2025/07/07

飲食業界直撃、値上げラッシュ再燃 7月に2105品目、前年比5倍の急増

目次

値上げラッシュが再燃、調味料や菓子中心に2105品目が対象

株式会社帝国データバンクが2025年6月30日に発表した調査結果によると、2025年7月に予定される飲食料品の値上げは2105品目にのぼり、前年同月(418品目)に比べて実に5倍という急増ぶりを示しているこの規模の値上げは2025年1月から7か月連続で前年同月を上回っており、2022年の「値上げ元年」とも言われた時期を超える勢いである。

とくに注目すべきは、調味料カテゴリの大幅な増加で、全体のうち実に1445品目が調味料に集中している。これはカレールウやスパイス、顆粒だし、液体だしなど、和洋中を問わず飲食業の基礎となる食材群が中心であり、原価への影響も極めて大きい。

一方、「菓子類」は196品目が値上げ対象となり、2025年3月以来4か月ぶりの高水準に。チョコレートやガム、スナック類など多様な製品で値上げが行われている。

また、「加工食品」では117品目が対象で、冷凍ごはん、パックごはん、パスタソースなど、主食や主菜に直結する製品が目立つ。

これらの動向は家庭用食品に留まらず、飲食店で使用される業務用商品への波及も避けられない。平均値上げ率は15%と、昨年の同時期(17%)よりやや下がってはいるが、依然として高い水準で推移している。

 

原材料高・エネルギーコスト・人件費が三重苦に

今回の値上げトレンドを読み解く上で、背景にあるコスト要因の複雑化が注目される。

調査によると、今回の値上げ品目の97.2%が「原材料価格の高騰」によるものであり、これは前月の98.0%からはわずかに減少したものの、依然として主要因である。

特に影響が大きいのは、小麦粉、食用油、米といった、主食・調理油の主要原料である。これに円安の影響も加わり、輸入コストの上昇が企業努力では吸収しきれない状況となっている。


また、「エネルギーコスト」の上昇も顕著で、全体の66.4%が電気・ガス代の増加を価格転嫁している。特に2025年に入ってからの中東情勢の緊迫化により、原油価格が再び上昇に転じており、原油が1バレル100ドルを超える水準に達した場合、2022年のような“原油連動型の値上げ連鎖”が再来するリスクもある。

さらに、人件費の上昇も深刻である。全体の53.9%の値上げ品目が、労務費の増加を要因としており、これは2023年以降の集計開始以来、最高の割合である。飲食業界では慢性的な人手不足が続いており、最低賃金の引き上げに伴う人件費増が避けられない構造となっている。特に中小規模の飲食店では、賃上げと食材コストのダブルパンチが経営を直撃している。

 

飲食店が取り得る選択肢とは:価格転嫁だけでは立ち行かない

こうした厳しいコスト環境のなか、飲食店がどのように生き残るかは、単なる価格転嫁にとどまらない創意工夫が求められている。

例えば、値上げされた調味料については、既製品の使用を見直し、店舗で手作りする自家製ドレッシングやソースに切り替えることで、コストコントロールとブランド価値向上を両立できる。また、メニュー全体の見直しも有効であり、ランチやセットメニューの構成を変更することで、実質的な値上げを感じさせずに客単価を維持するアプローチが注目されている。
さらに、内容量の調整や原材料の置き換えも一つの手段である。たとえば高騰している牛肉の代わりに、鶏肉や豆類を使ったヘルシーな新メニューを開発するなど、「コスト削減」と「健康志向」を同時に打ち出す施策は、現代の顧客ニーズにもマッチする。また、デジタルオーダーシステムやセルフレジの導入によるオペレーションの効率化も、人件費削減策として効果的であり、店舗規模にかかわらず導入の動きが広がりつつある。

 

〈食料品値上げへの具体的な対策例〉

・既製品の調味料から、自家製ソース・ドレッシングへの切り替え

・メニュー構成の再設計

・内容量の調整(ポーションコントロール)

・高騰食材の代替利用

・健康志向・新価値提案の同時訴求

・デジタルオーダーシステム/セルフレジの活用の導入


値上げトレンドの先にある「持続可能な飲食経営」の模索

帝国データバンクは、2025年の値上げ品目数が早ければ7月にも2万品目を超えると予測しており、年間では2022年の記録(2万5768品目)に迫る可能性すらある。

このような持続的な物価上昇圧力は、経済全体における「インフレ定着」への兆しとも言える。したがって、飲食業界においては、今後も続くと見込まれる価格変動リスクへの備えが欠かせない。
とくに、原材料やエネルギーといったコスト要因は飲食店の努力だけでは制御できないため、「変動する環境に対応できる柔軟な経営モデル」への移行が急務である。たとえば、原材料調達の多様化や、地場産品の積極的な活用、価格変動に応じてメニュー構成を随時変更できる「ダイナミック・プライシング」的発想も、今後注目される経営戦略の一つとなるだろう。

まるっと飲食情報局-1

宮原康助
ケムニッツ工科大学院 哲学部大学ではコミュニケーションを専門に学びながら、「どうすれば人の心に届く表現ができるのか?」を考えてきました。記事では、読む人にとって“わかりやすくてタメになる”、そしてほんの少しでも前向きになれるようなコンテンツを目指しています。「食」は誰かにそっと寄り添う力があると信じています。その魅力と可能性を、さまざまな視点から丁寧に発信してまいります。
宮原康助
ケムニッツ工科大学院 哲学部大学ではコミュニケーションを専門に学びながら、「どうすれば人の心に届く表現ができるのか?」を考えてきました。記事では、読む人にとって“わかりやすくてタメになる”、そしてほんの少しでも前向きになれるようなコンテンツを目指しています。「食」は誰かにそっと寄り添う力があると信じています。その魅力と可能性を、さまざまな視点から丁寧に発信してまいります。