2025/10/31
飲食店のデザイン・ロゴ・看板を守るには?不正競争防止法で防ぐ「まねされないブランド」戦略
はじめに
「うちの店のロゴ・外観・内装、似たようなのを使ってるお店がある…」
そんな不安を感じたことはありませんか?
飲食店にとって、看板やロゴ、店舗の外観・内装、メニュー表のデザインはお店の“顔”です。
しかし、これらを他店にまねされてしまうと、お客様の信頼やブランド価値が失われるおそれがあります。
実は、こうした「デザインの模倣」からお店を法的に守るための法律があります。
それが「不正競争防止法」(第2条第1項1号・2号)です。
この記事では、飲食店経営者が知っておくべき不正競争防止法の基本から、実際の裁判例、具体的な対策方法までを、初心者にもわかりやすく解説します。
.jpg?width=440&height=440&name=23151494%20(1).jpg)
飲食店のデザインや看板・ロゴは“法律で守られる”って本当?
飲食店のデザインやロゴは、単なる見た目ではなく、お店を識別する大切な要素です。
不正競争防止法という”デザインやロゴを法的に守るための法律”では、他人の事業と混同を生じさせるような模倣行為を禁止しています。
つまり、他店があなたの看板・内装・ロゴ・包装デザインなどをまねして営業した場合、それが消費者に「同じ系列店かな?」と思わせるようなものなら、法律違反となる可能性があります。
.jpg?width=466&height=349&name=23073312%20(1).jpg)
不正競争防止法で守られるデザイン・店舗外観・内装とは?
不正競争防止法第2条第1項1号では、
「他人の商品表示と混同を生じさせる行為」を禁止しています。
つまり、「お客様がどちらの店かわからなくなるようなまね」をしてはいけない、というルールです。
ここでいう「商品表示」とは、単なる“商品名”に限りません。
飲食店の場合、次のようなお店を象徴するデザインやブランドの要素も対象になります。
-
店名・屋号(例:「ラーメン○○」「居酒屋△△」など)
-
看板やロゴのデザイン(文字の形・色・配置・書体など)
-
店舗の外観や内装(建物の形、装飾、照明の配置、席のレイアウトなど)
-
メニュー表・パッケージ・制服(デザインや配色の統一感など)
これらはすべて、お客様が「このデザインを見たらあのお店」と認識するための“しるし”です。
つまり、お客様の記憶や印象に残る特徴そのものが法の保護対象になるのです。
たとえば、看板の書体や色合い、店舗の外観のトーン、スタッフの制服など、一つひとつは小さな違いでも、全体として似ていれば「混同を生じさせる」と判断されることがあります。
また、不正競争防止法は「登録していなくても保護される」という点が特徴です。
商標登録をしていなくても、地域で知られたお店であれば「周知表示」として保護されます。
つまり、長年かけて築いた“お店のイメージ”そのものが、法律によって守られるのです。
実際に起きた!飲食店デザイン・ロゴ・看板のトラブル事例3選
ここでは、「デザインをまねされた」「ロゴが似ている」「看板をコピーされた」といった、 実際のトラブルをもとに、裁判所がどのように判断したかを紹介します。
どの事例も、飲食店がデザインを守る上で重要な教訓を含んでいます。
「すしざんまい」と「SUSHI ZANMAI」——海外店舗紹介は侵害になる?
知的財産高等裁判所 令和6年(ネ)第10031号 不正競争行為差止等請求控訴事件
(判決全文はこちら(裁判所HP・PDF))
日本で「すしざんまい」を運営する会社が、
海外の寿司店「Sushi Zanmai」を紹介する日本企業のウェブサイトに対し、
商標権侵害と不正競争防止法違反を主張した事件です。
裁判所は、被告サイトは日本からの食材輸出事業を紹介する内容であり、
「すし店の広告」とは言えないと判断。
そのため、商標法2条3項8号に定める「広告上の使用」には当たらず、商標権侵害や不正競争防止法2条1項1号には該当しないとしました。
ポイント:
この判決からわかるのは、商標の「使用場所」と「対象」が非常に重要だということです。
海外店舗を紹介する日本語サイトでも、それが日本の顧客向け広告と見られれば、商標法上の「使用」に当たるおそれがあります。
たとえば、「日本初上陸」「日本でも展開予定」など、国内向けの販売・出店を想起させる表現は注意が必要です。
一方で、実際に海外の店舗紹介や取引実績を示す内容にとどまるなら、商標法2条3項8号にいう『広告上の使用』には該当しません。
そのため、飲食店が海外ブランドを紹介する際は、「海外で運営している店舗の紹介です」など、対象地域を明確に表示することで不必要な誤解や法的リスクを防げます。
「一升パン」は誰のもの?――パン屋どうしの商標トラブル
知的財産高等裁判所 令和3年(行ケ)第10160号 審決取消請求事件
(判決全文はこちら(裁判所HP・PDF))
全国展開するパン店「ポンパドウル」が、他社の商標「三橋の森の一升パン」に対し、自社の「一升パン」と類似しているとして登録の無効を求めた裁判です。
原告は「一升パン」という言葉を長年使っており、需要者の間で広く知られていると主張しました。
しかし裁判所は、「一升パン」という言葉自体が全国の多くのパン店で使われており、一般的に“一升餅の代わりに使う祝い用のパン”を示す言葉になっていると判断。
そのため、特定の事業者だけが独占できるほどの識別力はないとされました。
結果、裁判所は「両商標は非類似であり、混同を生ずるおそれもない」として原告の請求を棄却しました。
(商標法4条1項11号・15号)
ポイント:
この判決は商標法の事例ですが、
「どんな名前・言葉にブランドとしての力(識別力)があるか」という点で、不正競争防止法にも通じる重要な考え方を示しています。
一般的な言葉や地域名、祝事の語句(例:「一升」「福」「桜」「森の○○」など)は、多くの店舗が日常的に使うため、特定の店だけが独占することはできません。
飲食店のメニュー名や看板を考えるときは、店舗名・地域・造語を組み合わせて独自性を出すことが大切です。
「誰でも使う言葉」よりも「その店を思い出す言葉」を選ぶことで、商標登録による保護はもちろん、
不正競争防止法の観点からも“まねされにくいブランド”を築けます。
“そっくり店舗”は違法?——コメダ珈琲とマサキ珈琲事件から学ぶデザイン保護
東京地方裁判所 平成27年(ヨ)第22042号 仮処分命令申立事件(平成28年12月19日決定)
(判決全文はこちら(裁判所HP・PDF))
人気喫茶チェーン「コメダ珈琲店」にそっくりな外観を持つ「マサキ珈琲」が出店したことで、コメダ側が「店舗デザインをまねされた」として不正競争防止法に基づき差止めを求めた事件です。
裁判所は、コメダ珈琲の店舗外観そのものが“営業表示”としての識別力を持つと認定しました。
具体的には、赤レンガ調の外壁・切妻屋根・出窓・木材装飾などが一体となって、消費者に「これはコメダの店だ」と認識されるほど周知のデザインになっていたと判断。
その結果、類似する店舗デザインを使った「マサキ珈琲」は、コメダと系列関係があるように誤解させる「混同のおそれ」があるとして、不正競争防止法2条1項1号(営業表示混同惹起行為)に違反すると判断されました。
ポイント:
この判決の意義は、「店舗のデザイン」や「内装・外装の統一イメージ」も、ブランドを示す“商品等表示”として法的に保護されると明言した点にあります。
つまり、店名やロゴだけでなく、店舗の外観・看板・内装・メニュー提供のスタイルなども、消費者に「その店らしさ」を示す要素であれば、
不正競争防止法によって模倣を止めることが可能です(同法2条1項1号・2号)。
実際、裁判所はマサキ珈琲に対して、
「店舗外観を使用してはならない」「写真やウェブ掲載も禁止」と命じました。
これにより、飲食店のデザイン模倣でも営業停止リスクがあることが明確になりました。
飲食店が今すぐできる!デザインを守る3つの実務対策
デザインや看板を守るには、日々の工夫と法的備えが欠かせません。ここでは、飲食店が実際に取り組める3つのステップを紹介します。
.jpg?width=464&height=371&name=23188746%20(1).jpg)
デザイン制作を依頼するときは契約内容を明確に!
外部のデザイン会社や個人デザイナーに看板・メニューを依頼する場合、
「誰に権利が帰属するのか」を明確にしておく必要があります。
契約書には、以下のような文言を入れるのが安全です。
「納品と同時に、著作権・商標権・意匠権など一切の権利を依頼主に譲渡する。」
これにより、後日「ロゴの権利はデザイナー側にある」と主張されるリスクを防げます。
ロゴや店名は商標登録しておく
商標登録をすれば、商標法第25条に基づき、他店が似た名前やロゴを使った場合に差止や損害賠償を請求する権利を持てます。
飲食店の場合、「第43類(飲食物の提供)」区分での登録が一般的です。
費用は1区分あたり出願料12,000円、登録料28,200円(10年間有効)です。
登録しておけば、のれん分け・フランチャイズ展開時にも安心です。
模倣されたら“感情的にならず”専門家へ相談を!
他店に似たデザインを使われた場合、SNSで非難する前に、弁理士や弁護士に相談することをおすすめします。
証拠を整理し、警告書の送付や差止請求を通じて冷静に対応できます。
不正競争防止法第2条・第3条では、差止請求権と損害賠償請求権が明記されています。
感情的な発信よりも、法的な手段でブランドを守ることが最も確実です。
飲食店のデザインを守る法律は3つ!3つの法律の使い方を知ろう
| 法律名 | 保護対象 | 登録の必要性 | 主なポイント |
|---|---|---|---|
| 不正競争防止法 | デザイン・店舗外観・看板などの模倣 | 不要 | 登録なしでもよく知られていれば保護される |
| 商標法 | 店名・ロゴ・マークなど | 必要 | 登録により独占的に使用可能 |
| 著作権法 | メニュー・写真・チラシ・デザイン原案など | 不要 | 創作された瞬間に自動的に発生 |
飲食店のブランドを守る法律は、実はひとつではありません。
たとえば「お店の名前」や「ロゴ」は商標法で守ることができます。
商標登録をしておくと、同じ名前を他の店が使うのを止めることができ、お店の信頼やブランド価値を長く保てます。
一方で、不正競争防止法は登録がいらないのが特徴です。
店の外観・看板・メニューの並べ方などが有名になっていれば、まねされたときに「うちの店と混同される」と主張できます。
つまり、日頃からお店のデザインや雰囲気を統一しておくことが、そのまま“ブランドの防御力”につながるということです。
さらに、著作権法では、あなたが作ったメニュー表やチラシ、SNSに載せた写真などが自動的に守られます。
デザインや文章をまねされた場合も、著作権で対応できるのです。
この3つの法律を上手に使えば、
お店の名前・デザイン・広告すべてを多方面から守ることができます。
「登録で守る」「創作で守る」「周知で守る」——
この3つを意識することで、より強いブランドづくりができるでしょう。
まとめ|飲食店のデザイン・ロゴを“守る”ことはお店の信頼を“育てる”こと
飲食店にとって、デザインや看板は単なる装飾ではなく、お客様が最初に感じる「信頼」と「安心」のサインです。
店の外観やロゴ、メニュー表のデザインには、経営者の想いやブランドの物語が込められています。
不正競争防止法や商標法を正しく理解しておけば、自分の努力や創意工夫を他人にまねされるリスクを減らせます。
それは、トラブルを防ぐためだけでなく、
「自分のお店らしさ」を長く守るための経営戦略でもあります。
さらに、店舗デザインやロゴを保護しておくことは、
将来的なフランチャイズ展開やリニューアル(リブランディング)にも大きな意味を持ちます。
法的な備えがあることで、デザインの一貫性を保ちながら、より多くのお客様にブランドの魅力を広げることができます。
「守る」ことは「育てる」こと。
お店のデザインを大切に守ることは、
お客様との信頼を少しずつ積み重ね、地域に根付く力を育てることにつながります。
法の力を味方につけて、“見た目(店舗デザイン・ロゴ・看板)”も“想い”も愛され続ける飲食店を目指しましょう。