「売上が伸びても利益が残らない」飲食店経営者の方へ、まず整理すべき30日間で改善できるチェックリスト

「今月も売上は前年を超えた。でも、なぜか利益が薄い」——複数店舗を管理する本部が直面する典型的な悩みです。原因は1つではなく、原価・人件費・家賃・DX投資・清掃コストなど複数の要因が複合的に絡み合っているケースがほとんどで、どこから手をつけるべきか整理できないまま時間が過ぎてしまうことも珍しくありません。

帝国データバンクの調査では飲食店の94.6%が仕入れ価格上昇に直面しており、これは全業種で最も高い水準です。一方で価格転嫁できた店舗は64.9%にとどまり、約30ポイントの差額を店舗側が自己負担で吸収している計算になります。「売上は伸びているのに利益が薄い」状態は、多くの場合この構造的な板挟みが原因です。

この記事は、増収減益に陥っている本部が30日間で課題を棚卸しするためのチェックリストです。各週で確認すべき領域を区切り、該当する詳細記事へのリンクも添えています。自社の状況に当てはめながら読み進めてください。

この記事のPoint
  • Week1〜4で領域ごとに確認項目を整理。1日1項目のペースで進められる構成にしています

     

  • 「該当しそうな項目」だけ拾い読みしても構いません。すべてを一度にやる必要はありません

     

  • 各項目の最後に、より詳しく判断したい場合の関連記事リンクを設置しています

     

  • 最終的に複数領域で課題が重なっている場合、個別相談での整理をおすすめします

なぜ「売上が伸びても利益が残らない」のか?

 

この状態の原因は、大きく分けると5つの領域に分散しています。原価率の上昇、人件費構造の歪み、固定費(家賃)の重さ、DX投資の費用対効果、見えにくい運営コスト(清掃・保守等)です。

20261月時点の飲食店の原価率目安は、物価高騰の影響でかつての30%前後から3637%程度が現実的な水準に水準になりつつあるとされています (金融庁「業種別支援の着眼点」)。「原価率30%を超えたら注意すべき」という旧来の基準のまま経営判断をしていると、実態とズレた対応をしてしまうリスクがあります。

まずは自社がどの領域に問題を抱えているのかを、30日かけて棚卸ししていきましょう。

Week1:原価・FLコストの棚卸し

最初の1週間は、利益構造の土台である原価率とFLコスト(食材費+人件費)を確認します。

 

 店舗ごとの原価率を計算する

「売上原価÷売上高×100」で店舗ごとの原価率を算出してください。本部全体の平均値だけでなく、店舗別・業態別に分解することで「どの店舗が利益を圧迫しているか」が見えてきます。

 

 FLコストが60%を超えていないか確認する

食材費と人件費を合わせたFLコストは、売上高の60%以内が健全な経営の目安とされています。原価率が低くても人件費が高ければFLコストは悪化します。原価率と人件費率を別々に見るのではなく、必ず合算で確認してください。

 

歩留まり・ロス率を確認する

「理論原価率」と「実際原価率」の差を確認してください。仕入れた食材のうち実際に使える割合(歩留まり)を考慮せずに原価率を計算していると、廃棄ロス・オーバーポーションによる隠れたコストを見逃します。週単位の棚卸しを実施していない店舗があれば、この期間に始めることを推奨します。

 

価格転嫁の進捗を確認する

仕入れ価格の上昇に対して、メニュー価格への転嫁がどの程度進んでいるかを店舗別に確認してください。全店舗が94.6%の仕入れ価格上昇に直面している一方、価格転嫁できているのは64.9%にとどまるというデータがあります。値上げを先送りしている店舗があれば、その理由(客離れへの懸念・競合との価格差等)を整理してください。

 

Week2:人件費・店舗オペレーションの棚卸し

2週目は人件費構造とオペレーションの効率性を確認します。人手不足倒産が急増している環境下で、人件費は「削る」より「構造を見直す」視点が重要です。

 

 時間帯別の人員配置と売上を照合する

ピーク時に対して閑散時間帯の人員配置が過剰になっていないかを確認してください。シフトが固定化されたまま売上の波に対応できていないケースは、人件費率を押し上げる典型的な原因です。

 

離職率と採用コストを算出する

直近1年間の離職率と、1人あたりの採用・研修コストを店舗別に算出してください。離職が続いている店舗は、採用費だけが積み上がり利益を圧迫している可能性があります。詳しくは「飲食店の人手不足は『採用』だけでは解決しない」も参考にしてください。

 

オペレーションの「なくせる・減らせる・まとめられる」業務を洗い出す

各店舗のスタッフに「今週一番時間がかかった業務」をヒアリングしてください。不要な日報・過剰な仕込み量・まとめられる発注業務など、投資ゼロで改善できる業務が見つかることがあります。

 

モバイルオーダー等導入余地を確認する

人手不足が深刻な店舗・客単価が高く回転率向上の余地がある店舗を優先的に洗い出してください。全店一律でDXツールを導入する前に、効果が出やすい店舗から段階的に進める方が費用対効果は高くなります。判断軸の詳細は「モバイルオーダーは『全店』導入が正しいか?」を参考にしてください。

 

Week3:固定費(家賃)と店舗構造の棚卸し

3週目は、変えにくいと思われがちな固定費——特に家賃と店舗の坪効率——を見直します。

 

店舗別の家賃比率を確認する

家賃が月次売上の何%を占めているかを店舗別に算出してください。飲食店の家賃比率は売上の710%が目安とされ、15%を超えて継続している店舗は固定費過多の可能性があります。

 

坪あたり売上を確認する

「月商÷坪数」で店舗の面積効率を確認してください。坪あたり月次売上が2万円以下の店舗は、使いきれていない面積がコストとして重くのしかかっている可能性があります。縮小移転・小型店舗化が選択肢になるケースもあります。詳細は「売上はあるのに利益が残らない飲食店は、縮小移転で立て直せるか?」を参考にしてください。

 

赤字店舗の継続可否を判断する

家賃比率・FLコスト・運転資金の3指標を見て、テコ入れで改善可能か、縮小・退店を検討すべきかを店舗ごとに仕分けしてください。判断基準の詳細は「赤字店舗をいつまで抱えるべきか?」のチェックリストを活用できます。

 

今後の出店計画を再点検する

拡大計画がある場合、新規出店が既存店の利益構造を悪化させていないかを確認してください。出店判断の4軸(財務・人材・オペレーション・外部環境)は「多店舗展開は『いつが正解』か?」のチェックリストで再確認できます。

 

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Week4:見えにくい運営コストと衛生・リスク管理の棚卸し

最終週は、日々の損益計算書には表れにくいが、長期的にコストとリスクを生む領域を確認します。

 

清掃・メンテナンスコストの最適化余地を確認する

清掃業者への依頼が「汚れが目立ってから」の場当たり対応になっていないかを確認してください。定期清掃に切り替えることで、緊急対応コスト(詰まり・害虫駆除等)を未然に防げる場合があります。業者選びの基準は「飲食店の清掃業者はどう選ぶ?」を参考にしてください。

 

ダクト・厨房設備の法令対応状況を確認する

ダクト清掃の消防法上の義務・HACCPに沿った衛生管理の実施記録が、各店舗で適切に残されているかを確認してください。法令対応の不備は保健所・消防署の指摘リスクに直結し、最悪の場合は営業停止につながります。

 

退店・原状回復に関わる契約条件を再確認する

将来的に退店・移転の可能性がある店舗について、賃貸借契約書の原状回復条項・退去予告期間を事前に確認しておいてください。退店判断が必要になってから契約書を見直すのでは、選択肢が狭まります。詳細は「飲食店の原状回復はどこまで必要?」を参考にしてください。

 

採用・人材戦略の前提が変わっていないか確認する

特定技能「外食業」の新規受け入れ停止など、外部環境の変化が採用計画に影響していないかを確認してください。外国人採用に依存した採用戦略を組んでいる場合は、母集団の多様化・育成内製化への切り替えを検討するタイミングです。詳細は「特定技能だけに頼り切らない飲食店採用戦略」を参考にしてください。

 

30日間の棚卸し結果を一覧化する

Week14で確認した項目を一覧にまとめ、店舗別・領域別に「要対応」「経過観察」「問題なし」で仕分けしてください。複数領域にまたがって「要対応」が重なっている店舗から優先的に着手することで、限られたリソースを最も効果の高い箇所に投下できます。

 

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30日チェックリスト一覧表

以下はこれまでのチェックリストを簡単に一覧でまとめたものになります。これらを参考にぜひ取り組んでみてください!

 

領域

確認する主な指標

Week1

原価・FLコスト

原価率・FLコスト比率・歩留まり・価格転嫁の進捗

Week2

人件費・オペレーション

人員配置・離職率・採用コスト・DX導入の優先度

Week3

固定費・店舗構造

家賃比率・坪あたり売上・赤字店舗の継続可否・出店計画

Week4

運営コスト・法令対応

清掃コスト・消防法/HACCP対応・契約条件・採用戦略の前提

 

棚卸しの結果、複数領域に課題が重なっていたら

30日間の棚卸しを終えると、多くの場合「1つの問題」ではなく「複数の問題が連鎖している」ことが見えてきます。原価率の上昇を放置した結果、値上げのタイミングを逃し、人件費を削って対応しようとして離職が増え、結果的に採用コストが膨らむ——というように、領域をまたいだ悪循環が起きていることが少なくありません。

こうした複合課題は、本部内だけで一度に解決しようとすると優先順位がつけにくく、結局どれも中途半端になりがちです。領域ごとに専門家へ相談しながら、並行して整理を進めることが現実的なアプローチです。

まるっと飲食情報局では、出店・退店・人材・DX・清掃・海外展開など、飲食店経営の各領域に関する記事を継続的に発信しています。この記事で気になった項目があれば、関連記事から詳細を確認した上で、該当するサービスへの個別相談もご活用ください。

よくある質問

 

30日間すべてに取り組む時間がありません。優先順位はありますか?

時間が限られる場合、Week1(原価・FLコスト)とWeek3(固定費・店舗構造)を優先することを推奨します。この2領域は店舗別の利益構造に直接影響する範囲が大きく、棚卸しの効果が数字としてすぐに見えやすい領域です。

 

店舗数が多く、全店舗を一度に確認するのは現実的ではありません。どう進めればいいですか?

まず「直近3ヶ月で利益率が悪化している店舗」を35店舗ピックアップし、その店舗から30日チェックリストを実施することをおすすめします。問題のパターンが見えてきたら、同様の傾向がある店舗へ横展開する形が効率的です。

 

原価率36~37%という数字は自社にも当てはまりますか?

業態によって適正な原価率は大きく異なります。寿司・高級日本料理は原価率45%前後でも客単価の高さで成立しますが、居酒屋やカフェは2533%程度が目安とされています。3637%という数字は全体平均の目安であり、自店の業態に応じた適正水準と比較することが重要です。

 

複数の領域で課題が重なっている場合、どこから手をつけるべきですか?

「投資ゼロまたは低投資で着手できる領域」から始めることを推奨します。オペレーションの棚卸し(不要業務の削減)や価格転嫁の見直しは大きな初期投資なしに着手できます。一方、縮小移転やDX導入などまとまった投資が必要な施策は、棚卸し結果をもとに費用対効果を試算してから判断してください。

 

まとめ|「利益が残らない」は1つの原因ではなく構造の問題

「売上が伸びても利益が残らない」という状態は、単一の原因で説明できることはほとんどありません。原価・人件費・家賃・DX投資・運営コストという複数の領域が複合的に絡み合った結果として表れます。

 

30日チェックリストの目的は、すべてを一度に解決することではなく、「自社がどの領域に課題を抱えているか」を可視化することです。可視化できれば、優先順位をつけて着手することができます。

 

Week14のどこかで「要対応」項目が複数重なった店舗が見つかったら、それが本部としてまず取り組むべき店舗です。そこから1つずつ、関連記事や専門家への相談を活用しながら、構造を整理していってください。

佐野 美涼
マレーシアの大学で国際ビジネスを学び、現在は日本の良さを海外へ届けるためにインターンシップを行っています。情報があふれる時代だからこそ、「わかりやすく」「ちょっと背中を押してくれる」記事を届けたいと思っています。
佐野 美涼
マレーシアの大学で国際ビジネスを学び、現在は日本の良さを海外へ届けるためにインターンシップを行っています。情報があふれる時代だからこそ、「わかりやすく」「ちょっと背中を押してくれる」記事を届けたいと思っています。