2025/11/04
飲食店で急増中!知らぬ間に“違法残業”―36協定違反で書類送検も?
はじめに:飲食店の「長時間労働」、本当に大丈夫ですか?
飲食店では「忙しい時期だから仕方ない」「人がいないから」といった理由で、スタッフが長時間働くことが日常化しやすい現実があります。
しかし、こうした働かせ方は労働基準法第32条で定められた「1日8時間・週40時間」の上限を簡単に超えてしまうおそれがあります。もしそのまま放置すれば、会社も店長も書類送検される可能性があります。
実際に、全国で多くの飲食店が「違法な長時間労働」で摘発されています。
この記事では、飲食店経営者や店長さんが知っておくべき
「長時間労働の法律ルールとリスク」について、わかりやすく解説します。
また、実際に摘発された4つの飲食店の事例を紹介しながら、「36(サブロク)協定とは何か」「どんな違反が危険なのか」「どう防げるのか」を具体的に説明します。
最後には、経営者として押さえるべき労働法コンプライアンスの実践ポイントも紹介します。
この記事を読めば、今日から自分の店舗が法令違反にならないための対策がわかります。
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なぜ飲食店で「長時間労働」が問題になるの?
飲食業界は、接客・調理・清掃・仕込み・発注・閉店作業など、一日を通して多くの業務をこなさなければなりません。
特にランチとディナーの間に「中抜け(アイドルタイム)」が発生するシフト制勤務では、実際に働いている時間よりも拘束時間が長くなりやすいのが現実です。
さらに、繁忙期や人手不足の影響で、社員やアルバイトが休憩を取れないまま働いたり、「少しだけだから」と残業が積み重なったりすることもあります。
しかし、「忙しいから」「人が足りないから」という理由で、36協定を結ばずに残業をさせることは、明確な違法行為です。
労働基準法第32条は、労働時間の上限を「1日8時間・週40時間」と定めています。
これを超えて従業員を働かせるには、必ず労使間で36(サブロク)協定を結び、労働基準監督署に届け出る必要があります。
なお、36協定の内容については、後半の章で詳しく解説します。
この手続きを経ずに残業を命じた場合、たとえ本人が同意していたとしても違法残業となります。
また、このルールを破った場合には、労働基準法第119条により、使用者(経営者)には6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられるおそれがあります。
つまり、知らなかったでは済まされず、店長や経営者個人の責任が問われる可能性もあるのです。
飲食店での「長時間労働」は、従業員の健康を害するだけでなく、企業としての信用やブランドにも大きなダメージを与えます。
働き方改革が進む今、飲食店においても「法律を守る労務管理」が強く求められています。
実際にあった「飲食店の長時間労働」違反事例とは?
飲食店では、全国で実際に多数の「長時間労働」違反が摘発されています。
ここでは代表的な4つの事例を紹介します。
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36協定なしで週42時間の残業
天満労働基準監督署(大阪市)は平成29年4月、某飲食店運営会社(大阪市北区)と専務取締役を労働基準法違反容疑で書類送検しました。
送検容疑は、36協定を結ばずに従業員4人に最長で週約42時間の残業をさせたというもの。
中には月200時間を超える残業をしていた人もいました。
会社側は「飲食業界では仕方ない」と述べていましたが、
この考え方こそが最も危険です。
「36協定の未締結」は、飲食店経営者にとって重大なコンプライアンス違反になります。
愛媛・松山の飲食業者―36協定未提出のまま月137時間の残業
愛媛・松山労働基準監督署は、労働基準法第32条違反の容疑で、飲食・リユース業を展開する企業を書類送検しました。
松山市内の飲食店では、36協定を提出しないまま、正社員11人に対して1カ月最長137時間の残業をさせていたとされています。
協定の届け出を怠ったまま新規オープンを急いだことが原因でした。
つまり、開店準備やオープン直後の繁忙期でも、労働法のルールは免除されないということです。
全国展開チェーン店で長時間労働
大阪労働局と京都労働局は、某外食チェーン店を労働基準法違反の疑いで書類送検しました。
対象となったのは複数の直営店舗で計17店舗。
従業員19人に対し、労使協定で定めた月45時間の限度を超える月54~133時間の残業をさせていたとされています。
さらに、労働時間の記録を改ざんし、割増賃金を支払っていなかった疑いもありました。
大阪労働局の「過重労働撲滅特別対策班(かとく)」が捜査に着手し、再三の指導にも改善が見られなかったため、書類送検に至りました。
※かとくとは、過酷な長時間労働の実態を摘発するため、東京・大阪の労働局に設置された特別捜査チームで、全国の外食チェーンや大手企業の違反事例を重点的に調査しています。
部長と店長も送検対象に
大阪労働局は、全国展開する外食チェーンの本部部長および店舗の店長4人を、労働基準法第32条違反の疑いで書類送検しました。
対象店舗では、36協定で定めた上限を超えて、1カ月あたり最長111時間の残業を従業員にさせていました。
このため、本部の部長も管理責任を問われ、現場の店長だけでなく幹部社員まで刑事責任を負う結果となったのです。
長時間労働の管理責任は現場だけでなく、本部や管理職にも及ぶことがあるため、経営者や管理職は労働時間の適正管理を徹底する必要があります。
では、こうした「違法な長時間労働」は、どのようにして発覚するのでしょうか。
実際には、従業員からの匿名通報や退職者の申告、SNS投稿をきっかけに労働基準監督署が動くケースが多いです。
また、労働時間の記録(タイムカード・勤怠システム)と給与明細の不一致や、残業代未払いの相談から発覚することもあります。
最近では、厚生労働省が設置する「過重労働解消相談ダイヤル」など、外部通報の窓口が充実しており、一度調査が入ると、他店舗にも波及して一斉調査されるリスクもあります。
つまり、「誰も言わなければバレない」という時代はすでに終わっています。
経営者が率先してルールを守る姿勢を見せることが、ブランドと信頼を守る第一歩なのです。
飲食店で知っておきたい!36協定ってそもそも何?どんな内容なの?
36協定とは、労働基準法第36条に基づき、会社と労働者代表が書面で結ぶ「時間外・休日労働の合意書」のことです。
この協定を労働基準監督署に届け出ることで、原則禁止されている「1日8時間・週40時間」を超える残業や休日労働を、合法的に行うことができるようになります。
しかし、注意すべき点もあります。
協定を結んだからといって、何時間でも働かせてよいわけではありません。
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36協定の上限時間とは?
厚生労働省告示により、36協定には原則の**上限時間(限度基準)**が定められています。
-
1カ月あたり45時間
-
年間360時間
これを超える時間外労働は、原則違法となります。
つまり、従業員が休みなく長時間働くことは、協定があっても認められません。
36協定の特別条項とは?
忙しい繁忙期など、特別な事情がある場合には、「特別条項付き協定」を結ぶことで、限度を一時的に超える残業も可能です。
ただし条件があります:
-
年間720時間以内
-
1カ月100時間未満(休日労働含む)
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2~6カ月平均で80時間以内
この条件を守らないと、違法残業となり、会社だけでなく店長や管理者にも刑事責任が及ぶことがあります。
飲食店で注意すべきポイント
-
・小規模店舗でも、36協定を結ばずに残業させれば違法
-
・繁忙期の「忙しいから仕方ない」は通用しない
-
・特別条項付きでも、月100時間以上の残業はNG
-
・従業員の健康管理と適正労働時間の把握が必須
36協定は、あくまで残業を合法化する枠組みであり、長時間労働を推奨するものではありません。
飲食店では、現場の状況をしっかり把握して、協定の範囲内で働かせることが大切です。
飲食店経営者が守るべき「長時間労働」防止のポイントとは?
長時間労働を防ぐためには、法律を理解するだけでなく、日々の店舗運営の中で「どう管理するか」が重要です。
厚生労働省の調査でも、飲食業は他業種に比べて残業時間が長く、36協定違反の指摘を受けやすい業種とされています。
ここでは、飲食店経営者が実践できる「長時間労働の防止策」を4つ紹介します。
どれもすぐに始められる内容ですので、ぜひ自店舗の管理体制を見直すきっかけにしてください。
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労働時間の「見える化」をする
まず基本となるのが、労働時間の正確な把握です。
「忙しくて打刻を忘れた」「早めに来て準備したけど記録していない」などの曖昧な管理は、実際より長く働いていたと判断されるリスクがあります。
タイムカードやシフト表はもちろん、残業時間・休憩時間・休日出勤の記録も正確に残しましょう。
最近では、クラウド勤怠システムやアプリを活用して自動集計する店舗も増えています。
データを可視化することで、従業員が長時間労働になっていないか早期に発見できるという効果もあります。
36協定の更新と周知を忘れない
36協定は一度提出すれば終わりではありません。
原則1年ごとの更新が必要で、期限切れのまま運用を続けていると、協定が無効とされ、違法残業として扱われてしまいます。
更新時には、最新のシフト体制や営業時間に合わせて内容を見直しましょう。
また、協定内容をスタッフにもわかりやすく説明し、店内に掲示して周知することが求められます。
「自分たちの店はどんな労働ルールで動いているのか」を共有することで、トラブル防止や従業員の安心にもつながります。
飲食店での繁忙期の残業には「特別条項」を活用
飲食店では、年末年始、ゴールデンウィーク、新規オープンなど、どうしても一時的に残業が増える時期があります。
そんなときは、特別条項付き36協定を結んでおくことで、法律の範囲内で柔軟に対応できます。
ただし、前述のとおり特別条項を結ぶ場合でも、
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年間720時間以内
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1カ月100時間未満(休日労働を含む)
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2〜6カ月平均で80時間以内
という上限を超えることはできません。
また、特別条項を乱用すると「恒常的な長時間労働」とみなされるため、本当に必要な時期だけに限定することが大切です。
その際には、従業員の健康状態にも配慮し、休憩や休日の確保を忘れないようにしましょう。
管理職も「労働者」とみなされる場合がある
「うちは店長だから残業代は出さなくていい」と思っていませんか?
実は、労働基準法上の「管理監督者」は、役職名だけで判断されるものではありません。
たとえ店長でも、
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出退勤の自由がなく、本部の指示で働いている
-
シフト作成や採用権限が限定的
-
給与が一般社員と大差ない
といった場合には、「労働者」として扱われる可能性があります。
この場合、店長であっても残業代の支払い義務が発生し、未払いがあれば過去3年分まで遡って請求されるリスクもあります。
店長や管理職も、働き方を定期的に見直し、「管理職だから例外」という思い込みをなくすことが重要です。
このように、日々の勤怠管理から協定更新まで、
経営者自身が法律を理解し、仕組みとして整えることが「長時間労働を防ぐ第一歩」です。
飲食店の長時間労働が違法になると?36協定違反の罰則とリスク
飲食店で36協定を結ばずにスタッフに長時間労働をさせると、
労働基準法第119条により、**「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」**という刑事罰の対象になります。
また、特別条項の条件を超えて残業させたり、協定を届け出ずに時間外労働を続けたりしても、同様に「違法残業」として処罰されるおそれがあります。
実際に、近年では飲食チェーンの店長が「36協定違反」で書類送検されたケースも報じられています。
刑事罰だけでなく、社会的信用を失うリスクも極めて大きい点に注意が必要です。
「ブラック企業」として報道されれば、SNSなどで一気に悪評が広まり、従業員の離職や新規採用の困難化、さらには売上低下や店舗閉鎖につながることもあります。
さらに、従業員が労働基準監督署に相談すれば、是正勧告や企業名の公表が行われる可能性もあります。
一度失った信頼を取り戻すのは容易ではありません。
飲食店経営者や店長は、「36協定の届け出・更新・遵守」を怠らないことが、店舗経営のリスク管理の第一歩といえるでしょう。
まとめ:飲食店の36協定と長時間労働対策で、守りと攻めの経営を実現しよう
飲食店の「長時間労働」は、今や経営リスクそのものです。
36協定を正しく結び、労働時間の管理を徹底することが、従業員の健康を守り、店舗運営の安定につながります。
法令遵守は、経営を支える最大の“盾”です。
労働基準法を守ることは、トラブルや罰則を避けるだけでなく、スタッフの安心感や信頼にも直結します。
一方で、労働時間の見直しや業務の効率化を進めることは、生産性を高め、優秀な人材を惹きつける“武器”にもなります。
柔軟なシフト制や休暇制度の整備は、「この店で働きたい」と思われる魅力ある職場づくりにつながります。
法を守る「守り」と、働き方を変える「攻め」。
その両輪で、飲食店の未来はより強く、持続可能なものになります。
経営者として、今こそ「労働法コンプライアンス経営」へ一歩を踏み出しましょう。