2026年4月、特定技能「外食業」の新規受け入れが事実上停止されました。この制度変更が飲食業界に与えるインパクトは、「採用チャネルが一つ減った」レベルではありません。
帝国データバンクの最新調査では、飲食店の89.2%が人手不足を実感しており、全業種の中で最も高い数字です。その状況で外国人採用の主要ルートが閉じたことは、採用戦略そのものの見直しを迫るものです。
この記事では、2026年の採用環境がどう変わったかを整理した上で、「外国人採用ありき」から脱却するための3つの打ち手を具体的に解説します。
2026年の採用環境、何がどう変わったのか?
特定技能「外食業」停止の正確な意味
2026年3月27日、農林水産省は特定技能「外食業分野」の在留者数が受入上限の5万人に達する見込みとなったと発表し、同年4月13日以降の新規申請は原則不許可・不交付となりました。
ただし「停止」の対象は新規受入のみです。以下は引き続き可能です。
| できること |
できないこと |
| 現在「外食業」特定技能で働いている人の在留期間更新 |
海外からの新規受入(新規在留資格申請) |
| 「外食業」特定技能保有者の転職(外食業→外食業) |
留学ビザ・技人国からの「外食業」特定技能への変更 |
| 飲食料品製造業など他分野の特定技能はそのまま継続 |
上記以外の在留資格からの「外食業」特定技能への切り替え |
つまり、今後3年間(2029年3月まで)は「国内にすでにいる外食業特定技能人材の転職市場」だけが外国人採用の主戦場になります。海外から連れてくることも、他業種から転換することもできない、非常に限られた供給源です。
なぜ「二重の採用難」になるのか?
今回の制度変更が特に厳しいのは、外国人採用の縮小と日本人採用の競争激化が同時に起きる点です。
- 外国人採用が困難になる→日本人採用に回帰しようとする飲食店が増える
- 日本人採用の競争が激化→若年層の飲食離れで母集団が縮小している中で競合が増える
- 国内在留の特定技能人材の争奪戦→待遇・環境で選ばれる職場だけが確保できる
外国人材を「安い労働力」として扱う店は今後淘汰され、適切な待遇と育成環境を提供できる店だけが人材を確保できる時代になります。これは外国人採用だけの話ではなく、日本人採用でもまったく同じ構図です。
「外国人採用ありき」戦略の3つのリスク
①供給リスク:外食業特定技能の国内在留者は限られており、争奪戦で負けると採用ゼロになりうる
②定着リスク:育成就労制度(2027年創設予定)では転籍(転職)が原則可能になり、採用しても定着しない可能性が上がる
③依存リスク:外国人比率が上がるほど、制度変更・政策変化の影響を直接受けやすくなる
今やるべき打ち手①|既存スタッフの「定着率」を上げる
採用の最大コストは「辞めた人の補充」です。1人が辞めて補充するためにかかるコスト(採用費・研修・戦力化までの期間ロス)は、月給の数ヶ月分に相当するとも言われます。採用を増やす前に、今いるスタッフが辞めない職場を作ることが、最もROIの高い人材投資です。
定着率を上げるために今すぐ確認すべき4点
| 確認項目 |
具体的な問い |
対策の方向性 |
| シフトの柔軟性 |
希望シフトはどの程度通っているか? |
固定シフト制の見直し・希望優先ルールの明文化 |
| 評価・昇給の基準 |
何をすれば給与が上がるか、スタッフが説明できるか? |
評価基準の言語化・定期フィードバック面談の導入 |
| 職場の心理的安全性 |
ミスを報告しやすい雰囲気か?店長に相談できるか? |
定例ミーティング・匿名意見箱の導入 |
| キャリアの見通し |
将来この店でどう成長できるか、スタッフに見えているか? |
ポジション別スキルマップ・店長候補育成ルートの明示 |
「給料を上げれば定着する」は半分正解です。飲食業の離職理由の上位は「人間関係」「シフトの融通が利かない」「成長実感がない」であり、待遇だけが問題ではありません。2026年の若年層は「同じ時給なら条件が良い職場を選ぶ」傾向が強まっており、働く環境の質が採用・定着の両方に直結します(Yahoo!ニュース・エキスパートより)。
今やるべき打ち手②|採用母集団を「多様化」する
日本人・外国人という軸だけでなく、これまで飲食業界が十分にアプローチできていなかった層にも採用の網を広げることが、この3年で差がつくポイントです。
見直したい採用チャネルと対象層
| 対象層 |
採用チャネルの例 |
メリット・注意点 |
| シニア・60代以上 |
シルバー人材センター・シニア向け求人媒体 |
経験値が高い・接客品質が安定しやすい。体力面の配慮が必要 |
| 主婦・主夫層(時短希望) |
地域掲示板・地域SNS・パート特化媒体 |
昼間の時間帯補強に有効。シフト固定制が合わない場合も |
| 外国人留学生(週28時間以内) |
外国人留学生向け求人サイト |
即戦力になる人材も多い。在留資格・勤務時間制限の管理が必要 |
| 技人国ビザ保有者 |
外国人採用専門エージェント |
特定技能と違い外食業でも就労可能な業務がある。業務範囲要確認 |
| 飲食経験者の出戻り採用 |
OBOGへの直接連絡・SNS |
即戦力。退職理由の改善がアピールポイントになる |
特に見落とされがちなのが「技人国(技術・人文知識・国際業務)ビザ保有者」の活用です。特定技能「外食業」が停止している現在でも、一定の条件下で飲食業務に従事できる外国人材は存在します。ただし業務範囲に制限があるため、採用前に在留資格の確認と業務適合性の判断が必要です。
求人票・採用ブランディングの見直しも急務
採用チャネルを広げても、求人票の内容が変わらなければ応募者は集まりません。2026年の求職者が本当に知りたいのは「具体的な業務内容」「評価・昇給の仕組み」「職場の雰囲気・人間関係」です。「アットホームな職場」「やる気のある方歓迎」という抽象的な表現は逆効果になることもあります。
- 業務内容を箇条書きで具体的に記載する(「ホールスタッフ」ではなく業務の一覧を書く)
- 昇給・評価基準をできる限り明記する
- スタッフのリアルな声・1日のスケジュールを掲載する
- 動画や写真で職場の雰囲気を見せる
今やるべき打ち手③|人材育成を「内製化」する
「採れない」問題に注目が集まりがちですが、「育てられない」問題が採用難を悪化させているケースが多いです。育成の仕組みがない職場は、採用してもすぐ辞める→また採用コストがかかる、というサイクルから抜け出せません。
なぜ今「育成の内製化」が重要なのか
外国人採用に大量依存していた飲食企業が直面している問題として、「外国人スタッフのマネジメントができる日本人人材(店長・料理長)がいない」という構造的な課題があります(Food Innovation・note記事より)。
つまり外国人採用を増やすほど、それを束ねるマネジメント人材の不足が顕在化するというジレンマです。育成の内製化は、外国人・日本人を問わず「人が育つ環境」を作ることであり、それ自体が採用力(選ばれる職場)にもなります。
育成内製化のための3ステップ
①業務の言語化
内容:レシピ・接客・発注・シフト管理をマニュアル化する
「自分がやればわかる」をなくし、誰でも同じ品質を出せる状態を作る。
② OJT体制の設計
内容:「誰が・何を・どの期間で」教えるかを明文化する
教える側のスキルがなければ品質は属人化したままなので、育成担当を決める。
③キャリアパスの設計
内容:アルバイト→リーダー→店長候補へのルートを明示する
「この店で成長できる」という見通しが定着率と採用力の両方を上げる
育成の内製化は「時間がかかる」という理由で後回しにされがちですが、採用コストの削減・定着率の向上・多店舗展開への備えという三つの効果が同時に得られます。特に多店舗展開を目指している飲食店には、育成の仕組みがないまま出店することのリスクが大きいです。
失敗しやすいパターンと、今すぐやめるべきこと
やめるべきパターン① 採用費だけを増やす
求人広告の掲載費を増やしても、職場環境・待遇・育成の仕組みが変わらなければ採用できても定着しません。採用費の投資対効果を上げるには、まず「辞めない職場になっているか」を先に点検することが必要です。
やめるべきパターン② 外国人採用だけに依存し続ける
2026年以降の3年間、外食業の特定技能新規採用は実質ゼロです。国内在留の特定技能人材への依存を高めるほど、育成就労制度(2027年)による転籍リスクにもさらされます。外国人採用を完全にやめる必要はありませんが、採用戦略の「一本柱」にしている状態は今すぐ見直すべきです。
やめるべきパターン③ 「人が足りない」まま現場を回し続ける
人手不足の状態でオペレーションを回し続けると、残っているスタッフの負担が増え離職率が上がり、さらに人手不足が悪化するという負のスパイラルに入ります。採用活動と並行して、オペレーションの効率化(DX・業務の絞り込み・メニュー数の見直し等)によって「必要な人数そのもの」を減らす視点も重要です。
採用戦略の再設計は、一社だけでやり切るのが難しい部分も多いです。外国人採用の観点では、変わり続ける情勢に対応していくのも個人では限界があります。外国人採用のチャネル・育成体制・マネジメント強化を並行して進めたい場合は、専門家への相談が最短ルートです。
飲食業界の外国人採用・人材紹介に特化したGF WORKSでは、特定技能停止後の採用環境を踏まえた採用戦略の相談も受け付けています。
よくある質問
特定技能「外食業」はいつ再開しますか?
停止期間は2029年3月まで(最長)とされていますが、再開時期は在留者数の推移によって変わる可能性があります。現時点では「2026年〜2028年の間は新規採用ルートが閉じている」前提で採用戦略を組むのが現実的です。農林水産省の公式発表を定期的に確認してください。
今いる外国人スタッフは引き続き働けますか?
はい。すでに「外食業」特定技能で就労している人材の在留期間更新は引き続き可能です。また、外食業から外食業への転職(在職者の転職市場)も継続されます。今いるスタッフを定着させることが、この3年間の最優先事項になります。
育成就労制度(2027年~)が始まると何が変わりますか?
2027年に技能実習制度に代わって創設予定の育成就労では、これまで原則できなかった転籍(転職)が一定条件のもとで可能になります。これにより、採用した外国人材が待遇・環境を理由に転職しやすくなるため、「選ばれる職場を作る」ことの重要性がさらに増します。定着率を上げるための職場環境整備を2026年中に着手しておくことが、2027年への備えになります。
日本人採用を強化したいが、何から始めればいいですか?
まず現状の求人票を見直すことから始めてください。業務内容の具体化・評価基準の明記・職場の雰囲気の可視化が、応募率改善に直結します。次に採用チャネルの見直しです。これまでリーチできていなかったシニア層・主婦層・外国人留学生(週28時間以内)などへのアプローチを追加することで、母集団を広げることができます。
外国人スタッフのマネジメントに自信がない場合は?
外国人スタッフを採用したものの、マネジメントに課題を感じているケースは多いです。言語・文化の違いを前提にした育成の仕組み(母国語対応マニュアル・多言語フィードバック面談)を整備することが基本ですが、その仕組み作りに専門家の支援を活用することも選択肢の一つです。
まとめ|この3年が「採用が強い店」を決める
2026年の特定技能「外食業」停止は、飲食業界の採用構造を根本から変える出来事です。しかしこれを「危機」とだけ捉えるのではなく、「採用戦略を再設計するきっかけ」として動けた店が、3年後に大きな差をつけることになります。
今やるべき3つの打ち手を再確認します。
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打ち手①:既存スタッフの定着率を上げる(評価・シフト・キャリアパスの整備)
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打ち手②:採用母集団を多様化する(シニア・主婦・留学生・技人国など)
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打ち手③:人材育成を内製化する(マニュアル・OJT・キャリアルートの設計)
「採れる採用」より「辞めない職場」に先に投資する——この順番を間違えると、採用コストだけが膨らみ続けます。帝国データバンクが示す通り、飲食店の89.2%が人手不足を実感している中で、「選ばれる職場」になれた店だけが人材を確保できる時代がすでに始まっています。
この記事が少しでも参考になれば幸いです。






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