めていることがわかります。
資料では、
・人員確保による営業時間の維持
・欠員による機会損失の減少
・オペレーションの安定
などが説明されています。
ここで重要なのは、「営業時間を維持できる」という点です。
人が足りないと、
・ラストオーダーを早める
・平日夜を閉める
・定休日を増やす
といった対応をせざるを得ません。
しかし人員が確保できれば、こうした機会損失を防げます。
これはそのまま「回転のチャンスを増やす」ことにつながります。
特定技能の増加と客数回復は重なっているのか?
出入国在留管理庁の特定技能在留外国人数データと、日本フードサービス協会の外食産業市場動向調査(客数指数)を時系列で見ると、ひとつの事実が見えてきます。2022年以降、両方とも明確に上向いているという点です。
2022年は、水際対策の緩和や行動制限の撤廃により外食需要が戻り始めた年です。同時期に、外食業分野の特定技能外国人数も急増しています。これは偶然でしょうか。

もちろん、「外国人材が増えたから客数が増えた」と単純に因果関係を断定することはできません。需要回復の背景には、消費マインドの改善やインバウンド需要の復活など、複数の要因があります。しかし、経営の現場目線で考えると、重要なのはここです。
人がいなければ、需要があっても受け止められない。
いくら来店希望のお客様がいても、
・ホールが足りない
・キッチンが回らない
・仕込みが追いつかない
となれば、営業時間を短縮するか、入店を断るしかありません。
ピークタイムに席が空いているのに回せない。電話予約を断らざるを得ない。回転が遅くなり、機会損失が積み上がる。
この差は、月間客数に直結します。
一方で、人員を確保できている店舗はどうか。
ピークタイムをきちんと回せる。
団体予約を受けられる。
営業時間をフルで維持できる。
結果として、同じ立地・同じ需要環境でも、客数に差が出るのです。
つまりこう言えます。
需要回復のタイミングで人材確保を進めた企業は、回復した客数を取り込めた。
人手が足りなかった企業は、回復の波に乗り切れなかった。
特定技能外国人の増加と客数回復が同時期に起きているという事実は、少なくとも次のことを示唆しています。
「人の確保」は、売上回復の前提条件である。
人材はコストではなく、売上を受け止めるための“受け皿”です。
需要が戻った今、問題は「お客様が来るかどうか」ではなく、
「来たお客様を取り切れる体制があるかどうか」
ここに、今の外食業界の分かれ道があります。
外国人材は「コスト」か、それとも「投資」か?
飲食店経営者の方にこう質問すると、よくこう返ってきます。
「外国人を入れると人件費が増えるのではないか…」
確かに、採用費や登録支援費、教育にかかる時間を含めれば、短期的には支出が増えるのは事実です。だから「外国人材=コスト増」と考えるのも無理はありません。でも、ちょっと立ち止まって考えてみてください。それは本当に“コスト”だけでしょうか?ピークタイム、人が足りない店舗の現実を想像してみてください。
- ・案内に時間がかかり、注文が遅れる
- ・料理提供が追いつかず、テーブルが回らない
- ・団体予約や急な来店を断らざるを得ない
結果として、お客様の滞在時間は長くなり、本来入れたはずの客を入れられない。見えない損失が積み重なっていきます。さらに、人手不足で営業時間を短縮している場合もあります。たった1時間閉めるだけでも、毎日の売上チャンスを逃していることになります。つまり、単なる人件費の問題ではありません。人がいないことで失われている売上こそ、本当の損失なのです。
覚えておきたいポイント
- ・人がいなければ、需要があっても受け止められない
- ・ピークタイムの回転力で、月間売上は大きく変わる
- ・営業時間の維持=売上確保につながる
- ・人材は売上を伸ばすための“投資”になり得る
もちろん、やみくもに人数を増やせば良いわけではありません。重要なのは、
- 「どの時間帯を強化するのか」
- 「どの売上を取りにいくのか」
を明確にすることです。ランチを強化したいのか、ディナーのピークを安定させたいのか、週末の団体需要を確実に取り込みたいのか。
この視点の違いが、今後の飲食店経営の差につながります。
では、もう少し具体的に数字で考えてみましょう。
例えば、客単価3,000円、40席の店舗を想定します。
ピークタイムが3時間あり、本来であれば2回転できるはずが、人手不足により提供が遅れ、1.6回転に落ちているとします。
差は0.4回転。
0.4回転 × 40席 × 3,000円 = 48,000円。
1日あたり約5万円弱の機会損失です。
これが月25日続けば、約120万円になります。
さらに、団体予約を月に5回断っていると仮定します。
1組8名、客単価4,000円なら 32,000円 × 5回 = 16万円。
営業時間を1時間短縮している場合、その時間帯の売上が仮に6万円であれば、
6万円 × 25日 = 150万円。
つまり、
・回転ロス
・予約の取りこぼし
・営業時間短縮
これらを合計すると、
月200万円以上の“見えない売上”を失っている可能性もあるのです。
一方で、導入初期の教育コストを考えてみましょう。
例えば教育に50時間かかり、時給1,200円だとすれば約6万円。
仮に回転率が10%改善し、月の売上が80万円増えれば、投資回収は1か月以内に完了します。特定技能制度では最長5年の就労が可能です。一度戦力化すれば、数年単位で売上改善に貢献する可能性があります。
こう考えると、問題は「人件費が増えるかどうか」ではなく、
いま失っている売上はいくらか?という視点に変わってきます。
外国人採用はコストか投資か?短期・中期・長期で見る判断軸
外国人材の導入は、単なる「人手不足補填」ではなく、売上・回転率・顧客体験を改善する戦略的投資です。判断を急がず、じっくり検討するために、次のフレームで考えるとわかりやすくなります。
短期(今すぐ取り組むべき課題)
目的:即時の機会損失を把握し、最優先で改善できる部分を特定する
- ピークタイムの取りこぼし
→ 現状の席数や予約状況を確認し、断っている顧客の数を想像する
→ 「どの時間帯に人が足りず断っているか」を可視化 - 提供遅延による回転低下
→ 注文から提供までの時間や滞在時間を把握
→ 「10分短縮できれば何席増やせるか」をイメージ - 営業時間短縮による売上機会の損失
→ 本来営業できる時間に対して実際に営業している時間を比較
→ 「1時間延長するとどれくらい売上が増えるか」を検討
中期(数週間〜数か月で取り組む課題)
目的:オペレーションやシフト構成を改善し、導入効果を最大化する
- 人材の配置戦略
→ ランチ・ディナー・週末など、どの時間帯の回転率を上げたいのか明確にする
→ 導入する外国人材のスキル(調理・接客)と必要時間帯をマッチング - シフトと教育プランの設計
→ 新規人材の教育にかかる時間と既存オペレーションのバランスを確認
→ 教育期間中もピークタイムが回せるかをシミュレーション - 団体・予約対応の拡張
→ 人が増えることで対応可能になる予約枠を計算
→ 「取りこぼしを防ぐ」効果を意識
長期(半年〜1年で評価する課題)
目的:売上構造や回転上限の改善効果を検証し、戦略として定着させる
- 回転率改善による売上上限引き上げ
→ ピークタイムだけでなく、平日昼・夜の回転率向上効果も含めて総合評価 - 投資としての人件費評価
→ 人件費増加分が売上増や回転改善に見合っているか確認
→ 「単なるコスト増か、投資か」を定期的に判断 - 特定技能制度の活用拡張
→ 調理・接客など店舗業務に従事できる範囲を整理
→ 必要なスキルや人数を半年単位で見直し
ポイントまとめ
このフレームを使うと、経営者は単なる「人手不足補填」としてではなく、売上や回転率を改善するための戦略的投資として外国人材導入を判断できます。
- 短期:即時の機会損失の把握
- 中期:オペレーション改善と教育・配置戦略
- 長期:回転率向上による売上上限引き上げと投資効果の評価
まとめ
売上が伸びない原因を、景気や値上げの限界に求める前に、考えるべきことがあります。
回転率は本当に最大化できていますか?
人手不足が続けば、回転率には天井ができます。外国人材、とくに特定技能の活用は、その天井を引き上げる手段の一つです。外国人材は「安い労働力」ではありません。回転率を上げ、客数を増やすための経営資源です。
これから人口減少が進む中で、「人を確保できる店」と「できない店」の差は、そのまま売上の差になります。
回転率という視点から、あらためて外国人材活用を考えてみてはいかがでしょうか。
