名物メニューを外販商品化して、お客との信頼を強くする

「日本一おいしいミートソース」という名前のパスタがある。これを食べられる店は、カジュアルイタリアンの「TOSCANA」「Quattoro Cuori」「TRiPPAiO」と、大衆居酒屋の「東京MEAT酒場」だが、どちらもリラックスして食事ができる。パスタのネーミングは思い切りよく堂々としている。また商品はすべて無化調(化学調味料を使用していないこと)で経営理念の「健康的な食材にこだわる」に沿った努力を感じられる。

 

各店舗の店内で販売されるようになった「日本一おいしいミートソース」

これらのカジュアルイタリアンと大衆居酒屋を展開しているのが株式会社イタリアンイノベーションクッチーナ(本部/東京都渋谷区、代表/四家公明・よつやひろあき)。同社は直営11店舗を、のれん分けで2店舗を展開している。このパスタは月間6100食を売っている。パスタ通にはよく知られる商品となっており、同社としても今年の年初から外販商品として育てている。

 

起業してスパゲティの専門店にこだわる

同社代表の四家公明氏はスパゲティ専門の名店である「スパゲティ ハシヤ」(以下、ハシヤ)で修業し、1992年26歳の時に独立、東京・武蔵小山に「とすかーな武蔵小山総本店」を開業した。オープンした当時、周りの人から「武蔵小山じゃ専門店は難しい」と言われたが、四家氏は自ら打ち立てた方針を崩さず、価格も修業したハシヤと同じ設定で商売をスタートした。

 

ミートソースを名物にしたのは、1999年5月にオープンした代々木店から。「ここの店のミートソースは日本一おいしいね」と言ってくれる来店客がたくさんいたことから、店頭の看板に「日本一おいしいミートソース」と宣伝したところ、どんどんとお客が来店するようになり、グランドメニューもこの名前にした。

 

2005年5月に吉祥寺店をオープン。同店は2階で営業していたが、お客は1階のA看板(スタンド看板)を見てくれてもなかなか2階に上がってくれない。そこでその看板に「日本一おいしいミートソース」をうたったところ、お客はどんどん2階に上がってくれるようになった。ここで四家氏は「ネーミングは重要な動機付けだ」と確信するようになった。

 

2010年6月、神谷町店をオープンするに際して「日本一の名前に恥じない商品にしよう」とあらゆる食材と作り方を一つ一つ見直すことから始めた。

 

四家氏が仕込みを行うときはパスタソース72人前を一度に作る。「日本一おいしいミートソース」が完成するまでは、その仕込みの際にさまざまな肉の焼き方を試したり、マッシュルームを中国産缶詰から国産の生に切り替えたり、赤ワインを無農薬フルボディに変えたり、原価を気にすることなく試行錯誤を繰り返した。この神谷町店で取り組んだことが今日の「日本一おいしいミートソース」の骨格を作った。

株式会社イタリアンイノベーションクッチーナ、代表取締役社長兼現場作業員という肩書の四家公明氏

 

四家氏はこう語る。

「日本一おいしいミートソースがうまくいったのは、社長である僕が原価を気にしないで作ったということが要因です。売値を先に決めて原価をケチって商品開発をすると、ろくなものができません。ワンマン経営でやっていると、独断と偏見で商品開発ができます。そこで、ものすごくおいしいものができたときに、そこから価格をお客様負担にならないよう生産者さんを巡り試行錯誤して誰でも手が届く価格になるように努力しました」

 

当初からテイクアウトが求められた人気商品

「TOSCANA」の代名詞ともなっている「日本一おいしいミートソース」であるが、テイクアウトを求めるお客は創業当時から多数存在し、最初は簡易なパックで提供していた。武蔵小山総本店は8坪の店だが、コロナ禍以前からテイクアウトで毎日1万円程度を売り上げていた。

 

長い間、「日本一おいしいミートソース」の販売量を増やしたいと思い、麺をビニール袋にソースはパックに詰めて、それを手提げ袋に入れて販売していた。

 

しかしながら、忙しい営業時間中に従業員がこのような商品を詰める作業は非常に困難である。

そこで四家氏はひらめいた。「ミートソースを瓶詰にすると、営業時間中にパックに入れる作業はなくなる」と。

このようにミートソースの売り方を思案している最中にコロナ禍がおきた。

 

「TOSCANA」ではパスタ用の辛みソースとして、タバスコではなくハラペーニョを緩いペースト状にしたものを小さなボトルに入れて提供している。これは同社が協力工場に製造を依頼しているのもので、このボトルをコロナ禍以前から外販商品として販売し(1個800円)、人気商品として定着させている。

 

さて、人気商品の「ミートソース」は基本となるデミグラスソースを長崎にあるアリアケジャパン株式会社の九州工場で毎月2t製造してもらい、東京都江東区辰巳の物流センターに集約し各店に配送。各店では、肉を焼いて、マッシュルームを入れて、といったミートソースの調理を行う。

瓶詰についてはキッチンが広い神谷町店で行っている。完成品の一歩手前のミートソースを瓶に詰めてから1時間煮沸する。この瓶詰の賞味期限は常温で1年間となっているが、食品検査では450日間常温で置いていても大丈夫なことが証明されている。

⿂介類を陳列し、⾷材の新鮮さをアピールしている

 

ラベル作り、販促も無理なく丁寧に行う

ラベルのデザインは、クラウドソーシング仕事依頼サイトの「ランサーズ」の存在を知り、ここでのコンペによって5万4000円でできあがった。

このように、「ミートソース」の瓶詰は手作りの要素が結集して販売に向かっていった。

 

瓶詰商品の発売が開始されたのは、店が休業している最中の4月20日からのこと。まず、通販から着手した。

四家氏はFacebookで活発に発信をしていて、この瓶詰商品の販促もFacebookのみで行った。注文は四家氏のメッセンジャーで受け取り、それを慎重に書き写して着払いの郵便サービスで商品を届けた。

 

この瓶詰商品は3人前のミートソースが入っていて1瓶1600円となっている。この瓶詰1個、自家製生パスタ3食分、調味バター3食分、「おいしく作るためのレシピ」1枚がセットで2800円になっていて、お店で食べるよりお得な設定にされている。

 

これらの外販商品は店内に陳列されていて購入することもできる。前述の発売開始以来、瓶詰は980本を販売(6月23日時点)していて、今後、食品スーパーへ販路を広げるために、レトルトパック商品も2300パック完成させた。

 

一皿の料理がもたらす高い生産性

コロナ禍での営業は総菜、弁当、ミールキットの販売に盛んに取り組んだ。同社の店舗では武蔵小山総本店をはじめ、石神井公園店、浦和店、経堂店など住宅街に店舗があるが、これらの店舗では総菜がよく売れて、コロナ禍であっても前年実績を上回る店舗もあった。営業体制を厚くするために、12人の内定者が勤務に就いた。

 

一方、4月中の休業期間は通販以外の営業を行わなかった。この期間は座学のセミナーに充て、取締役営業本部長兼人事部長の青木秀一氏が自作の資料を用意し、『7つの習慣』に基づいた研修を社員やアルバイト向けに行った。個人面談で社員・アルバイトのストレスを解消するようにも努めた。代表の四家氏は、同社の理念である「無添加・無化調」の目的とその意義、また世の中におけるお金の役割の勉強や同社が置かれている状況などについて解説した。

 

コロナ禍は、イタリアンイノベーションクッチーナにとって、プラスの要素をもたらしたようだ。以前から本格的に着手したいと考えていた看板商品「日本一おいしいミートソース」の外販の仕組みが整い、また、弁当・惣菜の可能性も実感した。同社にとって、収益の柱は1本だけでなくなり、さまざまな柱が動き出している。

 

四家氏は、同社がパスタによって生産性の高い体質を築いていることを誇りとして、これからの展望についてこのように語る。

 

「僕はランチにパスタをガンガン売っているスパゲティハシヤで修業したからこそ、ランチは儲かって当たり前ということが基礎にあります。優れた商品を作り提供しているのだからランチでも利益が出て当たり前です。パスタ屋さんが儲かりやすいのは、基本的にイタリアのマンマ(お母さん)の料理なので作業工程が少ないこと。1200円の商品を売るとしても、パスタ屋さんでの器は定食屋さんと違い一皿で済みます。手間が少ないことで生まれた余裕から、当社の理念『健康にこだわる』に沿った、ブロード(出汁)を使った無化調のこだわり料理の提供を徹底することができます」

代々木店はこじんまりとした個人店のようなアットホームな雰囲気が漂う

 

「無化調にこだわることで、お客さまからの信頼を得られています。親御さんが当社の店で瓶詰のソースを購入して『店で食べるのとまったく同じように作ることができて感動した』と思い、それを食べたお子さんが『今度は店に行ってみたい』と言います。このように外販商品がもたらす販促の効果は、とても大きいものと考えます」

 

ちなみに同社の社訓は「料理を通して多くの人を幸せ(健康)にする」というものだ。同社の強みは「おいしいパスタがたくさん売れる販売力」と「再現性と生産性の高い時代のニーズにあった商品開発力の高さ」にある。これからはソースや生パスタの販売に限らず、無添加の調味料とドレッシングなど、商品・販売先ともに無限に広げられる。同社の今後を大いに注目したい。

 

※価格は税別です