SNSで話題!「発信したい」と思われる業態づくりの秘密に迫る

店名を聞くだけで強烈なインパクトを与えるだけでなく、提供されている料理の数々が“エモい”とSNSを中心に話題を集めている飲食店「不純喫茶ドープ」「不健康ランド 背徳の美味」「トーキョーギョーザクラブ」。これらは全てwackwack creative株式会社が運営しています。次々とヒット業態を生み出している同社の代表取締役 井川裕介氏に、その秘訣を伺いました。

 

SNSはUGCの発生に注力

―「不純喫茶ドープ」のInstagramの公式アカウントはフォロワー数1万人以上など、御社の業態はSNSでの話題性が非常に高いですよね。販促としてSNSに注力されているのですか?

 

よく聞かれるのですが、SNSは基本的にUGC(※1)を発生させることの方が重要だと考えています。自社のInstagramアカウントでは当社からの発信を最小限にし、実際にご来店いただいた方の投稿の中からすてきな写真を見つけた際に、そちらをリポスト(※2)していることの方が多いです。

 

(※1)UGCとはUser Generated Contentの略語で、一般ユーザーによって制作・生成されたコンテンツという意味。SNSやブログなどに掲載された写真・文章、また、その他サイト上のレビューやコメントなども含まれる。

(※2)リポストとは、Instagramで他のユーザーの投稿を引用しシェアすること

 

―リポストメインの投稿で、フォロワー1万人ですか!?そんなにUGCの発生って重要なのですね。どのようにしてUGCを発生させることが重要という考えに至ったのでしょうか?

 

大きく分けて二つの理由があります。

一つ目は、運営側の視点よりも消費者からの情報の方がお客様にとってリアルで理解しやすい上に、より信頼性が高いだろうということです。

また、お客様それぞれのアプロ―チで当店を写していただいているので、店舗側からの一方的な発信よりもさらに伝わりやすそうですよね。

 

同じ情報でも発信者が全く知らない人(店舗)と自分のよく知る友人では、感じ方、インプットのされ方が大きく異なります。そのため、フォロワー数に限らず、一つ一つの発信が大切になってきます。例えば、フォロワーが親しい友人のみ200人というアカウントから発信された情報は、来店につながる割合が非常に高いと考えています。

 

二つ目は単純に工数ですね。
リソースが限られている中で、店舗運営と並行して投稿するコンテンツを作り続けるのはなかなか難しいため、効率のいい形で運用しています。もちろん、自社で丁寧に投稿を作成して運用できたら素晴らしいとは思うのですが、今はUGCの方が重要だと考えているのでリポストをメインにしています。

 

井川様は元々SNSマーケティングに明るかったのですか?

 

この分野に関して知識があったわけではないですが、wackwack creativeを設立する前、独立して最初に手掛けたBBQ業態の事業でも販促ツールの一つとしてSNSを利用していました。ビルの屋上に出店したため、目的来店のお客様を集客する必要があったからです。

 

発信を続けているうちにBBQ業態も徐々にUGCが発生し、来客につながりました。そこでUGCの重要性を認識した状況です。

 

wackwack creativeになって運営する飲食店の店舗数、業態が増えましたが、特に“バズ”を意識して投稿するなど、SNS上で何かをしたというわけではありません。消費者の方による投稿が増えたということだと思います。

 

代表取締役 井川氏

最大公約数ではない、こだわりの業態づくり

―どうして消費者による投稿が増えたのだと思いますか?

 

人に「言いたくなる」コンテンツを作ることですかね。それがオンラインであろうが、口頭であろうが、当店の飲食・体験を「誰かに伝えたい!」と思ってもらえれば自然とUGCが生まれます。なので、そのコンテンツづくりが最重要です。

 

―それが難しいです。何かコンテンツづくりのコツとか、秘訣とかがあるのでしょうか?

 

基本的に自分が強く影響を受けたことや好きなことを大事にしています。現代は洗練された、スタイリッシュな店舗やコンテンツがたくさんあります。だからこそ、ゆるさやダサさなどの「あらのがあるもの」が求められている気がしています。その自分の感覚を大切にして業態を考えています。

 

そしてイメージが固まるまでは、あえて社内の誰にも言わないようにしています。大人が何人も集まって考えはじめると、最初は“トゲ”のある尖っていたアイデアがどんどん削られて当たり障りのないものになったり、さまざまなアイデアが組み合わさり最大公約数に近付いてしまったりすることが多いです。万人に受け入れられるかもしれませんが、面白みには欠けるアイデアになってしまいます。そのため、一人で考えて決定事項になってから伝えるようにしています。

 

「心の洗濯、入れる一服」をコンセプトとし、元銭湯の女湯でお酒を飲める背徳感がお客様を引き寄せる「不健康ランド 背徳の美味」

 

―“トゲ”が話題性を呼び、UGCを発生させているのでしょうか?

 

改めて考えてみると、関係があるのかもしれませんね。ただ、SNSで当社が話題なのは、それだけではないと思います。業態を作る際に、あえて“余白感”を持たせるように意識しているのですが、それもポイントだと考えています。

 

“余白感”というのは、「お客様が当店での体験をそれぞれオリジナル解釈できる余白」というイメージです。お笑いでも、「今のはこういうボケで、こう面白いんですよ」というと、まったく面白くなくなってしまいますが、余白があることで「こことここが掛かっているのではないか」「伏線なのではないか」など、お客様個々人による独自の解釈・想像を生み出しています。「誰かに伝えたい!」という思いが強まり、SNSでの発信、つまりUGCの促進につながっている可能性は高いです。

 

不純喫茶ドープの外観
外観や内観など、前店舗の純喫茶の趣を踏襲している「不純喫茶ドープ」

出店は前店舗の雰囲気や“味”などを活かす

―話は戻りますが、強く影響を受けたことや好きなことを大事にして業態を作るとおっしゃっていました。どのように業態へと形作っていくのか、具体的に教えていただけますか?

 

大体、一人で飲みながらぼんやり考えてることが多いですね。そこで出たワードをベースに肉付けしていく感じで作っていきます。

ただ、まったく新しいものを生み出しているわけではなく、既にあるものを二つ掛け合わせてできているケースの方が多いかと思います。ジャンルや種類を問わずたくさんのお店や製品があふれている現代社会でまったくの新しいものは難しいです。実際、既にある2種類以上のものを組み合わせるなどして、面白い新しいものができているケースの方が多いです。

 

例えばトーキョーギョーザクラブは、餃子×ストリートといった掛け合わせで作りました。

当時(2019年)の餃子業態はシャンパンなどを合わせたスタイリッシュなものと、王将のような庶民的なものの2パターンに分かれていると感じていました。
その中間のポジションを狙う業態は面白いのではないかと考え、どのようなコンセプトにするか考えた際に、私自身がヒップホップやストリートカルチャーが好きなこともあり餃子×ストリートとしました。テーマを表現するために、独特なロゴやネオンサインの装飾などを採用しています。
私自身がこれまで見てきたもの、経験してきたことなどのアイデンティティを背景に、やりたいこと、面白いと思うものを追求してアイデアを形作っています。
トーキョーギョーザ―クラブの店内には、店舗名のネオンサインが装飾されている

 

―そのように業態をつくって、いざ出店となっても、各店舗が持つあの“味わい”はなかなか出せないと思うのですが、出店場所はどのように決めていらっしゃるのでしょうか?

 

わざと居抜き物件を選び、元の店舗が持っていた雰囲気や“味”などを活かしながら、DIYで内装を変えてオープンさせています。

 

ちなみに、物件の状態や前の店舗の雰囲気などを活かすことを最も重視しているので、立地はあまり気にしていないです。おかげで、BBQ以外も目的来店型の業態ばかりになっていますね。

 

この姿勢は社名にも反映させていて、ヒップホップ業界などで“つまらない”“ダサい”のような意味を持つ“wack”を「ワクワクする面白いものに作り替える」という意味を込めて、wackwack creativeとしています。

 

―実際にSNSを見て来店される方が多いですか?

 

正確に認識はできていないのですが、SNSを見て目的来店していただく方が多い印象です。事前に当社の店舗のことを認知した上で、たまたま通りかかって「あの店だ!」と入店いただく方も含めると、かなり大きな割合を占めると思います。

 

―今後の展開を教えてください!

 

まだまだ事業アイデアはたくさんあるので、新たな業態を作るところに注力できればと考えています。
既に年内に新たな3業態の新規出店が決まっています。今後は業態開発やブランディングを請け負うサービスと、既存業態のフランチャイズ展開も予定しています。
私は業態開発が得意領域なので、店舗展開はフランチャイズなどで他の企業と協力して進めていければと考えています。

 
※その他、飲食店様のSNS運用に関してのお役立ちビジネスレポートを下記にて公開中!

【ニューノーマル時代の飲食店の販促方法!SNSやGoogleマイビジネスなど徹底解説】