2025/04/29

居酒屋に広がる“宴会縮小”の余波 外食全体はプラス成長も業態差くっきり

目次

全体売上は好調、だが中身にばらつき

一般社団法人日本フードサービス協会が、2025年3月の外食産業市場動向調査を発表した。前年同月比107.0%と全体では堅調な伸びを記録した。歓送迎会や春休みといった行楽・イベント需要に加え、訪日外国人観光客(インバウンド)の回復が、都市部を中心に外食需要を押し上げた形だ。特に観光地立地のレストランや定食業態では、外国人の「複数人・高単価注文」による効果が明確に表れている。

一方で、その成長が業態全体に均等に及んだわけではない。業態ごとの売上推移を見ると、数字の裏には明らかな“二極化”が潜んでおり、構造的な違いが浮かび上がってくる。

居酒屋の停滞、回復の波に乗れず

中でも出遅れが目立つのがパブ・居酒屋業態だ。売上は前年同月比100.8%とほぼ横ばい。外食全体の伸びと比べると、その低調ぶりが際立つ。居酒屋が抱える最大の課題は、かつて業績を支えていた法人需要の復活が極めて限定的なことにある。

2024年3月は、コロナ禍を経て初めて大規模な送別会・歓迎会が戻ってきた年だった。だが今年は、個人や小グループでの利用が中心となり、前年のような法人予約の波は見られなかった。加えて、月初の降雪によって予約キャンセルが相次ぎ、週末の売上機会を逸した店舗も多い。

Product Sales Line Chart Graph (4)

“宴会”から“軽飲み”へ 利用スタイルの変化

客数は前年比99.0%とマイナスに転じた。注目すべきは、「2次会」「3次会」といった回遊型消費が減少している点だ。勤務後の立ち寄りや同僚との長時間滞在が減り、居酒屋が担ってきた“夜の集客力”が徐々に失われつつある。

代わりに台頭しているのが、「0次会」や「軽く一杯」需要。18時〜20時の早い時間帯を中心に、サクッと飲んで帰るスタイルが浸透しつつあり、酒類の注文数も1人あたり1杯~2杯とコンパクトにまとまる傾向が強い。

この流れに対し、都内の一部居酒屋チェーンでは「ハッピーアワー」の拡大や、「1,000円ちょい飲みセット」などのパッケージ提供で早時間帯の集客を強化している事例もある。だが、単価や滞在時間の短縮が前提となるこれらのモデルは、売上と利益のバランスを保つ難しさを伴う。

ChatGPT Image 2025年4月25日 18_50_49

価格改定の限界とピーク帯の崩れ

客単価は前年比101.8%と微増にとどまった。他業態が3~7ポイントの単価上昇を記録する中で、この伸び率は控えめだ。背景には、居酒屋特有の「価格感覚の厳しさ」がある。
たとえば、メニューの定番である唐揚げ、ポテト、串焼きなどは価格帯の上限がある程度“消費者に共有”されており、大胆な値上げが難しいという事情もある。

また、居酒屋のピーク帯だった21時以降の来店数が全体的に鈍化している。営業時間の短縮、深夜帯の人手不足、終電前に帰宅するスタイルの浸透など、いくつもの要因が重なり、「夜遅くまで長く滞在してもらう」モデルの賞味期限が近づいている。

喫茶・和風ファストフードが堅調、単価の差が明暗を分ける

他方、客単価の上昇が売上に直結している業態もある。代表格が喫茶(前年比108.2%)と和風ファストフード(110.8%)だ。

喫茶業態では、気温差の大きい3月にもかかわらず、ドリンク+スイーツのセット需要が伸び、価格改定による単価アップも売上を押し上げた。和風ファストフードは、一部企業での異物混入報道による客足の鈍化が見られたものの、高単価商品の展開により、全体の売上は前年を上回った。メニュー構成の柔軟性と、テイクアウト対応力の高さも、外食の中で強いポジションを保つ要因となっている。

ChatGPT Image 2025年4月25日 18_57_10

選ばれる店・業態に共通する条件とは

これらの動向から見えてくるのは、「値上げが許容される業態」と「そうでない業態」の違いだ。単に価格を上げるのではなく、消費者にとって“納得のいく満足体験”を提供できているかが問われている。

実際、ある喫茶チェーンでは「居心地」「SNS映え」「限定感」の3点を意識した商品・空間づくりで、1人あたりの注文金額が1年前に比べて平均8%伸びたという。飲食業の収益構造は、こうした“感情価値の設計”によって変化し始めている。

居酒屋再建のヒントは“構造変化”の先にある

売上が伸びているか否かではなく、「どのようにして売上を作っているのか」を業態別に見ていくことが、いま重要になっている。
インバウンド・高単価・時間帯分散・1人客対応──これらのキーワードが、今後の飲食店にとっての“稼げる構造”を形づくっている。

居酒屋に求められるのは、過去のモデルへの回帰ではなく、こうした変化を前提とした新しい業態設計だ。たとえば、「ランチ定食で固定客をつくり、夕方に軽飲みニーズを取る」二毛作モデルや、「酒類より料理で利益を出す」ポジショニングの明確化などがその一例だ。

いま、売上という表層の数字の裏側には、業態そのものの生き残りをかけた“再定義の分岐点”が広がっている。

スクリーンショット 2025-04-18 18-18-16https://share.hsforms.com/1dAhJgtyVT4yUbT_5i31ipgr0c14

織田 夏海
GーFACTORY株式会社 Promotion Support 飲食店舗のHPやSNS運用、メディア向けリリース業務などを通して「食」の世界に触れてきました。また、これまで飲食店経営者へのインタビューや飲食業界のSDGsに関する特集記事など、飲食業界に特化した記事を執筆してきました。このサイトでは、これらの経験を活かし、飲食業界の皆様に役立つ情報や、日々の業務に役立つヒントを提供していきます。
織田 夏海
GーFACTORY株式会社 Promotion Support 飲食店舗のHPやSNS運用、メディア向けリリース業務などを通して「食」の世界に触れてきました。また、これまで飲食店経営者へのインタビューや飲食業界のSDGsに関する特集記事など、飲食業界に特化した記事を執筆してきました。このサイトでは、これらの経験を活かし、飲食業界の皆様に役立つ情報や、日々の業務に役立つヒントを提供していきます。