飲食店の外国人スタッフ雇用、どこからが不法就労?法律と防止策を解説

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はじめに

飲食店の経営では「人材の確保」が最大の課題です。

人手不足が深刻な中、外国人スタッフを採用するケースは年々増えています。しかし、適切な在留資格の確認を怠れば「不法就労」となり、経営者自身が処罰の対象となるリスクがあります。不法就労は単なる労務トラブルではなく、出入国管理法違反や労基法違反に直結する重大問題です。

この記事では、実際に摘発された飲食店の事例を交えながら、外国人スタッフを雇用する際に経営者が知っておくべき法律や実務対応を解説します。

5人の後ろ姿


なぜ飲食店は外国人スタッフの不法就労リスクが高いのか?

飲食店は人手不足が深刻なため、外国人スタッフに頼る傾向があります。
しかし「誰でも働ける」と思い込んで安易に雇用すると、不法就労助長罪などの重大な法的リスクに直結します。

ここでは、不法就労が起きやすい具体的な理由を整理して見ていきましょう。

 

人手不足で「誰でも雇いたい」状況に?

飲食業界は長時間労働や給与水準の低さから日本人の応募が少なく、慢性的な人材不足に陥っています。

特に中小規模の飲食店では「人手が足りないから、外国人でも誰でも雇いたい」という状況になりがちです。その結果、在留資格の確認が後回しになり、知らないうちに不法就労につながる危険があります。

 

ビザの仕組みを誤解していない?

「日本に住んでいるのだから働けるはず」といった思い込みは危険です。
例えば、

  • 留学ビザ:週28時間以内の制限あり。超えると不法就労。

  • 技術・人文知識・国際業務:専門職向けで、ホールスタッフや調理補助は不可。

  • 家族滞在:原則就労不可。資格外活動許可があれば週28時間まで可能。

このように、在留資格ごとに細かいルールがあり、誤解や見落としが不法就労の大きな原因となります。

 

在留カード確認は意外と複雑?

在留カードには「在留資格」「在留期間」「就労制限の有無」などの重要情報が記載されています。
しかし、一見しただけでは判断できないケースもあります。
例えば、在留資格が「家族滞在」の場合、原則として働けませんが、資格外活動許可を得ていれば条件付きで働けます。雇用主が十分に理解せず「カードを確認したから大丈夫」と思い込むと、違法雇用を見逃してしまうリスクがあります。


実際に起きた飲食店での不法就労トラブル事例

不法就労の問題は「特殊な事例」ではなく、全国の飲食店で繰り返し摘発されています。「就労資格と異なる業務をさせる」「留学生に週28時間を超えて働かせる」「在留期限が切れているスタッフを雇う」など、どれも“ちょっとした油断”がきっかけです。発覚すれば経営者は逮捕や書類送検に直結し、企業としての信用も失います。

ここでは、実際に摘発された飲食店のケースをもとに、よくあるトラブルの典型例を紹介します。

悩んでいる男性

 

就労資格と異なる業務をさせたケース

インドカレーで知られる某飲食店では、埼玉工場でネパール人らを不法に働かせたとして法人と管理職が書類送検されました。本来は「通訳」など専門業務の資格を持つ外国人を、肉まん製造の作業員として雇用していたのです。人手不足を理由にルールを軽視した結果、企業としての信用も失墜しました。

※本人が希望していたとしても資格外の仕事は不法就労になります。

 

資格外活動の範囲を超えたケース

東京都渋谷区恵比寿の某飲食店では、スリランカ人を在留資格の範囲外で調理業務に従事させたとして、経営者が逮捕されました。月304時間の長時間労働をさせるなど、悪質な事例として大きく報道されました。法人も送検され、事業拡大どころか経営継続すら困難な状況となりました。

※「家族滞在」や「留学」などの在留資格は、原則として就労ができないか、厳しい制限があります。

 

在留期限切れのスタッフを雇用したケース

仙台市国分町の飲食店では、在留期限を過ぎたベトナム人を不法就労させたとして経営者が逮捕されました。

この店舗は外国人客を対象にしており、警察が家宅捜索に入る大きな事件となりました。在留期間の確認不足が直接的な違法行為につながった典型例です。

※在留カードの確認不足であっても刑事責任は免れません。

 

留学生の労働時間オーバーのケース

某人気ラーメンチェーン店では、ベトナム人留学生を週28時間を超えて働かせたとして法人と社長が書類送検されました。さらに雇用の届け出を怠った点も問題視されました。経営者が「法律を知らなかった」と説明しましたが、不法就労は意図しても、知らずにでも関係なく処罰されるため言い訳にはなりません。

※留学生アルバイトは週28時間以内というルールがあります。

 


飲食店経営者が知るべき外国人スタッフ雇用の法律とは?

外国人スタッフを雇う際は、入管法や労働法のルールを正しく理解することが不可欠です。

違法雇用は刑事罰や信用失墜につながるため注意が必要です。中小店舗では人手不足から無意識に不法就労や最低賃金違反に触れることもあります。

安心して雇用するには、在留資格や労働条件を確認し、法令に沿った給与計算を日常的に行いましょう。

仕事がたくさんある男性

 

入管法における不法就労助長罪とは?

入管法第73条の2では、外国人を不法に働かせると「不法就労助長罪」として処罰されます。違反すると、経営者は3年以下の懲役または300万円以下の罰金、法人も処罰対象になります。

ポイントは、わざとでも、知らずにでも処罰される点です。つまり、法律を知らなかった、派遣会社に任せていたという言い訳は通用せず、経営者自身が責任を負うことになります。

 

労働基準法と最低賃金法の適用は?

外国人スタッフも日本人と同じく、労働基準法・最低賃金法が適用されます。

「外国人だから安く雇える」と考えることは法律違反です。最低賃金以下の給与や残業代・深夜手当を支払わないことは、不法就労だけでなく賃金未払いとして労基署の指導対象にもなります。

飲食店では繁忙期に長時間働かせるケースが多いため、特に注意が必要です。

 

知らなかったでは済まされない法律リスク

実際に、人気ラーメンチェーンや中規模のカレー工場でも、経営陣が「知らなかった」と釈明したにも関わらず、法人として処罰されています。在留資格や雇用契約の確認義務は経営者にあります。

外国人スタッフを雇う際は、在留資格の種類と活動範囲、就労条件、給与支払状況を必ずチェックし、違反のリスクを事前に回避することが求められます。


飲食店で外国人スタッフを雇うときの確認ポイントは?

外国人スタッフを安心して雇用するためには、採用前の確認作業が欠かせません。

採用時には、在留カードや必要書類の確認、届出義務、労働条件の明示など、法律に沿った手続きをきちんと行うことが重要です。これらの確認を日常業務に組み込むことで、経営者自身と店舗を守ることができます。

 

在留カードを確認する際の注意点

採用時には必ず在留カードを確認し、有効期限・在留資格・就労制限の有無をチェックします。コピーを保管しておくことも重要です。

例えば、留学ビザであれば週28時間までしか働けません。家族滞在ビザの場合は原則就労不可ですが、資格外活動の許可があれば条件付きで働けます。在留カードだけでは判断が難しいケースもあるため、曖昧な場合は法務省や専門家に相談するのが安心です。

確認記録を残すことは、後日の労務トラブルや行政調査における証拠にもなります。飲食店では特に人手不足のため採用を急ぎがちですが、ここを疎かにすると不法就労リスクが高まります。

 

就労資格証明書を取得すべきケースとは?

就労資格証明書とは、外国人スタッフが在留資格の範囲内で働けることを法務省が正式に証明する書類です。取得しておけば、採用した業務が合法であることを事前に確認でき、後から「知らなかった」と言えないトラブルを防げます。

特に、業務内容と在留資格が曖昧な場合に有効です。ホール業務や簡単な調理補助でも、留学ビザや家族滞在ビザのままでは許可が必要なケースがあります。就労資格証明書を申請することで、業務開始前に合法性を確認でき、飲食店の経営リスクを減らせます。

さらに、この書類は採用記録として保存可能で、労働基準監督署や入管の調査時に提出すれば安心です。外国人スタッフを合法的に雇用するために、曖昧な場合は必ず取得しましょう。

 

外国人雇用状況の届出義務を忘れていない?

労働施策総合推進法に基づき、外国人を雇用した際にはハローワークへの届出が義務付けられています。違反すると罰則の対象となるため、必ず届け出る必要があります。

届出の内容には、氏名・在留資格・雇用期間・給与などが含まれます。特に飲食店では複数店舗で雇用するケースもあるため、全てのスタッフ分を正確に届け出ることが重要です。届出を怠ると、法律違反として書類送検される場合もあり、経営者にとって重大なリスクです。

 

労働条件通知書を母国語で用意する重要性

労働条件通知書は、勤務時間・給与・休暇などのルールを明記した書類です。

外国人スタッフが内容を理解できなければ、誤解による労務トラブルに発展します。

可能であれば、母国語で通知書を作成し、面談時に内容を説明することをおすすめします。これにより、飲食店の現場で起こりやすい「言った言わない」のトラブルを防ぎ、従業員の安心感も向上します。

なお、労働条件通知書は従業員本人に交付することが法律で義務付けられています(労働基準法第15条)。飲食店側も、通知書のコピーを保管しておくことで、行政調査や労務トラブル時の証拠としても活用できます。


不法就労が発覚したときの飲食店の対応は?

外国人スタッフの不法就労が発覚した場合、飲食店経営者は迅速かつ適切に対応することが求められます。

放置したり隠蔽したりすると、処罰や社会的信用の失墜といったリスクがさらに大きくなります。重要なのは、早期に事実を整理し、行政機関や専門家と連携して適正な対応策を取ることです。

チェックリスト

 

まずは入管や労基署に報告すること

不法就労が発覚した場合、隠そうとすると事態は悪化します。まずは「入管」と「労基署」に自主的に報告することが重要です。

  • ・入管(入国管理局):外国人の在留資格や就労条件を管理する行政機関です。外国人スタッフが在留資格を超えて働いていた場合や資格外活動をしていた場合には、入管への報告・相談が必要です。

  • ・労基署(労働基準監督署):労働時間や賃金、労働条件が法律に沿っているかを監督する行政機関です。最低賃金以下の給与支払いや長時間労働などがあれば報告・是正指導を受けます。

報告方法は以下の通りです。

  1. ①事実の整理
     従業員の氏名、国籍、在留資格、勤務時間、給与などを正確にまとめます。店舗ごとにスタッフが異なる場合は、全員分を確認してください。

  2. ②入管への連絡
     最寄りの入国管理局に電話またはメールで相談し、必要書類を提出します。相談窓口では、不法就労の状況や改善策の相談も可能です。

  3. ③労基署への連絡
     最寄りの労働基準監督署に連絡し、勤務時間や給与に関する記録を提出します。自主的に改善計画を示すことで、処分が軽減される場合があります。

報告の際に曖昧な情報を伝えると、追加調査や処分の対象になる可能性があります。正確なデータと証拠を準備し、誠実に対応することが重要です。

 

弁護士や社労士に早めに相談する

不法就労が発覚した場合、法律や労務の専門家に早めに相談することが重要です。飲食店経営者だけで対応すると、法的リスクや書類手続きで間違える可能性があります。

  • 弁護士:入管法違反や刑事責任に関する法律的なアドバイスを受けられます。報告書の作成や行政対応、必要に応じた弁護活動も依頼可能です。

  • 社労士(社会保険労務士):労働基準法・最低賃金法に基づく給与計算や労働条件の見直し、再発防止のための制度設計を支援してくれます。

相談する際には、スタッフの在留資格や勤務記録、給与明細など、事実を整理して持参するとスムーズです。専門家と一緒に現状を確認し、改善策を作ることで、行政への説明や将来のトラブル防止にも役立ちます

 

再発防止策を整えて信頼回復を目指す

不法就労問題を繰り返さないためには、組織として再発防止策を整えることが不可欠です。具体的には以下の取り組みが有効です。

  1. ・チェック体制の整備
     採用時に在留カードや就労資格証明書の確認を義務化し、コピーを保管する。勤務時間や給与計算の二重チェックを導入する。

  2. ・教育・研修の実施
     経営者・管理者・現場スタッフに対し、外国人雇用の法律ルールや在留資格の基礎知識を周知する。定期的な研修で意識を高める。

  3. ・システム導入
     勤務時間管理や給与計算をデジタル化し、記録が自動で残るようにする。ミスや漏れの防止につながる。

  4. ・社内ルールの明文化
     採用基準や在留資格確認手順、トラブル発生時の報告フローを文書化して、従業員全員に周知する。

これらの施策を講じることで、行政からの指導や罰則リスクを減らし、従業員・顧客・取引先からの信頼回復にもつながります。

 

従業員や顧客への誠実な説明が大切

不法就労が発覚すると、情報は必ず社内外に伝わります。放置や隠蔽は信用失墜を招くため、誠実な説明が重要です。

  • 従業員向け:問題の経緯や再発防止策を共有し、不安を解消する。

  • 顧客向け:店舗の公式サイトやSNSで、状況説明や改善策を簡潔に公表する。信頼回復を目指す姿勢を示す。

説明の際は、言い訳や責任回避の印象を与えないように注意します。透明性と誠実さを示すことで、店舗ブランドの維持につながります。


まとめ:飲食店が不法就労を防ぎながら外国人スタッフを安心して雇うには?

「不法就労を防ぐ仕組み」を整えることで、店舗の信用を守ることができます。違法雇用が発覚すると、経営へのダメージや社会的評価の低下につながります。

さらに、「安心して働ける環境」を作ることで、スタッフは長く安定して勤務でき、優秀な外国人スタッフを継続的に確保できます。適切な労務管理やルールの周知は、サービスの質向上にもつながります。

また、法令を守った外国人雇用は、リスク回避にとどまらず、店舗の成長にも役立ちます。多様な人材を活かすことで、他店との差別化や顧客満足度の向上も期待できます。こうして安定した店舗運営と持続的な成長を両立させることが可能です。

 

豊幡佳乃
立命館大学 法学部 大学で法律を専門的に学び、法的知識を基盤に飲食業界向けの記事を執筆。食べることが大好きという自身の関心を活かし、飲食店経営者やスタッフの方々が直面しやすい法律問題や制度のポイントを、専門用語をかみ砕きながらわかりやすくお届けしていきたいと考えています。
豊幡佳乃
立命館大学 法学部 大学で法律を専門的に学び、法的知識を基盤に飲食業界向けの記事を執筆。食べることが大好きという自身の関心を活かし、飲食店経営者やスタッフの方々が直面しやすい法律問題や制度のポイントを、専門用語をかみ砕きながらわかりやすくお届けしていきたいと考えています。