飲食店を開業するなら注目!換気・トイレ・厨房設備の設計と法律基準のポイントとは?

飲食店に必要な設備に関する記事のアイキャッチ

はじめに

飲食店を開業・運営する上で、「美味しさ」や「サービス」だけでなく、建物の設計や設備にも法律のルールがあります。
たとえば、「換気設備」や「手洗い場の設置」は、法律で必ず守らなければならない条件です。

知らずに設計を進めると、営業許可が下りなかったり、追加工事で数十万~数百万円の損失につながることもあります。

この記事では、飲食店を開業予定の方やすでに経営されている方に向けて、店舗設計で注意すべき法律や基準をわかりやすく解説します。
特に「換気設備」に関する重要ポイントや、設計時によくあるミスも取り上げますので、ぜひ参考にしてください。

「この設計で本当に大丈夫?」と不安な方も、この記事を読めばチェックポイントがはっきりします。失敗を避けるための知識を手に入れましょう。

 

換気扇



 飲食店での換気ってどこまで必要?法律で決まってるの?

「換気ってどこまでやればいいの?」

実は飲食店の設計で、換気は法律でも決められている大事なポイント。

知らずに進めると、営業許可が下りない・追加工事が発生するなど、あとで大きなトラブルになることもあります。

 

 飲食店における換気の義務、押さえていますか?

飲食店では「換気」が法律で決まっていて、必ず行わなければいけません。

 これは「食品衛生法」に基づく施行規則(厚生省令第38号)や、各自治体が定める「施設基準」で定められています。

その中で、店内の空気をきれいに保つため、換気設備を設置することが求められています。

特に、火を使う厨房では換気扇や排気フードが必須です。
調理で出る煙や臭い、湿気を外に逃がすことで、お客さんや従業員が快適に過ごせる環境を維持できます。

しかし、換気設備の不具合を放置したまま営業を続けると重大な事故を引き起こすリスクがあります。

実例:換気不足で一酸化炭素中毒に

実際に、あるファーストフード店では、換気扇が故障した状態で厨房のガス機器を使用し続けたため、スタッフと修理業者が一酸化炭素中毒になり緊急搬送される事故が起きました。

換気扇の代わりに扇風機を設置して営業を継続していたものの、不十分な換気により店内に有毒ガスが充満していたのです。

設備の不具合に気づきながらも適切な対応を怠ると、このように命に関わる深刻ない事故につながる可能性があります。

 

飲食店の換気量、基準に沿って確かめていますか?

飲食店の厨房では、調理中に発生する熱気・煙・湿気・油分などを効率よく排出する必要があります。
法律で具体的な「換気回数」が明記されているわけではありませんが、実務上は「1時間に厨房内の空気が10〜15回入れ替わる」ことを基準に設計されるケースが多いです。

これはあくまで設計業者や換気設備メーカーなどで広く採用されている目安であり、義務ではありません。
地域の保健所によって、換気に関する設備の考え方や指導内容が異なる場合があるため、開業前には確認が重要です。

また、コロナ禍以降は店舗全体の空気環境にも注目が集まりました。
一部の自治体では、二酸化炭素濃度(CO₂)を1000ppm以下に保つことを推奨している例もあり、CO₂センサーの設置や常時換気を求められるケースもあります。

 


 飲食店で法律上トイレや手洗い場って必須なの?

「トイレがないと営業できない」って本当?
開業後に後悔しないために、飲食店に必要なトイレ・手洗い場の基準を整理します。

トイレのマーク

飲食店のトイレ設備、準備できていますか?

飲食店では、従業員専用のトイレを設けることが求められています。
これは、厚生労働省が示す「施設基準の考え方」に基づき、各自治体の条例営業許可基準でも規定されています。

たとえば東京都では、

  • ・施設内または同一建物内に便所を設けること

  • ・手洗い設備を併設すること

とされています。

そのため、トイレがないと営業許可が下りないケースが多く、設置は必須と考えましょう。

一方、お客様向けのトイレについては、法律で一律に義務づけられているわけではありません。
ただし、地域や店舗の規模によっては、顧客用トイレがないと営業許可が出ないケースもあります。

とくに都市部の店舗では、トイレ未設置が苦情や利用者離れにつながることも少なくありません。

なお、従業員用トイレとお客様用トイレは基本的に兼用しても問題ありません。
ただし、兼用の場合でも清潔な設備が求められ、自治体によっては従業員専用トイレの設置を求めることもあるため、開業前に地域の保健所へ相談することをおすすめします。

さらに、バリアフリー対応のトイレを設置することで、自治体の補助金の対象となることもあります。

開業時の設計段階で、地域ごとの設計基準や補助制度を確認しておくことが重要です。

 

飲食店の手洗い場、基準を守れていますか?

飲食店の厨房内には、必ず「専用の手洗い設備」を設けることが法律で求められています。
これは調理に関わる従業員が衛生的に手を洗える環境を確保するためです。

さらに、調理場用の手洗い設備とは別に、食器を洗うための流し台や、野菜や果物を洗うための洗浄設備も必要とされます。
これらはそれぞれ用途が異なるため、施設のレイアウトや配管設計に大きく影響します。

手洗い場が不足していたり使いづらい配置だと、衛生管理が難しくなり、営業許可の審査で問題になることもあります。
そのため、設計段階で必要な設備の種類や設置場所をしっかり把握しておくことが大切です。

また、衛生面だけでなく、従業員の作業効率や動線にも配慮した設計が求められます。
手洗い場は調理の流れを妨げず、スムーズに使える位置に設置しましょう。

 


飲食店はどんな場所でも出店できる?立地と法律の関係

「いい物件が見つかれば、どこでもお店が開ける」……実はそうとは限りません。

飲食店の出店には、土地の用途や法律による制限があるため、希望のエリアに出せないケースもあります。ここでは、出店場所と法律の関係についてわかりやすく解説します。

注意点!!

 住居地域に飲食店は出すときのポイント、押さえていますか?

飲食店は、どこにでも自由に出店できるわけではありません。
土地には「用途地域」と呼ばれる分類があり、これは都市計画法という法律に基づいて定められています。

たとえば「第一種低層住居専用地域」などの純粋な住宅エリアでは、原則として飲食店の営業は認められていません
小規模なカフェや喫茶店であっても、用途地域の制限により出店ができないケースがあります。

※ただし、建物の大部分が住宅で、店舗の広さが50㎡以下など、建築基準法の条件を満たす「住居兼店舗」の場合は、例外的に飲食店の営業が認められることもあります。

一方で、駅前や人通りの多いエリアに多い「近隣商業地域」や「商業地域」「準工業地域」などでは、飲食店営業が可能です。
そのため、出店候補地がどの用途地域に該当するかを、あらかじめ確認しておくことが重要です。
これは、自治体の都市計画図や建築指導課で調べることができます。

用途地域に反して出店計画を立ててしまうと、物件契約後に営業できないリスクがあるため要注意です。

 


騒音や臭いのトラブルにも注意

また、立地に関するトラブルで多いのが「臭い」や「騒音」です。
とくに換気や排気が原因となって、近隣住民から苦情を受けるケースが目立ちます。

たとえば、排気ダクトの出口が隣家の窓の方向に向いていると、調理の煙や臭いが直接流れ込み、トラブルに発展することもあります。
住宅密集地では、夜間の厨房の音やスタッフの声などが問題になることもあります。

これらを防ぐには、設計段階で排気の方向・高さ・風向きなどを十分に検討する必要があります。
近隣との境界が狭い場合は、防音・消音ダクトや脱臭フィルターの設置も検討しましょう。

立地選びでは、物件の立地条件だけでなく、周囲との関係性や設備設計も含めて慎重に判断することが、円滑な営業につながります。

 


飲食店に必要な広さと設備は?厨房と客席の法律基準

飲食店の厨房や客席には、法律で定められた広さや設備の基準があります。快適で安全な店舗運営のために、具体的なポイントを押さえておきましょう。

 

 飲食店の厨房、どのくらいの広さを確保していますか?

法律上は「調理作業が衛生的に行える広さ」が必要とされています。 ただし、具体的な広さの数値は自治体によって異なり、地域の保険所で確認が必要です。

一般的な目安としては以下のような広さが多く見られます:

  • ・客席10~15席程度:厨房面積は5~6㎡以上

  • ・客席20~30席:厨房面積は8㎡以上

また、厨房と客席の間にドアや仕切りがあることも求められる場合があります。これは、厨房の熱や臭いが客席に流れ込むのを防ぐためです。

 

 飲食店の冷蔵庫やシンク、基準はチェックしていますか?

食品を安全に保管するためには、適切な冷蔵・冷凍設備が不可欠です。冷蔵庫・冷凍庫は、食材の種類や量に応じて十分な容量を確保しなければなりません。

たとえば、1日あたり50食を提供する中規模の飲食店では、100リットル以上の冷蔵庫が必要とされるケースがあります。また、冷凍庫は食材の鮮度を保つために-18℃以下での保存が求められ、冷凍食品のストック量に応じて200リットル以上の容量を用意することが一般的です。

また、上でも触れましたが、シンク(流し台)は複数設置することが一般的です。衛生面を考慮し、用途ごとに分けられています。

たとえば、

  • ・食器洗浄用のシンク

  • ・食材を洗うためのシンク

  • ・手洗い専用のシンク

これらを別々に設けることで、交差汚染を防ぎ、衛生的な調理環境を維持します。

こうした設備に関する基準や注意点は、「食品衛生責任者」の講習でも詳しく教えられているため、開業前に受講しておくことが大切です。

※食品衛生責任者の資格取得には、都道府県ごとに開催される「食品衛生責任者養成講習会」の受講が必要です。講習会の申し込みは各都道府県の食品衛生協会や保健所のホームページから行えます。



飲食店設計段階でありがちな落とし穴とは?

設計段階での失敗は、どうして起きやすいのでしょうか?換気設備や保健所の基準、さらに消防法や建築基準法との整合性はクリアできていますか?これらを確認せずに進めると、後で大きな問題になることも。トラブルを防ぐために、今一度しっかりチェックしておきましょう。

換気扇

飲食店の換気設備、容量は十分ですか?

意外と見落とされがちなのが、換気扇や排気設備の性能不足です。

見た目や価格だけで選んでしまうと、実際に必要な換気量を満たせず、換気が不十分になることがあります。

換気量が足りないと、保健所の営業許可が下りなかったり、調理臭や煙が店内や周囲にこもってしまい、近隣からの苦情が発生するリスクが高まります。換気設備は、専門業者とよく相談しながら適切な容量を確保しましょう。

 

 飲食店の設備は保健所基準に合っていますか?

設計や施工を専門家に任せることは大切ですが、保健所の基準を把握しないまま進めてしまうと、「厨房に必要な手洗い場が設置されていなかった」など、基準を満たさない設備になってしまうおそれがあります。

保健所の許可を得るには、設備が定められた施設基準をクリアしていなければなりません。

事前に保健所へ相談せずに工事を始めてしまうと、後から指摘を受け、工事のやり直しや追加工事が必要になることも。結果として、余計なコストや時間がかかってしまいます。

 

 飲食店の設計、消防・建築法のルールは確認済みですか?

飲食店の設計を進める際は、食品衛生法だけでなく、消防法建築基準法といった他の法律も守る必要があります。

消防法は火災を防ぐためのルールを定めた法律で、ガス設備の位置や消火器の設置などが対象になります。建築基準法は、建物の安全性や避難経路の確保などについて定めた法律です。

たとえば、ガス設備の設置場所が防火基準に合っていない、避難通路が狭すぎるといったトラブルは、実際によくあります。

こうした問題は、工事が終わったあとに修正しようとすると、多額の費用やスケジュールの遅れにつながります。

そのため、設計の初期段階から保健所や消防署、建築の担当部署などと連携し、必要な基準を事前にしっかり確認しておくことが大切です。



まとめ|飲食店の換気・設備で“営業許可を落とさないために”今できること

飲食店を開業・運営するには、換気やトイレ、厨房の広さなど、法律で定められたさまざまな基準を満たすことが欠かせません。
これらのルールを守らないと、営業許可が下りなかったり、罰則を受けたりするリスクが高まります。だからこそ、事前にしっかり準備して確認することが非常に重要です。

安心して営業を続けるためには、法律を守るだけでなく、お客様に快適で安全な環境を提供することが成功の鍵です。
専門家や保健所と早めに相談し、店舗設計の段階から万全の体制を整えて、信頼される飲食店を目指しましょう。

法律を味方に、しっかりした基盤を作ることで、あなたのお店の未来は明るく開けます。今すぐ行動を始めて、安心・安全な店舗運営を実現しましょう。


豊幡佳乃
立命館大学 法学部 大学で法律を専門的に学び、法的知識を基盤に飲食業界向けの記事を執筆。食べることが大好きという自身の関心を活かし、飲食店経営者やスタッフの方々が直面しやすい法律問題や制度のポイントを、専門用語をかみ砕きながらわかりやすくお届けしていきたいと考えています。
豊幡佳乃
立命館大学 法学部 大学で法律を専門的に学び、法的知識を基盤に飲食業界向けの記事を執筆。食べることが大好きという自身の関心を活かし、飲食店経営者やスタッフの方々が直面しやすい法律問題や制度のポイントを、専門用語をかみ砕きながらわかりやすくお届けしていきたいと考えています。