2025/10/17
特定技能人材が飲食業で輝く|一風堂の評価制度「店長検定」史上初のベトナム人合格者・サーさんにインタビュー!
「自分の価値を高め、社会に貢献できる人材になりたい」——そんな強い信念を胸に、2019年に来日したベトナム出身のサーさん。技能実習生としてスタートした日本でのキャリアは、努力と挑戦の連続でした。現在は人気ラーメンチェーン 一風堂(運営:力の源ホールディングス) において店長代理として活躍し、同社で初のベトナム人・店長検定合格者としても注目されています。彼女が歩んできた道のりと、特定技能人材として描く未来に迫る。
特定技能人材 サーさんの日本でのお仕事事情とは
サーさんが来日したのは、2019年の10月。「自分の価値を高め、社会に貢献できる人材になりたい」という信念を胸に日本へやってきた。渡航先を決めるきっかけになったのは、お母様の助言だったそう。
日本語学校での勉強を終え、2020年から本格的に仕事が始まったサーさん。最初の仕事は、紙やフィルムの加工を行う大阪の工場だったそうだ。
母国ベトナムを飛び出し、技能実習生として日本へ
ーーー母国を飛び出して海外で働く、という選択をするに至った経緯は?
「自分の力で家族を支えたいという思いが強くありましたし、同時に“新しい環境で挑戦してみたい”という気持ちもありました。母国で働いているだけでは得られない経験やスキルを身につけたいと思い、海外での就労を考えるようになりました。最初は不安もありましたが、自分の人生を変えるチャンスだと思って、母国を旅立つ決意をしました。」
ーーー日本を選んだ理由を教えてください!
「私の母が、日本が良い国だと教えてくれたことがきっかけです。実を言うと、当初は中国を渡航先として考えていました。日本に深い興味はなかったのですが、ベトナムにいた時に「日本にはベトナム人の技能実習生も多く安全性のある国です」というニュースを母が見つけて、その助言を受けて日本を考えるようになりました。まずは実際に日本に行って、自分の目で日本がどういう国なのか見つめてみようと思い、2019年に技能実習生として日本にやって来ました。」
日本での初めての仕事は、大阪での工場勤務
ーーー日本に来てからはどんな生活を送ったのでしょうか?
「最初に暮らしをスタートしたのは大阪でした、まずは1年間日本語センターで日本語を学びました。日本語がうまく話せず、指示がうまく飲み込めないこともありましたが、日本人の皆さんがとても優しく、休憩中に日本語を教えてくれるなどの助けもあり、思っていたよりも楽しく働けました。感熱ロールを作る工場で勤務していたのですが、周りはほとんど日本人のスタッフだったので、日本に来たのにベトナム語ばかり使っている、、、と言うことはなく、しっかり普段から日本語を使うことができる環境だったところもよかったところです。」
ーーー日本語がとてもお上手ですが、どのように勉強されたのでしょうか?
「とにかくインプットとアウトプットを繰り返すことです。教科書で学ぶことも多かったですが、何よりも“話すこと”を大切にしていました。間違ってもいいからまずは日本語で話してみる。使わなければ上達しないと思っていたので、仕事の合間や休憩中も積極的に日本語で会話していました。また、覚えた言葉は翌日に必ず使うようにして、間違っていたらその場で直してもらっていました。そうやって“学ぶ、使う、また学ぶ”を繰り返していました。
あとは、日本のバラエティ番組『しゃべくり007』を見て、リアルな日本語の言い回しを覚えたりもしました!」

↑勤務中のサーさんの様子。仕事の覚えも早く、テキパキとこなしていく姿がとても印象的だった。
日本のラーメンに魅せられ、飲食業界へ飛び込む
大阪での勤務を経て、住まいを東京に変えたサーさん。ベトナムで暮らしていた弟が、サーさんと同じように日本で働くことになり、弟を想い相模原へ引っ越したという。彼女が選んだ第2の仕事は、飲食業。国内外で知られる人気ラーメン店で働くことを決めた。
ーーー現在のご職業(一風堂)は、どういった経緯で志したのでしょうか?
「普通のラーメン屋とは一味違うコンセプトに引き込まれたのがきっかけです。正直、最初は“ラーメン屋=男っぽい・汚い”というイメージがありました。でも一風堂は全く違いました。清潔で女性1人でも入りやすく、制服もかっこいい。接客等のサービスも隅々まで行き届いていて、“ここで働きたい!”と強く思いました。実際に働いてみると、スタッフのチームワークやお客様への丁寧な接客など、すべてがプロフェッショナルで感動しました。」
ーーー接客において大切にしていることはありますか?
「“お客様一人ひとりをよく見る”ことです。お子様連れのお客様には子供用の椅子やエプロンをすぐにご用意したり、白い服を着ている方には先にエプロンをお渡ししたりします。ラーメンを提供するタイミングも、お客様の様子を見て調整します。例えばお子様の世話で席を立った場合は、戻ってこられるまで少し待ってからお出しするんです。そうした細やかな心配りが“一風堂らしさ”だと思っています。」

↑お客様の期待を大きく上回る「味」と「接客」を目指し、日々美味しいラーメン作りに向き合っているそう。
史上初!!ベトナム人で最初の店長検定合格者に
博多発の人気ラーメンチェーン店「一風堂」にて、史上初のベトナム人合格者になったサーさん。この「店長検定」は、単なる社内試験ではなく、社員のスキルやマインドを体系的に評価する人事考課制度の一部として、力の源ホールディングスが独自に設けている。
外国人スタッフにも公平な評価機会が用意されており、サーさんの合格は「努力すればきちんと認められる環境」を象徴する出来事となった。
店長検定への挑戦を、特定技能2号への足がかりに
ーーー店長検定に挑戦しようと思った理由は何ですか?
「店長検定に合格すると、会社が特定技能2号取得を推薦してくれるからです。私は特定技能1号なので、将来も日本で経験を積むために2号をとりたいと考えています。そのために、まずは店長検定に合格しなければということで、今回受験することになりました。また、働き続ける中で目標がなければ仕事も楽しくないです。上の役職を目指す=店長やマネージャーになること、を目指そうという気持ちもありました。」
ーーー実際の試験ではどんな内容が問われましたか?
「全部で20問〜30問ほどあり、会社概要から実務力まで幅広く問われます。記述量に制限はなく、書けるだけ書かないといけません。実際にこのような事態になった場合にどう対処しますか?というシチュエーションの問題も出ました。会社の経営方針や理念への理解度、従業員が働きやすい職場環境を整えるための工夫や、原価率の計算など、経営側の知識も必要になるため、かなり前から勉強をして対策しました。試験は記述式がほとんどで、日本語を正しく書く力がないと難しいと思います。試験を受けたことのあるスタッフに事前に話を聞き、正確に日本語を書けるように勉強は日本語でやるようにしました。」
↑店長検定に向けて勉強していた当時のサーさんのノート。記述式の試験に備え、ノートも全て日本語で書いていたそう。
ーーー合格がわかった時はどんなお気持ちでしたか?
「嬉しい!やった!という気持ちと共に、特定技能2号へのスタートラインに立てた感じました。日本でさらに経験を積んでいくために、より一層頑張っていきたいと思います。」
飲食業界では、外国人スタッフの評価や昇進の仕組みが未だ整備されていない企業も多い。人事考課制度を明確に設け、国籍問わず、スタッフ一人ひとりが自分の成長を可視化でき、キャリアアップを目指すモチベーションが生まれる環境づくりは、多様な人材が共に活躍する現代の飲食業界において、欠かすことのできない取り組みである。。
サーさんが受けた「店長検定」のように、努力が正当に評価される環境が整っていることは、人材育成の大きな強みといえる。
成長して感じるやりがいと責任
サーさんの働くお店には、平日で平均200名、週末には450名近くのお客様が訪れる。そんな現場で、ホールも厨房も経験し、着実にステップアップしてきたサーさん。現在は立川店に勤務し、店長代理のようなポジションとして働いている。店長の不在時には、フロア・厨房ともに指揮を取り店全体をよく見ているそう。サーさんにとってのやりがいや喜びはどこにあるのだろうか。
ーーー現在のお仕事のやりがいは何でしょうか?
「やりがいは、やはりお客様の笑顔です。お客様が笑顔でお食事し、笑顔で退店されるのを見ると、自分の頑張りがお客様に届いていると感じて嬉しくなります。1人でも多くの人に笑顔になってほしい、という気持ちを持つことで、私自身もまずは笑顔で接客しよう、店全体を活気づけようという気持ちになりますし、その気持ちをスタッフ全員で共有することで、お店全体の雰囲気が良くなります。当店の店長は立川店含めて3店舗ほどを統括しているので、店長不在時には、私が全体の指揮をとっています。そういう意味でも、全体をまとめる役割を任されていることに大きなやりがいを感じています。」
ーーーサーさんのモチベーションは何ですか?
「ベトナムにいる家族です。私のことを育て、どんな時も応援してくれる家族が何よりも大切です。私が日本で活躍し、経済的にも余裕を持てるようになり、家族を守っていける存在になっていけたらと思っています。」
技能実習生として日本に来日した時から、決められた生活費の中でやりくりし、毎月決めた金額を母国にいる家族に仕送りしていたというサーさん。どこにいても家族を思いやり、想いを糧に日々成長している。
学びを未来へ — サーさんの思い描く将来のビジョンとは
常に目標を持ち、必ず達成しようと努力を惜しまないサーさん。そんな彼女が思い描く「未来」とはどんなものなのだろうか。
自分の価値を高め、社会に貢献できる人材になりたい
ーーーサーさんの将来の目標を教えていただけますか?
「将来的には自分のお店を持ってみたり、会社を立ち上げてみたいと考えています。やりたいのは飲食事業です。今はまだ具体的に決まっているわけではなく、特定技能2号を取得して日本でさらに経験を積むことが当面の目標です。ベトナムにいる家族に胸を張れるように、自分自身を人としてももっと成長させていきたいです。」
2025年9月には、東京都・立川の商業施設「COMMONS TACHIKAWA TACHIHI(コモンズ立川立飛)」 にて新店の立ち上げメンバーに抜擢されたサーさん。店長検定合格者ということもあり、チームをまとめ、共に創り上げていく中心人物として注目されている。
オープニングスタッフとして1から準備に携わったことで、現場を支える責任を実感したという。
さらに、同月に特定技能2号の試験に挑戦。彼女の成長は止まることを知らず、これからもさらに飛躍していくだろう。
今回の取材を通じて印象的だったのは、「評価制度があるからこそ、努力の方向が見える」というサーさんの言葉でした。一風堂(力の源ホールディングス)のように、外国人スタッフにも明確な評価基準とキャリアステップを提示できる企業は、まだ業界全体では少数派です。しかし、そうした仕組みこそが“働く意欲”を引き出し、結果的に店舗全体の成長を支える原動力になるのだと感じました。これからも「人を育てる仕組み」を持つ企業が、飲食業界をより豊かにしていくはずです。
