飲食店の営業許可、更新忘れや届出ミスで営業停止に?知らずに違反しないための対策を解説

飲食店の営業許可に関する記事のアイキャッチ

はじめに

「営業許可って、開業のときに取ればもう安心でしょ?」そう思っていませんか?

実はそれ、飲食店経営の“落とし穴”かもしれません。 取得した許可を放置していたり、変更届を出し忘れたりすると、知らぬ間に重大な違反をしていた…なんてことも。違反が発覚すれば、営業停止や許可取消、さらには廃業に追い込まれるリスクすらあります。

この記事では、中小規模の飲食店を経営・運営する皆さんに向けて、営業許可の基本、ありがちな違反例、そして日常のリスク管理や対策までを、わかりやすく解説します。

「営業許可?もう取ってるから大丈夫」――そう思った方こそ、ぜひ最後まで読んでください。思わぬ盲点が見つかるかもしれません。

営業許可

【営業許可って何?】飲食店が必ず守るべき基本ルールとは

飲食店を開業するには、「営業許可」を取ることが法律で義務づけられています。
これはお店が“安全に食を提供できる環境かどうか”を保健所が確認する制度で、取らずに営業すると営業停止や罰則の対象になることもあります。
ここでは、飲食店が守るべき基本ルールや、許可を取る際の注意点をわかりやすく解説します。

 

 飲食店の営業許可とは?どんなお店が対象になるの?

「飲食店って、届け出さえ出せば始められるんでしょ?」――そんな誤解をしていませんか? 実は、営業を始めるには“ある許可”が必須です。

飲食店を始めるには、保健所から「飲食店営業許可」を取得する必要があります。

これは、食品衛生法第55条に基づき、飲食物を提供する施設が衛生的な管理基準を満たしていることを確認したうえで、自治体(保健所)が発行する公的な許可です。

レストラン、カフェ、居酒屋はもちろん、テイクアウト専門店やキッチンカー、デリバリー中心のゴーストレストランなども対象です。

かつては「喫茶店営業許可」との区分もありましたが、2021年の法改正により統合され、現在はすべて「飲食店営業許可」に一本化されています。

⚠️ 申請内容や業態に応じた基準があるため、保健所への事前相談がカギです!

 

 許可を取るには何が必要?手続きの流れと注意点

「営業許可って、書類を出せばもらえるんでしょ?」――そう思って準備を進めると、思わぬ落とし穴にハマるかもしれません。

営業許可を取得するには、以下のような準備と手続きが必要です。

  • 保健所への申請

  • 厨房の設備基準を満たすこと
     → たとえば「手洗い場の数」「二槽シンクの設置」「作業導線の確保」「換気設備の設置」などが必要になります。これらの設備基準は地域や保健所によって細かく異なるため、ネットの情報だけで判断せず、設計段階から保健所に事前相談することが重要です。

  • 食品衛生責任者の設置
     → 「食品衛生責任者」は、店舗の衛生管理を担う重要なポジションです。通常は店長やオーナーが就任し、1日程度の講習を受けて資格を取得します。店舗ごとに1名の配置が義務付けられており、保健所の立ち入り検査でも必ず在籍の有無がチェックされます。

  • 開業前の立ち入り検査
     → 保健所が現地に出向き、厨房設備や衛生状態が基準を満たしているかを確認します。検査に不合格となると、オープンが遅れるだけでなく、追加工事が必要になることもあるため注意が必要です。

 

よくあるトラブルの一つが、「内装工事がすべて完了してから申請を行い、排水設備が基準に合っておらず、やむなく工事をやり直すことになる」というケースです。このような事態になると、時間もお金も大きなロスに……。

✅ポイント:設計段階から保健所に図面を見せて相談するのがベスト!

多くの保健所では「事前相談」を強く推奨しています。実際、東京福祉保健局の『食品衛生関係営業許可申請の手引き』にも、「施設の工事着工事前に設計図等を持参の上、事前にご相談ください」と明記されています。(東京都保険医療局)

東京都食品関係営業許可申請の手引 - hokeniryo1

【営業許可は取りっぱなしでいいの?】飲食店の運営中にも必要な管理と更新

クエスチョンマークと人

営業許可の有効期限の存在、忘れていませんか?

一度取ったら一生モノ…ではありません。営業許可には多くの自治体で5〜8年の有効期限があります。

期限切れに気づかず営業を続けると、「無許可営業」となり、営業停止命令を受ける可能性も。

👉 対策として、「許可証の期限」をスタッフ用掲示板などに明記し、カレンダーやリマインダーで通知設定しておくのが有効です。

📌特にオーナーが複数店舗を管理している場合、把握漏れが起きやすいため、Exelやクラウド型の店舗管理ツールで一元管理するのがおすすめです。

🔍 よくある疑問、ここで解決!

  • 更新通知は来るの?
     → 自治体によっては事前通知が届くこともありますが、基本は自分で期限を管理する必要があります。

  • 更新手続きって簡単?
     → 実は「更新」というより**「再申請」の扱い**になることが多く、再度、必要書類の提出や施設の衛生確認などを求められるケースも。余裕を持って準備を進めることが重要です。
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改装・メニュー追加でも営業許可違反になることがある!

店舗の改装や新メニューの導入――じつはこれも、保健所への届出や許可変更が必要になることがあります。

  • ・生肉・生魚メニューを追加する
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  • ・厨房のレイアウトを変える

たとえば「シンクの数を減らす」「手洗い場を移動する」「加熱調理スペースや冷蔵設備の配置を大きく変える」など、衛生面や動線に影響する変更は、保健所への事前相談が必要なケースが多くなります。

※これは、食品衛生法施行規則第71条で「構造設備を変更する際の手続き」が定められているためです。小さな変更でも、許可内容と異なる状態になると“違反”とみなされるリスクがあります。

  • ・営業スタイルを大きく変える(イートイン → テイクアウト中心 など)

 

✅営業内容を変更する前に、まず保健所に相談することが最も確実です。

👉 営業許可を“守る”ためには日常点検が重要! 第5章では、トラブルを防ぐ「チェックリスト」も紹介しています。更新漏れや改装時の確認不足を防ぐためにも、日々の管理体制を整えましょう。


【飲食店でよくある失敗とは?】飲食店がやりがちな営業許可の落とし穴

営業許可を取ったあとも、日常の衛生管理や設備点検を怠ると違反になることがあります。特に清掃の不備・責任者不在・届出漏れなどは、多くの店舗で起きやすいミスです。


ここでは、実際に営業停止につながる「よくある失敗例」と、その防止策を紹介します。

 

 飲食店の清掃や設備不備による衛生違反

飲食店の衛生管理は、営業許可を守るうえで最も重要なポイントの一つです。換気が不十分で空気がこもってしまったり、冷蔵庫の温度管理が適切でないと、食品の劣化や細菌繁殖の原因になります。また、厨房の床にひび割れがあると、汚れや害虫の温床になりやすく、衛生基準違反とされます。

【想定されるケース】冷蔵庫の故障を放置し、食品が腐敗。抜き打ち検査で細菌が検出され、営業停止処分。

【対策ポイント】

  • 冷蔵庫・冷凍庫の温度を毎日チェックし、適切な温度帯(冷蔵庫は通常0〜5℃、冷凍庫は−18℃以下)を維持する

  • 排水口やシンクは定期的に清掃し、詰まりや悪臭を防止

  • 厨房の床や壁のひび割れは早急に補修し、清掃しやすい環境を整える

  • 換気扇や換気設備の定期メンテナンスを欠かさない

こうした日常の衛生管理が不十分だと、衛生面の指摘を受けやすく、営業停止のリスクが高まります。

さらに、食品衛生管理の重要なポイントとして、『HACCP(ハサップ)』という仕組みがあります。これは食品が安全に提供されるように、調理の過程で危険がないかをチェックし、問題を未然に防ぐ方法です。

たとえば、食材の温度管理や調理器具の清掃記録をきちんと残すことが求められます。

2021年からは多くの飲食店でこのHACCPに基づいた管理が法律で義務化されています。これを守ることで衛生違反のリスクを大きく減らすことができます。

日々の清掃と設備点検に加え、こうした衛生管理のルールを理解し実践することが大切です。

⇒詳しくは厚生労働省の公式サイト『HACCP』ページをご確認ください』

HACCP(ハサップ)|厚生労働省

 

 責任者不在やスタッフ教育不足によるミス

「うちは衛生管理ちゃんとしてるから大丈夫」――本当にそう言い切れますか?

衛生管理の責任者が不在の時間帯、現場では思わぬ“落とし穴”が潜んでいます。

食品衛生責任者がシフトに入っていない時間帯や、アルバイトが独断で調理を行っていると、営業許可違反になることも。

📌食品衛生責任者とは?

食品衛生責任者は、店舗の衛生管理を担う中心的な存在で、営業許可を取得するために1店舗に1名以上の配置が義務付けられています。 通常は店長やオーナーが就任し、自治体が指定する講習を受講して資格を取得します。

【想定されるケース】店主がいない間にアルバイトが加熱不足のまま料理を提供 → クレーム対応後に調査 → 責任者不在が発覚 → 許可取り消し処分に。

「誰がやったか」より「店としての責任」が問われる点に注意しましょう。

📌衛生責任者だけでなく、パート・アルバイトを含めた全スタッフが「この食材はどう扱うべきか」「提供前にどの温度で保管すべきか」といった基本ルールを理解していることが大切です。簡単なマニュアルを配布したり、定期的な勉強会を行うことで、現場力は格段に向上します。

👉 スタッフのちょっとした判断ミスが「営業許可違反」だけでなく、深刻な「食中毒事故」に発展することも。

食中毒が発生した場合の法的責任やリスクについては、こちらの記事で詳しく解説しています:

🔗飲食店で食中毒が発生したら?保健所への連絡義務と法的責任を徹底解説!

 


【飲食店の営業許可違反でどうなる?】甘く見ていると取り返しがつかない処分も

点検をする女性

「知らなかった」では済まされない現実

営業許可の違反は、「うちは大丈夫」と油断している店舗でも起こりがちです。

とくに更新忘れや改装時の届出ミスは、全国各地の保健所でも注意喚起されており、ほんの些細な見落としが営業停止などの重大な処分に発展することもあります。

【事例】京都府与謝野町では、町の施設内にある飲食店が店舗を移転したあと、新しい営業許可を取らずに営業していたことが発覚。お店も町も「許可はあると思っていた」そうですが、後から保健所の指摘で営業停止になりました。

このように、更新忘れ・許可手続き漏れは行政の立ち入り・営業停止に直結します。「許可を取ったつもり」では済まされず、店側の法的責任が問われるリスクがあるのです。

京都新聞 2020年6月16日

京都新聞デジタル 京都・滋賀のニュースサイト

 

 具体的な罰則とその影響

たった一つの違反が、お店の信用を一瞬で失わせるかもしれません。

営業許可違反は、単なる“ルール違反”で済まないリスクをはらんでいます。

営業許可違反に対する主な処分内容:

  • 保健所の立入検査・警告
  • 書面での是正命令
  • 一定期間の営業停止(7〜30日)
  • 悪質な場合は営業許可取消、刑事処分(罰金・前科)
  • 店名公表、ネット拡散、予約キャンセルの連鎖

1つの違反が、顧客の信頼を大きく損なう引き金になることも。

📌とくにSNS時代の現代では、店舗名が拡散されたり、写真付きで「衛生違反があった」と投稿されれば、その影響は一気に全国規模に広がります。罰則そのものよりも「イメージダウン」こそが最大のダメージとなるケースも珍しくありません。

【実例】大阪王将「ナメクジ騒動」

2022年7月、仙台中田店の元従業員がX(旧Twitter)に「厨房でナメクジが大量発生」と写真付きで投稿。たちまち拡散し、店舗には苦情が殺到しました。しかし、保健所の調査では“数匹の侵入”しか確認されず、大量発生の証拠はナシ。その後2024年に投稿者は偽計業務妨害罪で起訴され、店舗はFC契約を解除されて閉店に追い込まれました。(※NHK報道では閉店については未記載)。

──虚偽の情報でも一度SNSでバズれば、店舗イメージは一気に崩壊する典型例です。

 

NHKニュース 2024年10月24日

https://www3.nhk.or.jp/tohoku-news/20241024/6000029184.html

 


【営業許可を守るには?】日常のリスク管理が飲食店経営の必須事項!

チェックリストと虫眼鏡

トラブルを未然に防ぐ「営業許可チェックリスト」

「忙しくてつい後回しに…」が、一番危ない。

営業許可を守るために大切なのは、“毎日の小さな気づき”です。

毎日または週ごとに、以下の点をチェックしておくと安心です。

  • 冷蔵庫・冷凍庫の温度は適正か
  • 害虫・ネズミの形跡がないか
  • 清掃記録を残しているか
  • メニューや内装に変更があるか
  • 許可証の有効期限が近づいていないか

目視・記録を日課にするだけでも、大きなリスクを回避できます。このチェックリストは、紙で印刷して厨房内やスタッフルームなどの“見える場所”に掲示しておくのがおすすめです。

日々の確認が自然と習慣になり、スタッフ全体の意識向上にもつながります。

以下は、違反しがちな店と違反を防ぐ店の特徴をまとめた比較表です。自店舗の状況を見直す参考にしてください。

 


項目

違反しがちな店

違反を防ぐ店

設備点検

トラブルが起きてから対応

チェックリストで予防

保健所対応

行政=怖いもの

疑問点は相談して早期解決

許可の管理

店長しか把握していない

掲示・共有・通知を徹底



 保健所とは“相談する関係”を築こう

保健所は監督機関であると同時に、地域の飲食店を支援するパートナーでもあります。「これって届出が必要?」「設備はこれで基準に合っている?」といった疑問があれば、早めに相談することがトラブル回避の近道です。

📌 相談内容はメモやメールで記録しておくとトラブル防止に役立ちます。

 

予期せぬ営業停止に備える方法も

営業許可に関する法律や手続きは、時代や地域によって更新・改正されることがあります。知らずにルール違反をしてしまえば、どれだけ誠実に営業していても、処分の対象になってしまいます。

とくに小規模店舗や個人経営では、「許可の更新期限を忘れていた」「改装のどこまでが届出対象かわからない」といった悩みが日常的に発生しがちです。

こうしたリスクに備える方法のひとつが、行政書士などの専門家と契約しておくこと。顧問契約を結んでいれば、法改正や行政通知の内容をいち早く把握し、必要な手続きや書類作成をスムーズに進められます。

📌 経営者がすべてを一人で背負わず、「外部の知恵と仕組み」を活用することも、安定経営には欠かせない戦略です。

 


おわりに|飲食店の営業許可を守るためのリスク管理と信頼づくり

営業許可は、開業時に一度取れば終わりというものではありません。

むしろ、日常的なリスク管理を怠れば、営業停止・許可取消・廃業・前科といった重大な結果につながります。中小規模の店舗こそ、こうしたリスクが経営に与える影響は大きいものです。

でも、ルールを知って正しく対応すれば怖くありません。チェックリストによる日常管理と、保健所との相談体制。この2つを“習慣化”することで、営業許可は「制限」ではなく「信頼を得る力」になります。

今こそ、営業許可を“武器”に変えて、安心・安全で選ばれる飲食店をつくっていきましょう!

そして何よりも大切なのは、「自分の店は大丈夫」という思い込みを捨てること。日々の管理を「他人事」から「自分事」へとシフトさせることで、トラブルを未然に防ぐ確率は格段に上がります。

今日からできる小さな工夫こそが、長く続く飲食店経営のカギとなるのです。

 

豊幡佳乃
立命館大学 法学部 大学で法律を専門的に学び、法的知識を基盤に飲食業界向けの記事を執筆。食べることが大好きという自身の関心を活かし、飲食店経営者やスタッフの方々が直面しやすい法律問題や制度のポイントを、専門用語をかみ砕きながらわかりやすくお届けしていきたいと考えています。
豊幡佳乃
立命館大学 法学部 大学で法律を専門的に学び、法的知識を基盤に飲食業界向けの記事を執筆。食べることが大好きという自身の関心を活かし、飲食店経営者やスタッフの方々が直面しやすい法律問題や制度のポイントを、専門用語をかみ砕きながらわかりやすくお届けしていきたいと考えています。