2025/10/16

食中毒を防ぐには?飲食店経営者が知っておきたい実務チェック

食中毒を防ぐポイントについて解説した記事のアイキャッチ

はじめに|なぜ食中毒防止は店長・経営者に重要なのか?

飲食店において食中毒の発生は、単なる一時的なトラブルでは済みません。健康被害を受けたお客様への影響はもちろんのこと、店舗の信頼やブランドイメージ、売上の減少、さらに従業員の生活にまで大きなダメージを与えます。ニュースやSNSで一度拡散されれば、その 評判リスクは数年以上続く可能性もあります。

特に中小規模の店舗では、一度の事故が営業継続に直結することも珍しくありません。大手チェーンであれば補填や再建の手段もありますが、個人経営や小規模飲食店では、営業停止や損害賠償で経営そのものが立ち行かなくなる危険もあります。

だからこそ、店長や経営者が「日常の小さな衛生管理を徹底すること」が、店舗の未来を守る最大の防御策になります。この記事では、食中毒が起きる前に取り組むべき衛生管理の実務対応、さらに過去の事例から学ぶ防止策を具体的に紹介していきます。

鮭・虫眼鏡・ウイルス


 食中毒を防ぐには?飲食店で注意すべき衛生ポイントは?

食中毒は、ちょっとした管理ミスでも発生する危険があります。
特に中小規模の飲食店では、一人のスタッフの手順ミスや温度管理の不備が直接お客様の健康被害につながることも。
ここでは、まず食材の仕入れ段階から調理、保存まで、日常業務で注意すべき衛生ポイントを具体的に解説します。

 

飲食店が食材選びで注意すべきことは?

安全な食材の仕入れは、食中毒予防の第一歩です。
信頼できる業者から購入するだけでなく、納品時に温度や外観を必ずチェックし、異常があれば受け取りを控えることが重要です。
生食用食材は「生食用」と表示されているものを使用し、加熱用と混同しないよう管理しましょう。
また、仕入れた食材は届いた当日に使い切るか、適切に冷蔵・冷凍して保存し、古いものや見た目に変化があるものは廃棄する習慣をつけることも大切です。


ポイント:仕入れ時の温度チェックは、冷蔵なら10℃以下、冷凍なら-15℃以下を目安にします。

 



飲食店の調理・保存の衛生管理はどうすればよい?

調理場での衛生管理も欠かせません。
調理器具は使用前後で必ず消毒・洗浄し、生肉や魚を扱った後は手洗い・手袋交換を徹底しましょう。
食材の加熱温度や時間も守ることが重要で、中心温度は75℃以上を目安に加熱します。また、調理中のクロスコンタミネーション(生食材から火を通す食材への菌の移動)も避ける工夫が必要です。
冷蔵・冷凍庫の温度管理は日々の記録を取り、温度のブレや故障を早期に把握できるようにしましょう。

さらに、調理スタッフの健康状態の把握も重要です。体調不良時の調理は食中毒リスクを高めるため、発熱や体調不良のスタッフは必ず調理を控えさせるルールを設けましょう。

 



日常の簡単チェックで食中毒を防ぐには?

忙しい中小店舗でも、日常業務に組み込める簡単チェックを行うことで予防効果が高まります。
例えば、毎日の食材管理や調理器具の消毒をスタッフ同士で相互にチェックする「ダブルチェック体制」を作るだけでも、ミスを未然に防ぐ効果があります。

 

チェックリスト例:

  • 食材の賞味期限・消費期限を確認

  • 冷蔵・冷凍庫の温度記録を毎日記録

  • 調理器具やまな板の消毒確認

  • 手洗いの実施をスタッフが相互チェック

  • 調理スタッフの健康状態の確認(発熱・体調不良時は調理禁止)

小さなチェックの積み重ねが、食中毒リスクを大幅に減らし、店舗の信頼と売上を守ることにつながります。

過去事例から学ぶ!飲食店で食中毒を招く典型的なミスは?

飲食店で食中毒が発生する原因はさまざまですが、実際のニュースや判例を見ると、いくつか典型的なミスに共通点があることがわかります。
ここでは、過去に報道された事件をもとに、どのような失敗が食中毒を招いたのか、そして同じ失敗を避けるためにどんな対策が有効かを解説します。
実際の事例を知ることで、日常の調理や衛生管理の中で注意すべきポイントを具体的にイメージでき、トラブル防止につながります。

お腹が痛い女性

 

生食用食材の扱いミス

事例:2011年に発生した某焼肉チェーンの集団食中毒事件では、ユッケなど生肉の提供により6歳から70歳までの5名が死亡、重症者も多数出ました。


原因:その飲食店では、生食用として使用したユッケの表面を削る「トリミング」が行われず、さらに売れ残りを翌日も提供していました。また、食肉卸売業者との加熱用・生食用の認識の違いもあり、調理場の衛生管理の不徹底と重なったことで集団食中毒が発生しました。


防止策:納品時の温度確認を徹底し、生食用食材は必ず加熱処理の有無を確認すること。また、生肉を扱う場合は専用の器具や調理台を使い、クロスコンタミネーションを防ぐ管理が必須です。

 


調理器具や厨房設備の清掃不足

事例:大阪の人気日本料理店では、集団食中毒の発生後に営業停止中にも仕出し弁当を提供したことで、経営者ら3人が食品衛生法違反で逮捕されました。


原因:店主や従業員がノロウイルスに感染していることが判明していたにもかかわらず、営業停止期間中に調理を行ったことが直接的な原因です。また、厨房設備や調理器具の衛生管理が徹底されていなかった可能性も指摘されました。


防止策:営業停止中は調理や販売を一切行わないことが絶対条件です。さらに、従業員の健康確認や感染症対策を徹底し、調理器具や厨房設備の洗浄・消毒を定期的に行うことで、食中毒リスクを大幅に減らすことが可能です。

 

飲食店の現場で役立つ!食中毒リスクへの実践対応

食中毒予防の基本を日常的に実践していても、予期せぬトラブルが発生することがあります。ここでは、現場で起こりやすいリスクとその対応方法を解説します。

 

納品時に食材に異常があった場合の対応

届いた食材が冷えていなかったり、包装が破損していた場合は、すぐに使用を中止する必要があります。

とくに生肉・魚介類は細菌やウイルスが増殖しやすく、たとえ外見上問題がなさそうに見えても、食中毒の原因となる可能性があります。そのため廃棄するか、必要に応じて保健所へ相談するのが安全です。

さらに、納品時に異常があった際には、仕入先にすぐに連絡し、返品や交換を依頼しましょう。ここで重要なのは「証拠を残すこと」です。温度計で測定した数値や、破損した包装の写真を記録として保存しておけば、後日のトラブル防止や、万一の行政調査にも対応しやすくなります。

実際に食中毒事件が発生した際、仕入れ業者とのやり取りや納品時の状況が調査対象となるケースは多くあります。日常的に「納品チェックシート」を作成し、担当者のサインを残しておくことが、店舗を守るうえで非常に有効です。

 

ポイント: 仕入れ時は温度計でチェックし、異常があれば写真や記録を残すとトラブル時に役立ちます。

 

スタッフの体調不良と食中毒感染症対策

調理スタッフが発熱や嘔吐、下痢などの症状を訴えた場合、無理に勤務させることは非常に危険です。

ノロウイルスやサルモネラ菌などは少量でも感染力が強く、厨房での調理を通じて多くのお客様に広がる恐れがあります。過去の食中毒事件でも「体調不良を押して勤務したスタッフ」が原因となったケースは少なくありません。

対応としては、症状があるスタッフを速やかに休ませることが第一です。

同時に、体調不良者が触れた調理器具や作業台、トイレ周辺は必ず消毒し、二次感染を防ぐことが重要です。

特に小規模店舗では人員不足から無理に働かせてしまいがちですが、長期的に見れば営業停止リスクを避けるためにも「休ませる勇気」が必要です。

また、急な欠員に備え、交代勤務や外部スタッフの手配ルールをあらかじめマニュアル化しておくと安心です。さらに「体調チェックシート」を導入して、出勤前にスタッフが自己申告できる仕組みをつくると、症状を見逃しにくくなります。

 

ポイント: 休業・交代勤務のルールをマニュアル化しておくと、急なトラブルでも対応がスムーズになります。

 

飲食店の食中毒トラブルとSNS・クレームへの初動対応

万一、食中毒が疑われる場合、保健所への連絡と同時に注意しなければならないのが「情報拡散」です。

近年はSNSや口コミサイトを通じて、わずかなクレームでも一気に広がり、店舗の信頼を大きく損なうことがあります。実際、誤情報を慌てて発信したことで、かえって炎上につながった例も少なくありません。

初動対応としては、まず事実関係を整理することが最優先です。

仕入れ記録や調理日誌、スタッフの体調管理記録をすぐに確認し、行政機関の指示に従って対応方針を決めます。このとき、「曖昧な謝罪」や「根拠のない否定」は逆効果になりやすいため、必ず確認済みの事実だけを伝えることが大切です。

また、日頃から記録を整理しておくと、短時間で正確な情報を公表でき、結果的に信頼回復が早まります。特に中小規模の店舗は広報担当者がいないケースが多いため、「誰が発信するか」を事前に決めておくことも重要です。

 

ポイント: 食材の仕入れ記録、調理日誌、体調管理記録などをまとめておくと、迅速に正確な情報を伝えられます。

 

小規模飲食店でもできる!衛生管理を続けやすくする工夫

スタッフが少ない小規模店舗では、大規模チェーンのように専門の衛生管理部門を持つことは難しいかもしれません。しかし、日々のちょっとした工夫で、食中毒リスクを大きく下げることは可能です。

たとえば、冷蔵庫や冷凍庫の温度チェックは、温度計の数値をスマホで撮影して保存すれば、記録用紙を準備するよりも簡単に継続できます。手洗いについても、チェックシートにスタンプを押す仕組みを取り入れるだけで「やったかどうか」が一目でわかり、従業員の意識も高まります。

さらに、衛生管理を「見える化」することは、従業員だけでなくお客様への安心感にもつながります。店内に「衛生チェック実施中」と掲示したり、調理場が見えるオープンキッチン形式にするのも効果的です。

このような小さな取り組みを積み重ねることで、保健所の立入検査でもスムーズに対応でき、信頼される店舗運営につながります。

 

ポイント: 簡易チェックでも日々の積み重ねが、食中毒予防に大きく寄与します。

 

 まとめ|飲食店では日常の小さな工夫が食中毒リスクを大きく減らす

  • 食材・調理・保存の衛生管理を徹底することは、飲食店経営の基本です。
    スタッフ教育とマニュアルの習慣化を進めることで、忙しい現場でも事故を未然に防ぐことができます。
    また、過去の事例を参考に「どこでミスが起きやすいか」を具体的に把握しておくことは、同じ失敗を繰り返さないために欠かせません。
    さらに、食中毒が疑われた場合に備えて、保健所への連絡体制を日頃から整えておくことが、緊急時の信頼回復につながります。

    このような日常の小さな積み重ねが、食中毒リスクを大幅に減らし、店舗の信頼と経営を守ります。

    そして、衛生管理は「コスト」ではなく「未来への投資」と捉え、積極的に改善や工夫を重ねていくことが、これからの飲食店経営の成長と競争力につながるでしょう。

 

豊幡佳乃
立命館大学 法学部 大学で法律を専門的に学び、法的知識を基盤に飲食業界向けの記事を執筆。食べることが大好きという自身の関心を活かし、飲食店経営者やスタッフの方々が直面しやすい法律問題や制度のポイントを、専門用語をかみ砕きながらわかりやすくお届けしていきたいと考えています。
豊幡佳乃
立命館大学 法学部 大学で法律を専門的に学び、法的知識を基盤に飲食業界向けの記事を執筆。食べることが大好きという自身の関心を活かし、飲食店経営者やスタッフの方々が直面しやすい法律問題や制度のポイントを、専門用語をかみ砕きながらわかりやすくお届けしていきたいと考えています。