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2019/12/17
東京・戸越銀座にドミナント展開して方向性を見出す

東京都品川区にある「戸越銀座」は全長1.3㎞、約400軒の商店で構成されている日本有数の商店街である。ここは3つの商店街によって構成されていて、アーケードのデザインも微妙に異なっている。一本の道でつながる大きな商店街で共生しようという結束が感じられる。
この商店街の中に3店舗、さらに徒歩で20分ほど離れた武蔵小山商店街に1店舗を構えるのがネバーランド(代表/澤田泰広)である。この連載がきっかけで筆者は代表の澤田泰広氏と会うようになり、「戸越」という地名が「江戸を超える」という意味であることを教えてもらった。また、戸越商店街を分断する形で大きな道幅の幹線道路「第二京浜」があるが、これは戦時中に滑走路として使用されていたのだという。地元の由来に詳しいのは、これらのことを地元の商店街の大御所と交流することによって教えていただく機会があるのだという。
目次
キッチンの仕事を志願して飲食業に魅入られる
澤田氏は1986年3月生まれ。現在は戸越銀座にドミナントを設けて地元密着の商売をしているが、出身は東京・浅草である。代々和食店を営む家庭で生まれ育ち、忙しい環境の中で幼少のころから家の仕事を手伝った。また、職人がきびきびと働いている様子を眺めることが好きだった。
飲食店で働くことが楽しくなり、高校時代にフグ料理店でアルバイトをした。同店にはコンサルタントがいて、澤田氏が「将来飲食店のコンサルタントになりたい」と相談したところ、「キッチンを知っておいた方がいい」とアドバイスされた。そこで志願して働くようになってから、飲食業の面白さに魅入られた。この流れで大学は経営学部に進んだ。

大学3年生の時に、人気テレビ番組「料理の鉄人」でも注目された東京・代官山のイタリアンで働くようになった。同店は今日のようにwebのない時代でも2カ月、3カ月後の予約が取れない店であった。京野菜とイタリア野菜を組み合わせ、オリーブと塩で食材を生かすという同店の姿勢を身に着けていくうちに野菜を扱うことが大好きになった。
同店での体験によって飲食店で独立することを意識するようになった。職場を変えていくが「起業のために学びに行く」という感覚だった。野菜をメインにしたレストラン、カフェを中心とした多業態を展開する会社などでさまざまな現場での経験を積み、起業を準備している時に、ホルモン焼きの繁盛店で店長を務めていた幼馴染みと再会した。その人物が現在ネバーランドの副代表を務める上野俊樹氏である。
浅草出身者が戸越銀座に浅草の空気感を感じ取る
澤田氏は上野氏と意気投合して焼き肉店で働き、2014年10月に1号店であり「本店」となる「炭火ホルモン焼のネバーランド」で独立した。
戸越銀座との縁は、澤田氏が浅草の神輿を担いでいたことがきっかけで、戸越銀座の神輿を担ぐ機会があったことが始まりだ。東急池上線の戸越銀座駅に降りた時に商店街の暖かい空気感が伝わってきて、初めて降りた感じがしなかったという。浅草に何となく似ている雰囲気に好感を抱いた。
その後、戸越銀座を訪ねることはなかったが、物件を探している過程で「本店」の物件が出てきた。韓国料理店を営んでいたものだが店の規模が想定していた通りのもので、店を開けた瞬間に自分たちが営業している様子が想像できた。路面店であったことも希望通りであった。そこ造作を変更して現状の店舗をつくった。

店舗規模は8坪弱18席。「ちょっと狭いのではないか」と尋ねたところ、「これくらいの規模が店の状態を把握しやすく、お客さまと従業員との一体感が醸し出される」と言う。
「本店」に続いて戸越銀座に2018年7月「裏ネバーランド」(以下、裏)をオープンした。店名通りに「本店」の裏にあり10坪弱である。
経営を学ぶようになり「ドミナント戦略」に進む
「本店」は店頭の焼き台で店の従業員が肉を焼いてくれるスタイル。「裏」は自分で肉を焼くスタイル。このように隣り合わせの店で肉の焼き方を選べるようにしている。
一般的な焼き肉店は、店でもみ込んだ肉をお客さまに焼いてもらうというスタイルである。しかしながら、レストランのキッチン経験を重ねてきた澤田氏にとって、キッチンで調理をすることは当たり前。そこでキッチンで焼き肉を焼いてお客さまに提供するというスタイルの店が自然と生まれた。

「本店」と「裏」で両方の機能を持つことによって、お客さまからの反響はさまざま、焼いてもらう方がいいという人もがいれば、自分で焼きたいという人もいる。そこで、ドリンクを含めて、「本店」と「裏」の店とメニューを変えている。「本店」ではワインを導入するなど、バル的な要素を付け加えているが、「裏」は大衆路線を貫くホルモン屋の営業に徹している。そこで隣り合わせの店をはしごするという使い方をしている人もいる。
ネバーランドでは「裏」を出店する前の2016年2月、東京・市谷に「本店」と同じ業態を出店している。しかしながらここは半年で撤退した。「本店」から距離が離れていて、売上も市谷が上がれば戸越銀座が下がり、戸越銀座が上がれば市谷が下がるという感じでシーソーゲームとなり、二者択一から結果戸越銀座の店を残すことにした。
この経験から本格的に勉強することを決意して経営塾に通うようになった。以前は税理士より経営の指導を受けていたが、経営塾に通うようになってから経営方針を主体的に考えるようなった。
こうしてドミナントの重要性に気付くようになり、「裏」のオープンから5カ月の2018年12月に鶏肉の焼き肉店「鶏ネバーランド」(以下、鶏)を武蔵小山にオープンした。客単価は「本店」が3500円、「裏」は4500円、「鶏」が2500円から3000円あたりとなっている。

カラオケバーをオープンして街の相乗効果を図る
ネバーランドがドミナント戦略を一歩進めたのは2019年10月に「NE 酒(bar)LAND 宴」(以下、宴)をオープンしたことだ。同店は「本店」「裏」から200mほど離れた同じ戸越銀座の中にある。20坪のカラオケバーで、ネバーランドの店の他に周辺の飲食店の二次会需要を喚起するという発想だ。
店内の席はスタンディング席、カウンター席、ソファー席と分かれていて、カラオケの料金体系が異なるが、スタンディング席とカウンター席は「お酒を楽しみたい方」、ソファー席は「お酒とカラオケを楽しみたい方」という趣旨になっている。「本店」と「裏」を利用したお客さまの二次会利用では、1人3000円以上のレシート持参でセット料金2時間無料、「鶏」からのお客さまは上記のレシート持参で、タクシー代割引も選択できる。近隣店舗からの2次会利用はセット料金1時間無料となっている。「宴」の存在はネバーランドにとっては会社に売上オンをもたらし、戸越銀座という地域にとっては「遊び場」としての機能を豊かにしている。忘年会・新年会のシーズンでは「宴」をセットにしたプランが増えていきそうだ。
また、「宴」の店内には大きなプロジェクターがある。これがキーとなる装置として、スポーツの国際大会がある時には、そのスペースで地元の人が大いに盛り上がり、また土日祝日の日中にはお年寄りのカラオケ大会などを検討することができる。

ドミナント戦略で生まれたさまざまな効果
ネバーランドがドミナント戦略に舵を切ってメリットを感じていることは他にもある。
まず、既存店にファミリー客と同時にリピーターが増えてきた。人材採用は既存の従業員の紹介で入ってくるようになった。「本店」が創業時より来店しているファミリーの子供が高校生となりアルバイトをするようになったという例もある。「戸越銀座で新しいことを始める」という発信をすると興味を抱いてくれる人が増えた。30代の従業員がそろうようになり、さまざまな前職の視点からのアイデアがもまれていく。
澤田氏は、「これからもドミナント戦略で進んでいく」と述べる。そのイメージするゴールとして「浅草のホッピー通りのような……」とビジョンを語る。特徴のはっきりとした楽しい飲食店にはお客さまも従業員も集まり、さらに個性的な店が集まって街がにぎわっていく。澤田氏が初めて降り立った戸越銀座の浅草に似ていると感じた空気感は、ネバーランドによって浅草とはまた別の形で活気のある街として育っていくのではないか。