飲食店の多店舗展開は「いつが正解」?【倒産増加の2026年に見直したい出店判断チェックリスト】

1店舗目の調子がいいから、次を出そうかと思っている」——その判断を、今の市場環境で下してもいいか確認できていますか?

202615月の飲食業倒産件数は411件と30年間で過去最多を更新しました(東京商工リサーチ)。増えているのは「業績不振で追い込まれた店」だけではなく、「拡大途中で資金が詰まった店」も含まれています。倒産した飲食店の90.7%が資本金1千万円未満の小・零細規模という数字は、多店舗展開を目指す層にとっても無関係ではないデータです。

多店舗展開の正解タイミングは、「売上が伸びた時」ではありません。既存店の収益・人材・オペレーション・資金計画の4つが揃った時が、動き出すべきタイミングです。この記事では、その4軸を自社で確認できるチェックリストを出店判断に迷っている飲食店経営者・本部担当者向けに、整理しました。

この記事のPoint
  • 2026年1〜5月の飲食業倒産は411件、30年間で過去最多(東京商工リサーチ)

     

  • 倒産の主因が「物価高」「人件費高騰」に移行。売上が伸びていても倒産するケースが急増

     

  • 出店判断は「売上の好調さ」ではなく「財務・人材・オペレーション・外部環境」の4軸で判断する

     

  • 「今は待つ」という判断も、経営の意思決定。その間にやるべき準備がある

     

  • 出店を急ぐほど、物件選定と人材確保のミスが起きやすい

2026年の飲食業界、何が変わっている?

業績不振だけじゃない、倒産の「質」の変化

飲食業の倒産は長年「販売不振(客が来ない)」が主因でした。しかし2026年に急増しているのは「物価高倒産」(前年同期比43.7%増)と「人件費高騰倒産」(同566.6%増)(いずれも東京商工リサーチ 2026年1〜5月調査) です。つまり客が来ていても、コストが利益を上回って倒産するケースが急増しています(東京商工リサーチ 202615月調査)。

この構造の変化は、多店舗展開の判断軸に直接影響します。「1店舗目が黒字だから出せる」という判断は、コストが一定だった時代の基準です。人件費・食材費・光熱費が継続して上昇する環境では、黒字であることは「今は大丈夫」を意味しても、「出店後も大丈夫」を保証しません。

 

特定技能「外食業」停止で人材確保の環境も変わった

20264月から特定技能「外食業」の新規受け入れが停止されました。国内在留者の採用競争が激化する中、2店舗目・3店舗目の開業時に「人が揃わない」リスクが、以前より大きくなっています。物件が決まっても、開業時のスタッフが確保できずオープンが遅れる——という事態が現実的なリスクになっています。

 

 2026年に出店判断を慎重にすべき理由

・人件費高騰倒産が前年比566.6%増。黒字でも出店後に資金繰りが悪化するリスクが増大

・最低賃金の継続的な引き上げが、2店舗目の人件費予測を狂わせる

・特定技能「外食業」停止で人材確保コスト・時間が増加

・食材・光熱費の高止まりで、新店の損益分岐点が以前より高くなっている

「売上が好調だから出す」は判断基準として不十分な理由

売上の好調さが「出店できる状態」を意味しない3つの理由

売上が伸びていることは出店を検討する動機になりますが、それだけでは出店判断の根拠として不十分です。以下の3点が揃っていない場合、売上好調な1店舗目の利益が新店の赤字補填に消えていくパターンに陥りやすいです。

 

確認が必要な視点

売上好調でも出せない状態の例

財務の健全性

売上は伸びているが、借入返済と人件費で利益が薄い。自己資本比率が低い

人材の準備度

現店舗でオーナー不在時の運営が不安定。店長候補が育っていない

オペレーションの標準化

「自分がいるから回っている」状態。マニュアルがない・機能していない

外部コスト環境

人件費・食材費がさらに上昇した場合でも、新店の収益計画が成立するか

 

「今の黒字」と「出店後の黒字維持」は別の話

1店舗目の月次利益が安定していても、出店後は以下のコストが上乗せされます。この追加コストを加味した上で、2店舗合計の収支がいつプラスになるかをシミュレーションしないまま動き出すケースが多いです。

  • 新店の初月〜軌道に乗るまでの赤字補填(一般的に312ヶ月)
  • 採用・育成コスト(新店スタッフの求人費・研修期間中の人件費)
  • 既存店の品質維持コスト(オーナーが新店に注力する間の1店舗目への影響)
  • 借入返済の増加(新店の設備投資融資)

特に「既存店への影響」は数値化されにくいため見落とされがちですが、新店準備中に既存店の売上・顧客満足度が下がったケースは多く報告されています。

出店判断チェックリスト——「出せる状態か」を4軸で確認する

以下の4つのチェックリストを使って、現状の準備度を確認してください。全項目にチェックが入らない場合は、どの軸が不足しているかを把握することで、「出店前にやるべきこと」が明確になります。

 

チェック① 財務の準備

 

財務に関するチェックリスト

チェック② 人材の準備

人材に関するチェックリスト

チェック③ オペレーションの準備

オペレーションに関するチェックリスト

チェック④ 外部環境・物件の確認

物件のチェックリスト

チェックリストの結果をどう読む?

全項目チェックが入った場合→出店準備を本格化するタイミング

4軸すべての準備が整っている状態であれば、出店準備を本格化するタイミングです。ただし「準備が整った」と「成功が確定した」はイコールではありません。2026年の外部コスト環境は引き続き厳しく、出店後も定期的に収支を確認しながら柔軟に対応できる体制を保つことが重要です。

 

財務以外にチェックが入らない項目がある場合→準備を先行させる

人材・オペレーション・物件の準備が不足している場合、資金があっても出店後の失速リスクが高くなります。チェックが入らない項目を「出店前に整えるべきリスト」として、36ヶ月の準備期間に落とし込むことが現実的です。

 

財務チェックに不足がある場合→今は待つ」が正しい判断

自己資本比率・運転資金・返済余力に課題がある状態での出店は、1店舗目の利益が新店補填に消えるリスクが高いです。この状態は「出店を諦める」ではなく「財務を整えてから出す」という判断です。財務が整うまでの間にやるべき準備——人材育成・オペレーション標準化・物件候補のリサーチ——を進めておくことで、判断できる状態になったときにすぐ動けます。

「今は待つ」判断が正解になるケース

・直近の決算で自己資本比率が10%を下回っている

・1店舗目の月次キャッシュフローが季節によって赤字になることがある

・オーナーが1週間現場を離れると品質やオペレーションに支障が出る

・採用したいポジションの人材が確保できていない

・最低賃金がさらに上がった場合の収支シミュレーションをしていない

「待つ間」に何をするか——出店を見送る期間の使い方

「今は出さない」と判断した場合、その期間をどう使うかが次の出店の成否を分けます。以下のリストを参考に何ができるのか考えてみましょう。

 

準備項目

具体的なアクション

期間の目安

財務の強化

利益を自己資本に積み上げる・借入返済を進める・コスト構造を見直す

6〜12ヶ月

人材の育成

店長候補にオーナー不在での運営を任せる実績を作る

3〜6ヶ月

オペレーションの言語化

レシピ・接客・発注・数値管理のマニュアルを整備する

2〜4ヶ月

物件情報の収集

e店舗などを活用して候補エリアの物件動向を継続的に把握する

随時

市場・競合調査

出店予定エリアの人流・競合・賃料水準をリサーチする

随時

 

特に「物件情報の収集」は、出店を決めてから動き始めると選択肢が限られます。「いい物件が出たときにすぐ判断できる状態」を作っておくことが、出店タイミングを逃さないための準備です。まるっと飲食店では物件に関する情報・記事を多く発信しています。また、居抜き物件を中心とした物件の相談も受け付けています。

よくある失敗パターンと防ぎ方は?

 

失敗①「物件が出たから決めた」出店

「いい物件が出た」という物件ドリブンの出店判断は、財務・人材・オペレーションの準備が整う前に動き出すリスクがあります。物件の良さと自社の準備度は別軸です。「この物件を逃したくない」という焦りが、冷静な判断を狂わせる最大の要因です。

物件の良し悪しより先に、4軸チェックリストで自社の準備度を確認する。準備が整っていなければ、その物件を見送る判断も経営判断です。

 

失敗② 繁忙期の数字だけで出店を判断した

「先月が過去最高売上だった」というタイミングで出店を決めるのは、最もよくある失敗パターンのひとつです。繁忙期の12ヶ月の数字は、年間平均の財務状況を反映していません。季節変動を含む年単位の平均値で判断することが基本です。

 

失敗③ 人件費上昇を「現状の賃金水準」で収支計画を立てた

出店時の収支計画を「今の時給・社会保険料」で立てると、最低賃金の引き上げ・社会保険の適用拡大(20242026年に段階的に進行中)を織り込めていないリスクがあります。20262027年にさらなる最低賃金引き上げが見込まれる中、人件費は「今より高くなる前提」でシミュレーションすることが必要です。

 

「チェックリストを埋めてみたが、どこから手をつければいいかわからない」「物件探しと並行して採用の準備も進めたい」という場合は、それぞれの専門家に早めに相談することが時間とコストの節約になります。

飲食店の多店舗展開・2店舗目の物件探しに特化したe店舗では、「2店舗目以降に合う物件条件を整理したい」「多店舗展開を前提にしたエリア選定を相談したい」という段階からご相談いただけます。

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よくある質問

 

倒産が増えている今、多店舗展開は控えた方がいいですか?

「倒産が増えているから出さない」という判断が正解とは限りません。倒産しているのは主に「準備が不十分なまま拡大した」か「コスト増に対応できなかった」店舗です。財務・人材・オペレーションの4軸が整っていれば、2026年でも出店を進める選択肢はあります。問題は「いつ出すか」より「どんな準備で出すか」です。

 

1店舗目が好調ですが、どのくらいの期間その状態が続いたら出店を検討していいですか?

一般的には「少なくとも1年以上、季節変動を含む年間を通じて安定的に黒字」が最低ラインです。36ヶ月の好調だけで判断するのは繁忙期の数字に引っ張られるリスクがあります。好調の期間より、自己資本が積み上がっているか・人材が育っているかという準備度の方が重要な判断軸です。

 

物件が出たとき、決断までにどのくらいの時間がありますか?

人気エリアの物件は数日〜2週間で決まることも珍しくありません。「物件が出てから考える」では間に合わないケースが多いです。出店の意思決定を迅速にするには、財務・人材・オペレーションの準備を先行して進め、「物件さえ出れば動ける状態」を作っておくことが必要です。

 

2店舗目と3店舗目以降では、判断基準が変わりますか?

基本的な4軸チェックリストは共通ですが、3店舗目以降は「本部機能(複数店舗を管理する仕組み)があるか」という軸が加わります。2店舗目まではオーナーが直接管理できますが、3店舗以上になると数値管理・人事管理・品質管理を仕組みとして持つことが不可欠です。2店舗目の段階から「本部機能の設計」を意識しておくことが、3店舗目以降をスムーズにします。

 

今は出店を見送ると決めました。どうやって準備を進めればいいですか?

優先順位は「財務の強化人材の育成オペレーションの言語化物件情報の継続収集」の順番です。財務が整っていない状態でオペレーション改善だけを進めても、出店できる状態にはなりません。まず自己資本比率の改善と運転資金の積み立てを目標に設定し、並行して人材育成とマニュアル整備を進めることが現実的な順序です。

 

まとめ|2026年の出店判断は「攻める」より「整えてから動く」

2026年の飲食業界は、倒産の質が変わっています。業績不振による倒産に加え、拡大途中でコストに押し潰される倒産が急増しています。「1店舗目が好調だから出す」という判断は、コストが一定だった時代の基準です。

 

この記事で整理した4軸チェックリストを振り返ると、特に見落とされやすいのは以下の2点です。

  • 人件費がさらに上昇した場合でも収益計画が成立するかのシミュレーション

  • オーナー不在でも1店舗目が安定して回る状態になっているか 

     

「今すぐ出す」より「整えてから出す」の方が、結果的に早く多店舗展開を成功させられます。出店判断に迷っているなら、まず4軸チェックリストを埋めることから始めてください。チェックが入らない項目が、今あなたがやるべきことです。

佐野 美涼
マレーシアの大学で国際ビジネスを学び、現在は日本の良さを海外へ届けるためにインターンシップを行っています。情報があふれる時代だからこそ、「わかりやすく」「ちょっと背中を押してくれる」記事を届けたいと思っています。
佐野 美涼
マレーシアの大学で国際ビジネスを学び、現在は日本の良さを海外へ届けるためにインターンシップを行っています。情報があふれる時代だからこそ、「わかりやすく」「ちょっと背中を押してくれる」記事を届けたいと思っています。