2025/10/31
飲食店の経理ミスが「脱税」扱いに?税務署が見る“隠ぺい・仮装”のサイン
はじめに
飲食店の経営では、現金売上や仕入れ、人件費など、日々の経理作業が欠かせません。
しかし、その処理方法を少しでも誤ると、「脱税」や「隠ぺい・仮装」と見なされることがあります。
税務署が注目するのは「書類」ではなく「実態」。
たとえ名義を変えても、実際の資金の流れが本人にあるなら、所得税法や国税通則法に基づいて課税対象とされることがあります。課税対象になるのです。
こうした“経理上の落とし穴”は、知らないうちに踏んでしまう経営者も少なくありません。
一見、形式上は問題なさそうに見えても、税務署の目線では「意図的な隠ぺい」と判断されるケースもあります。
この記事では、
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「隠ぺい」「仮装」とは何か?・実際にあった飲食店の裁決事例・税務署が見る「脱税のサイン」・経理で誤解されないための対策
といったポイントを、法律の条文と実例を交えてわかりやすく解説します。
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「隠ぺい・仮装」ってどんな行為?飲食店の経理で起こりやすいケース
「隠ぺい」や「仮装」と聞くと、悪質な脱税を思い浮かべる方も多いでしょう。
しかし、税法上の「隠ぺい・仮装」は、実際にはもっと広い範囲を含みます。
所得税法および国税通則法第68条では、
「事実を隠ぺいし、または仮装して申告をしなかった場合、重加算税を課すことができる」
と明記されています。
つまり、「事実を隠したり、虚偽の内容で申告した」と判断されれば、本来の税額に35〜40%の重加算税が上乗せされるということです。
税務署は単なる記入ミスと、意図的な隠ぺいを厳密に区別します。
特に飲食店のように現金取引が多い業種では、「少しの処理の違い」が“脱税の疑い”と見なされるリスクが高いのです。
飲食店で起こりがちな「隠ぺい・仮装」のパターン
飲食店の経理で、意図せず「仮装」や「隠ぺい」にあたるケースは少なくありません。
代表的なものをいくつか紹介します。
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現金売上を帳簿に記載しない
→ レジのトラブルや「忙しくて記録し忘れた」という理由でも、繰り返せば脱税と見なされることがあります。 -
他人名義の口座に売上金を入金する
→ 家族や知人の口座を「管理の都合」で使っても、資金の流れを隠したと判断されるおそれがあります。 -
架空の人件費や仕入れを経費にする
→ 実際に働いていない家族への給料支払いや、存在しない仕入先の請求書も「仮装経理」とされます。 -
店舗の実質経営者を隠すために名義を借りる
→ 名義上の事業主と実際の経営者が異なれば、所得の帰属を偽った「隠ぺい」として扱われます。
これらはいずれも、「意図的に利益を隠した」と判断される要素を含んでいます。
たとえ「名義を借りただけ」「一時的に預かっただけ」という説明をしても、帳簿や口座の証拠が不十分であれば“隠ぺい行為”と見なされる可能性があります。
実際、国税不服審判所の裁決事例でも、
「知人の名義を借りた」「口座を一時的に使った」と主張した経営者が、重加算税の対象とされたケースが多数報告されています。
つまり、「形式上は正しい」ように見える経理でも、
実際の資金の流れと一致していなければ、それ自体が“仮装”と見なされるのです。
実際にあった“仮装・隠ぺい”の裁決事例とは?
「うちはそんな悪いことしてないから大丈夫」と思っていませんか?
実は、ちょっとした経理処理の誤りでも、税務署から“仮装・隠ぺい”と判断されることがあります。
国税不服審判所(公式サイトはこちら)が公表している裁決事例の中にも、「立替金の返済」と説明したにもかかわらず、重加算税の対象とされたケースがあります。
この事例は、飲食店を含む小規模事業者がやりがちな“名義や口座の使い方の落とし穴”をわかりやすく示した重要な判例です。
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『立替金の返済』では逃れられない?重加算税の認定事例
ある個人事業者は、自動販売機の売上金を自分の口座で受け取っていました。
税務署の調査で「これは立て替えてもらっていたお金を返してもらっただけです」と説明しましたが、調べてみると、実際は販売手数料として本人が得た収入だったのです。
契約書や通帳、振込記録を見ても、立替金と呼べるような証拠はありませんでした。
さらに、この人は他人の名前で契約書を作り、別の名義の口座を使ってお金を受け取っていたことも発覚しました。
つまり、「書類上は他人の取引に見せかけて、実際は自分の収入を隠していた」状態だったのです。
審判所の判断:「実態を隠した」と認定され、重加算税が適用
国税不服審判所はこの行為を「事実を偽って申告をしていない」と判断しました。
結果として、所得税法第36条と国税通則法第68条に基づき、通常の税金に加えて重加算税(最大40%)が課されました。
ここで出てきたこの2つの法律には、それぞれ次のような意味があります。
● 所得税法第36条とは?
これは、「実際に得た収入は、きちんと所得として申告しなければならない」というルールを定めた条文です。
たとえ名義が他人であっても、実際にお金を受け取っている人が税金を払うべきという考え方になります。
つまり、「名前だけ家族」「口座だけ別」でも、実際に利益を得ていれば、それは“自分の所得”とされるのです。
● 国税通則法第68条とは?
これは、いわば“ペナルティのルール”です。
もし納税者が、事実を隠したり、嘘の申告をしていた場合には、
本来の税金に35〜40%の重加算税を上乗せして課すことができる、と定めています。
簡単に言うと、
「うそをついたり隠したりしたら、その分きびしく罰金を足しますよ」という内容です。
この2つの法律を合わせると、
「実際にお金を手にした人がきちんと申告しないと、脱税扱いになる」
「もし嘘やごまかしがあれば、その分さらに罰金が増える」
という仕組みになっています。
税務署が特に重視したのは、“お金の流れがどこに向かっていたか”です。契約書の名義が誰でも、最終的にお金を受け取っていたのが本人であれば、「その人が本当の所得者」と見なされます。
飲食店経営者がこの事例から学ぶべきこと
この事例は、飲食店の経営者にも他人事ではありません。
現金商売が多い飲食業では、同じようなケースが起こりやすいのです。
たとえば──
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売上金を家族やスタッフの口座に入れている
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店舗契約を知人の名前で結んでいる
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請求書の宛名と実際の支払者が違っている
これらの行為は、税務署から「収入を隠している」と疑われる典型例です。
たとえ悪意がなくても、「お金の動き」と「書類の名義」が食い違うだけで、“仮装”や“隠ぺい”と判断される可能性があります。
言い訳よりも「証拠」で判断されるのが税務署の考え方
この裁決から学べるのは、「言葉」より「証拠」が重視されるということです。
「立替だった」「預かっていただけ」と言っても、通帳や領収書で裏付けが取れなければ通りません。
税務署は「お金がどこから入り、どこへ出たのか」を徹底的に確認します。もし説明があいまいなままだと、「意図的に隠した」と判断されてしまうのです。
飲食店では、名義・金額・入出金の流れをきちんとそろえることが大切です。
すべての取引を同じ名義で行い、領収書や通帳を整えておくことが、脱税と誤解されないための最大の防御になります。
税務署は飲食店のどんな点を見て「脱税」と判断するの?
税務署の調査は、書類の名義や見た目だけで判断されるものではありません。
どんなに帳簿を整えていても、「お金の流れ」と「実際の取引内容」が一致していなければ、「隠していたのではないか?」と疑われることがあります。
特に飲食店は、現金のやり取りが多く、経理のちょっとしたズレが「仮装」「隠ぺい」とみなされることも少なくありません。
では、税務署は実際にどんな点を見て判断しているのでしょうか?
税務署が注目する主なチェックポイント
① 口座の名義と入金先が一致しているか
売上金を家族やスタッフ名義の口座に入れていると、「収入を隠している」と疑われる可能性があります。
② 契約書や領収書が本当の取引を反映しているか
架空の仕入れや経費を作っていないか、書類の整合性が確認されます。
③ 帳簿の数字に裏付けがあるか
売上や入金記録が実際の取引と合わないと、虚偽の帳簿と判断されることも。
④ 経費が事業実態に合っているか
プライベートな支出を経費にすると、「仮装経費」と見なされます。
飲食店経営で注意すべきポイント
税務署は、「金額の大小」よりも「意図的かどうか」を見ています。
たとえ数万円でも、わざと帳簿に載せなければ重加算税の対象になることも。
日々の売上や支出を同じ名義・同じ口座で管理し、帳簿・領収書・口座の流れをそろえておくことが、脱税と誤解されない一番の防御策です。
飲食店の経理で「脱税」や「隠ぺい」と誤解されないために
「知らなかった」「うっかり間違えた」では済まされません。
税務署は、口座の入出金履歴・クレジット決済・POSデータ・仕入れ先との取引記録など、あらゆる情報を突き合わせて、実際の資金の流れを確認しています。
では、飲食店経営者はどんな点を意識しておけばいいのでしょうか?
以下のポイントを押さえるだけで、“疑われにくい経理”を作ることができます。
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飲食店経営者が今すぐ見直すべきポイント
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① 売上入金は必ず店舗名義の口座にまとめる
売上金を個人や家族の口座に分けて入金すると、税務署から「売上隠し」と見なされやすくなります。
必ず店舗名義または事業用の口座を使い、資金の流れを一本化しましょう。 -
② 経費は領収書・支払先・用途を明確にする
たとえ小さな支出でも、「何に使ったか」「誰に払ったか」がわかるように。
領収書がなければメモでも構いません。支出の理由を残すことが大切です。 -
③ 家族名義・知人名義の口座を使わない
「便利だから」「一時的に」などの理由で他人名義を使うと、資金の流れが不明確になります。
結果として、“仮装”や“隠ぺい”と誤解されることがあります。 -
④ 契約書や請求書は実際の取引当事者名で保管する
仕入れや家賃の契約は、実際に取引している本人の名義で結ぶのが原則です。
契約書や請求書の名義が違うだけでも、「経理操作がある」と疑われる原因になります。 -
⑤ 不安があれば税理士に早めに相談する
小さな疑問や不安を放置すると、後から大きなリスクにつながります。
税理士や専門家に相談することで、正しい記帳方法やリスク対策を早期に確認できます。 -
税務署は「完全な経理」を求めているわけではありません。重要なのは、お金の流れが誰にでも説明できるようになっていることです。日々の経理を透明に保つことで、調査が入っても落ち着いて対応できます。
正確な経理は、“脱税の防止”だけでなく、信頼される飲食店経営の第一歩でもあります。
まとめ|飲食店が「脱税」と誤解されない経理体制をつくるには
経理の透明性を高めることは、税務調査に備えるためだけではありません。
正確な帳簿と証拠を整えておくことで、金融機関からの信頼を得やすくなり、スタッフも安心して働ける環境が生まれます。
日々の取引を誠実に記録し、いつ税務署から確認を受けても堂々と見せられる――そんな経理体制こそが、経営を守る最大の防衛策です。
そして、正直な経理を続けることは、単なる“防御”にとどまりません。
透明な数字は、店舗の信用を高め、新たな資金調達や出店拡大といったチャンスを引き寄せる“攻めの力”にもなります。
小さな記録の積み重ねが、信頼と成長をつくる――それが、飲食店経営を長く続けるための本当の強さです。