2026/02/25
特定技能が進む一方で起きているトラブルとは?入管庁のデータから読み解く
人手不足が深刻化する外食業界において、外国人材の採用はもはや特別な選択肢ではありません。なかでも在留資格「特定技能」は、即戦力として働ける制度として多くの飲食店で活用が進んでいます。
しかしその一方で、「特定技能は人手不足対策として有効だが、正しく運用しなければ経営リスクになり得る」という現実が、近年徐々に明らかになっています。制度の拡大とともに、入管庁による指導や在留資格の取消といった事例は増加しており、想定外のトラブルに直面する飲食店も少なくありません。本記事では、入管庁が公表している最新データをもとに、外食業界で特定技能をめぐって実際に何が起きているのかを整理し、その背景、経営者が知っておくべきリスク、そして今後取るべき対応について解説します。
特定技能の現状は?|外食業界で急拡大する受け入れ
日本における外国人労働者の受け入れは、ここ数年で明らかに加速しています。厚生労働省の発表によると、2024年10月時点での外国人労働者数は約230万人に達し、過去最多を更新しました。この数字は、外国人材がすでに一部の業界や企業に限られた存在ではなく、日本の労働市場全体を支える重要な担い手になっていることを示しています。
こうした流れの中で、特に存在感を強めているのが在留資格「特定技能」です。入管庁の統計によると、令和7年6月末時点で特定技能1号として在留している外国人は約33万人に達しており、外国人労働者全体の中でも一定の比重を占める制度へと成長しています。その中でも、飲食業界と深く関わる「外食業」分野は3万5千人を超え、特定技能1号全体の1割以上を占める規模にまで拡大しています。

これは、特定技能が一部の大手外食チェーンだけの制度ではなく、中小規模の飲食店にまで広く浸透していることを意味します。人手不足を背景に、特定技能は外食業界にとって欠かせない存在になりつつあるのです。
国籍構成から見える外食業界の課題は?
出入国在留管理庁のデータから特定技能外国人の国籍を見ると、ベトナムやインドネシアを中心としたアジア圏出身者が大多数を占めています。外食業界でもこの傾向は顕著で、若年層の外国人労働力に大きく依存している構造が浮かび上がります。

【出典:出入国在留管理庁 特定技能制度運用状況(令和7年6月末)】
この構造自体は決して悪いものではありませんが、日本語能力や日本の職場文化への理解、生活面でのサポートが十分でない場合、トラブルや早期離職につながりやすくなります。実際、こうした背景が、後述する指導事例の増加にも影響しています。
特定技能2号の増加が示す「長期雇用」への転換
近年注目されているのが、特定技能2号の増加です。令和7年6月末時点で、特定技能2号の在留外国人は3,000人を超え、そのうち外食分野だけでも500人以上が働いています。
特定技能2号は在留期間の上限がなく、家族の帯同も認められる制度です。つまり、外食業界はこれまでのような短期的な労働力確保ではなく、外国人材を長期的に雇用し、戦力として育てていく段階に入りつつあると言えます。
この変化に伴い、入管庁は受入企業に対して、より厳格な運用と管理を求めるようになっています。
なぜ特定技能をめぐる指導・取消が増えているのか?
入管庁による指導・取消事例を見ていくと、意図的な不正や悪質な違反よりも、制度を十分に理解しないまま運用してしまった結果として発生しているケースが多いことが分かります。
特定技能は「即戦力人材を受け入れられる制度」として注目されがちですが、実際には継続的な管理や支援が前提となる制度であり、現場とのズレがトラブルを生みやすい構造を持っています。

届出・定期報告の未提出・遅延
特定技能制度では、雇用状況や支援実施状況について、定期的な届出・報告が法律で義務づけられています。
しかし、飲食店の現場では日々の営業や人手不足に追われ、こうした事務作業が後回しになりがちです。その結果、「提出し忘れ」「期限超過」といった形式的な不備が発生し、指導の対象となるケースが少なくありません。
経営者側に悪意がなく、「実務上は問題ない」と感じていても、入管庁から見れば明確な制度違反となる点が、トラブルにつながりやすい要因です。
支援計画が「書類だけ」で終わっているケース
もう一つ多いのが、支援計画の実施不十分による指導です。
書類上は、定期面談や生活支援の計画が整っていても、実際には十分に実施されていないケースが見受けられます。たとえば、面談が形式的になっていたり、住居や生活面での相談に十分対応できていなかったりする状況です。
入管庁は「計画があるかどうか」ではなく、**「実態として支援が行われているか」**を重視しています。そのため、形だけ整えた支援体制は、指導や是正の対象になりやすくなっています。
労働条件・シフト管理の曖昧さ
外食業界特有の課題として、労働時間や休日管理の不透明さも挙げられます。
繁忙期と閑散期の差が大きい業態では、シフトや残業の管理が属人的になりやすく、日本人従業員と同等以上とされる労働条件を満たしていないとして指摘を受ける事例も増えています。
これらは単なる労務管理の問題にとどまらず、特定技能制度の要件違反として扱われ、在留資格の継続に影響を及ぼす可能性があります。
トラブルの本質は「悪意」ではなく「運用のズレ」
このように、特定技能をめぐる指導・取消の多くは、「悪意があったから」ではなく、制度の複雑さと現場運用のズレが積み重なった結果として発生しています。
だからこそ、制度を正しく理解し、日常業務の中で無理なく回せる運用体制を整えることが、今後の飲食店経営において重要なポイントとなります。
指導や取消が経営に与える影響は?
入管庁からの指導や在留資格の取消は、単なる行政手続きの問題にとどまりません。特定技能外国人が働けなくなれば、現場の人手不足は一気に深刻化します。また、将来的に外国人採用そのものが難しくなる可能性もあります。
さらに、是正対応や行政対応に時間とコストを取られ、本来注力すべき店舗運営や売上改善に集中できなくなる点も、経営上の大きなリスクです。
データと事例から見える本質的な課題は?
入管庁のデータと指導事例を総合すると、問題の本質は明確です。外食業界では特定技能の受け入れが急速に進んでいる一方で、制度運用や管理体制がそのスピードに追いついていないのです。
特定技能は「雇えば終わり」の制度ではありません。継続的な届出、実効性のある支援、適切な労務管理が前提となる制度です。その理解が不足していることが、トラブルの背景にあります。
飲食店経営者が今後取るべき考え方とは?

これから特定技能を活用していく飲食店に求められるのは、制度を正しく理解したうえで、特定の担当者や現場任せにしない、属人的ではない運用体制を整えることです。特定技能は一度手続きをすれば終わりではなく、雇用後も継続的な届出や支援、労務管理が求められる制度である以上、「誰かが気づいたときに対応する」という運用ではリスクを避けることはできません。
また、支援業務を単なるコストとして捉えるのではなく、人材定着や戦力化のための投資として位置づける視点も欠かせません。生活支援や定期面談を丁寧に行うことで、離職リスクを下げ、結果的に採用や教育にかかるコストを抑えることにつながります。特定技能人材を「一時的な労働力」として扱うか、「長く働いてもらう仲間」として向き合うかで、店舗運営の安定性は大きく変わってきます。
さらに、制度や法令は今後も見直しや運用変更が続くことが想定されます。経営者自身がすべてを把握し続けるのは現実的ではないからこそ、行政書士や社労士、信頼できる登録支援機関と連携し、リスクを事前に把握・回避できる体制を整えておくことが重要です。問題が起きてから対応するのではなく、「起きないように管理する」という考え方が、これからの特定技能活用には求められています。
まとめ|特定技能は「使い方」で差がつく時代へ
特定技能制度は、外食業界にとって今後も欠かすことのできない人材確保手段であることは間違いありません。一方で、制度理解が不十分なまま導入・運用を進めてしまうと、入管庁からの指導や在留資格の取消といった形で、経営に大きな影響を及ぼすリスクも抱えています。人手不足を解消するはずの制度が、逆に経営の不安要素になってしまうケースも現実に起きています。

だからこそ今、求められているのは「とりあえず使う」特定技能から、「正しく使いこなす」特定技能への転換です。制度を理解し、適切な支援と管理を行い、外国人材が安心して働ける環境を整えられるかどうかが、今後の飲食店経営の安定性を左右します。特定技能をリスクにするか、それとも人材戦略の強みに変えるかは、経営者の向き合い方次第と言えるでしょう。
特定技能運用でまず確認したい5つのチェック項目
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⬜1. 届出・定期報告を期限通りに行えているか
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⬜2. 支援計画が書類だけでなく実態として機能しているか
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⬜3. 労働条件・業務内容が日本人スタッフと同等以上か
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⬜4. 現場任せ・担当者任せの運用になっていないか
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⬜5. トラブル発生時の対応ルールが社内で共有されているか
- そのうえで、社内だけでの対応が難しい場合は、専門家や外部パートナーの力を借りることも現実的な選択肢です。
弊社では、特定技能制度の導入支援から、届出・支援業務の運用サポート、トラブルを未然に防ぐ体制づくりまで、飲食店経営者の皆さまを実務面からサポートしています。「制度が複雑で不安」「今の運用で問題がないか確認したい」といった段階からでもご相談可能です。特定技能を安心して活用するためのパートナーとして、ぜひ一度ご相談ください。
