2026/03/04
物価は落ち着いたのか?CPI+1.5%の裏で、飲食店が直面する“戻らないコスト”【2026年1月】
2026年2月20日に総務省より公表された2026年1月の消費者物価指数(CPI)は、総合指数で前年同月比+1.5%となりました。2025年12月の+2.1%から伸び率は縮小し、表面的には「インフレは落ち着きつつある」とも読み取れる数字です。
しかし、飲食店経営の現場に立つ視点でこのデータを精査すると、安心できる要素はほとんど見当たりません。むしろ今回の統計は、「コスト高が一時的な異常ではなく、構造として定着した」ことを裏付ける内容でした。
2026年は、単なる耐久戦ではなく、経営モデルの再設計を迫られる分岐点の年になります。
総合指数鈍化の正体とは。 押し下げ要因は限定的
まず、総合指数が+1.5%へと縮小した背景を整理する必要があります。
今回の押し下げ要因は明確です。
- ・ガソリン価格:前年同月比▲14.6%
- ・エネルギー全体:▲5.2%
- ・生鮮野菜:前年の高騰反動で下落
つまり、エネルギー価格と天候要因という外部変数が指数を押し下げたに過ぎません。これは飲食店の原価構造にとって、本質的な改善を意味しません。
実際に、経営へ直結する項目を見ていくと状況はまったく異なります。
食料価格は依然6%台 “高止まり”が意味するものは?
生鮮食品を除く食料は前年同月比+6.2%。
2025年平均が+6.8%であったことを踏まえると、水準はほぼ変わっていません。重要なのは、「ピークアウト」ではなく「定着」している点です。
ここで読み取るべき本質は次の通りです。
食材価格は“上がった後に戻る局面”ではなく、“一段切り上がった価格帯で安定する局面”に入った。
これは経営上、極めて重大な変化です。短期的な値上がりであれば、在庫調整や一時的な価格改定で乗り切ることができます。しかし価格水準そのものが恒常的に上昇した場合、経営モデルを変えなければ利益は回復しません。
食料価格は依然6%台 “高止まり”が意味するものは?生鮮食品を除く食料は前年同月比+6.2%。
2025年平均が+6.8%であったことを踏まえると、水準はほぼ変わっていません。重要なのは、「ピークアウト」ではなく「定着」している点です。
ここで読み取るべき本質は次の通りです。
食材価格は“上がった後に戻る局面”ではなく、“一段切り上がった価格帯で安定する局面”に入った。これは経営上、極めて重大な変化です。短期的な値上がりであれば、在庫調整や一時的な価格改定で乗り切ることができます。しかし価格水準そのものが恒常的に上昇した場合、経営モデルを変えなければ利益は回復しません。さらに重要なのは、この6%台という数字が「一過性の異常値」ではなく、1年以上継続しているという事実です。2025年に急騰した食料価格は、2026年に入っても大きく下がることなく横ばい圏で推移しています。これは、価格が“高い状態”で安定してしまったことを意味します。
つまり今起きているのは、値上がりではなく価格水準の切り上げです。例えば、原価率30%の店舗で主要食材が6%上昇すれば、粗利は確実に圧縮されます。しかもそれが一時的ではなく恒常化すれば、毎月利益が削られ続ける構造になります。売上が同じでも、利益は戻らない。これが高止まりの本当の怖さです。背景には、人件費上昇、物流コストの増加、エネルギー価格の不安定化、為替水準の変化など、構造的な要因が複数存在します。したがって、「そのうち下がるだろう」という前提は極めて危険です。この局面で求められるのは、“原価が下がるのを待つ経営”ではなく、“原価が高い状態を前提に利益を設計する経営”への転換です。
6%台という数字は小さく見えても、経営に与える影響は決して小さくありません。これは「耐える局面」ではなく、「構造を変える局面」に入ったことを示すシグナルなのです。
2025年の米価67%増が残した構造的後遺症
![]()
2025年平均でうるち米は+67.2%。
穀類全体でも+21.9%という衝撃的な上昇でした。
2026年1月も穀類価格は依然高水準です。ここで重要なのは、米価格が“急騰”から“新価格帯への定着”へ移行した点です。この上昇は一時的な不作だけでは説明できません。
- ・生産者の高齢化と供給制約
- ・流通・輸送コストの上昇
- ・人件費の上昇
- ・気候変動リスク
複数の構造要因が絡み合っています。
したがって、2024年以前の原価率を基準にした経営計画は成立しないという現実を直視する必要があります。定食、丼、寿司、弁当など、米依存度の高い業態ほど影響は深刻です。
利益は削られ続けている?外食価格は+3.9%

一方、外食価格の上昇率は約+3.9%。
食料+6%超、穀類+20%超という上昇に対し、販売価格への転嫁は明らかに不足しています。この“差分”こそが、2025年の飲食店経営を最も圧迫してきた要因です。仮に主要食材が平均6%上昇しているにもかかわらず、販売価格を4%弱しか上げていない場合、残りの2%以上はどこかで吸収しなければなりません。さらに米など特定食材が20%以上上昇している業態では、実質的な圧迫幅はそれ以上になります。
これは何を意味するか。
2025年を通じて、
・原価上昇分を内部で吸収
・粗利を削って耐える
・ 人件費や投資を抑制する
・ 値上げを最小限に留めて客数維持を優先する
という“持ち出し経営”が常態化していたことを示しています。表面上は売上が回復しているように見えても、利益率は確実に低下している可能性が高い。
売上は戻っても、利益は戻っていない――これが2025年の実態です。
さらに深刻なのは、その影響が「時間差」で表面化する点です。利益を削る経営は短期的には耐えられます。しかし、
・設備更新の先送り
・人材育成への投資抑制
・広告・販促費の削減
・スタッフの処遇改善の遅れ
といった形で、将来の競争力を削っていきます。
2026年は、この“削られ続けた1年”の結果が体力差として現れる年になります。内部留保に余裕のある店舗は再投資が可能ですが、利益を確保できなかった店舗は、価格改定も設備更新も打てないまま、さらに厳しい局面に入ります。重要なのは、問題の本質が「値上げ幅が足りない」という単純な話ではないことです。
価格転嫁が遅れるほど、
利益率はじわじわと侵食され、
回復に必要な値上げ幅はさらに大きくなります。
つまり、価格改定を先送りすること自体が、将来の値上げリスクを拡大させるという構造です。外食価格+3.9%という数字は、一見すると“努力の成果”に見えます。しかし原材料上昇との比較で見ると、それは「まだ足りない」という厳しい現実を示しています。2026年は、売上規模ではなく、粗利率とキャッシュ創出力の差が明確になる年です。削られた利益を取り戻せるかどうか。それが、生き残りの分水嶺になります。
固定費は静かに上昇している
![]()
さらに注目すべきは固定費です。
- ・電気代(2025年平均):+5.3%
- ・携帯通信料:+11%
- ・サービス価格全体:高止まり
固定費の厄介な点は、「気づきにくい」ことです。食材のように毎日の仕入れで実感しにくく、しかし確実に利益を削っていきます。固定費は売上が減っても下がりません。客数が落ちても、雨の日でも、平日が弱くても、支払いは変わらない。ここに原材料費の上昇が重なると、損益分岐点は静かに引き上げられます。
つまり、「これまで黒字だった売上水準」が、いつの間にか赤字ラインに近づいている可能性があるということです。
今起きているのは、変動費と固定費のダブル上昇という構造的な圧迫です。この状態で価格改定を先送りすれば、利益率は毎月じわじわと削られます。大きな赤字ではなくても、小さな利益の消失が積み重なり、気づいた時には資金余力が失われている。それが最も危険なシナリオです。
固定費上昇は“緊急事態”ではありません。しかし、放置すれば確実に経営の安全余白を奪う静かなリスクです。
コアコア指数+2.6%が示す“戻らない物価”
生鮮食品とエネルギーを除いたコアコア指数は+2.6%。
これは一時要因を除いた“基調インフレ”を示します。つまり、物価はエネルギー高騰などの外的ショックだけで上がっているのではなく、人件費やサービス価格を含めた構造的なコスト上昇によって押し上げられている状態です。仮にエネルギー価格が落ち着いても、コストの土台そのものが切り上がっている以上、物価が簡単に元へ戻る可能性は低い。
この前提に立つと、2026年の経営判断で本当に重要なのは次の点です。
- ・原価は自然に下がると期待しない
- ・価格改定を「様子見」で先送りしない
- ・高コスト構造を前提に利益設計を組み直す
コアコア+2.6%は小さな数字に見えて、実は「戻らない物価」を示す強いシグナルです。
2026年に本当に重要な経営判断
ここからが核心です。
改善策ではなく、「生存戦略」です。

① 原価率の再設計
- ・2024年以前の原価基準を完全に捨てる
- ・米依存度を数値化する
- ・売上構成比×粗利率で利益貢献度を算出
- ・粗利総額を経営指標の中心に置く
② メニューミックスの再構築
- ・穀類依存商品の比率を下げる
- ・高粗利メニューを主軸化
- ・ドリンク・サイドメニューの戦略強化
- ・ポーション管理の標準化
③ 価格改定の再実行
- ・食料6%上昇を前提に再計算
- ・値上げと同時に価値訴求を強化
- ・スタッフ待遇改善をブランド価値に転換
- ・価格に対する「説明責任」を明確化
④ 固定費の構造改革
- ・省エネ投資の費用対効果算出
- ・デジタル化による人件費圧縮
- ・平日稼働率の再設計
- ・客単価×回転率モデルの再検証
⑤ 「元に戻る」という幻想を捨てる
- ・デフレ回帰の期待を持たない
- ・補助金依存から脱却
- ・高コスト前提の事業計画へ移行
まとめ 2026年は“選別”の年
総合指数+1.5%という数字は安心材料ではありません。むしろ、構造的なコスト高が静かに固定化していることを示すシグナルです。
2025年は耐える年でした。2026年は選別される年です。
価格転嫁と効率化を実行できるか。それとも、削られ続けるか。今回のCPIが突きつけているのは、「過去の延長線上の経営は、もう通用しない」という現実です。高コスト時代を前提にした経営再構築。
それができる店舗だけが、次の成長フェーズに進むことができます。
