地元密着で利益体質の総合居酒屋を育て「会社成長」に向け好待遇を整える

地元密着で利益体質の総合居酒屋を育て「会社成長」に向け好待遇を整える

目次

東京都の千葉県寄りで「かんぱい家」という居酒屋が店舗展開をしている。東西線の西葛西2・葛西1、そして総武線の亀戸1・平井1と計5店舗ある。運営しているのは株式会社G-vision(本社/東京都江戸川区、代表/伊藤穣二)で、アイキャッチは代表の伊藤氏(41歳)である。

2-e店舗 店頭s

「かんぱい家」亀戸店の店頭。「大衆酒場」であることを最大限アピールしている

同店の特徴は店頭のアピールが個性的なこと。まず「昼から飲んで何が悪い?」と表示。さらに赤い文字で「情熱価格イベント」という曜日替わりの「お得な価格メニュー」を表示している。具体的には以下の通り(亀戸店の例)。

・月 八兵衛餃子 半額

・火 若鶏からあげ 39円(税込43円)

・水 120分飲み放題 999円(税込1098円)

・木 ぶつ盛り マグロ・タコ 39円(税込43円)

・金 イカリングフライ 39円(税込43円)

・土 本鮪中とろ 100円(税込110円)

・日 広島カキフライ 半額

 

「120分飲み放題 999円」を注文する際の条件は「お一人様2品以上のフードオーダー(390円以上)」、それ以外は「1テーブル1人前」となっている。

 

このアピールの隣りには「安心の飲み放題」の告知がある。

・平日限定60分 999円(税込1098円)

・120分飲み放題 1599円(税込1758円)女性は100円引き 日本酒も飲み放題+300円

・180分飲み放題 1999円(税込2198円)女性は100円引き 日本酒も飲み放題+300円

――この下には、フードメニューを2品以上注文することなどの条件が書かれてある。

 

これらの表示を見て、一瞬「昼から飲める、激安がウリの居酒屋か」と思う。しかしながら、実際に店に入って、これらのサービスを体験すると、接客は笑顔で丁寧で、フードメニューのクオリティが高い。店内は、地元のリピーターと思われるお客で大層繁盛している。このような「かんぱい家」の売り方に、明確な「コンセプト」が存在すると感じ取った。

3-e店舗 看板s

店頭で「39円」が連なる「情熱価格イベント」と「安心の飲み放題」をアピールしている

開業当初、深夜の出前を積極的に行い売上つくる

G-vision代表の伊藤氏は、飲食業の経験を重ねて、2018年7月に「かんぱい家」1号店の西葛西店をオープンした(12坪24席)。2018年で35歳の当時であった。夕暮れ時の17時に店を開けて、しばらくは深夜営業を行って様子を見ようと考えた。それが24時まではお客が入るが、それを過ぎるとパタリと来ない。

 

この深夜帯に売上をつくるために、深夜営業の店にメニューブックを持って営業に赴いた。行き先は、フィリピンパブ、キャバクラ、スナック、雀荘等々。この出前は安定して注文が入るようになり、特に主力商品の焼鳥は「手が汚れない」ということで雀荘から好評を得るようになった。客単価3000円で月商目標の400万円に達するようになり、この出前の売上はその1割を占めるようになった。

 

2020年に2号店の葛西店をオープンしたとき、転機が訪れた。物件契約を正式に行うまで、ここで深夜営業ができると思っていたが、それができないことが判明。

そしてコロナ禍となった。居酒屋営業ができない状態に。すると、近くのラーメン店のご主人から「ラーメンのつくり方を教えてあげる」とご好意をいただき、昼時にラーメン店営業を試みた。しかし、ラーメンが売れずに赤字が続いた。

 

ここで昼時のラーメン店を諦めて、営業方針を「昼から飲んで何が悪い?」に切り替えた。緊急事態宣言があけた8月の当時で、このコンセプトは大いに繁盛した。この勢いに乗って、「かんぱい家」は、3号店を再び西葛西に、4号店を総武線の平井に、5号店を同じく亀戸にと、急ピッチで展開していった。

 

原価率20%あたり、FLコスト50%前半に抑える

G-visionでは、同社の行動指針である「クレド」を作成して従業員の意思一致を図っている。それがまとめられた冊子をめくると、冒頭にこのような文言が掲載されている。

「お客様の意外と美味しいが最大の誉め言葉」

 

――大衆酒場かんぱい家では【敷居が低く・旨い・安い・ボリューミーな料理】 居酒屋でありそうで無かった【あったらいいな】と思える料理を提供しようと思っています。安いからあんまり期待していなかった…でも食べてみたら【意外と美味しい】 このギャップがお客様の笑顔になります。――

 

冒頭で紹介した、「39円」の価格がつらなる「情熱価格イベント」や「安心の飲み放題」は、同店の「昼から飲んで何が悪い?」が地域の人々に定着してきた2022年あたりから定番化するようになった。

 

「かんぱい家」の客単価は現在3500円である。決して「安売り」の居酒屋ではない。フードメニューは約80品目があり、単品価格の中心価格帯は500円~600円。刺身の鮮度はしっかりしていて、単品は少人数向けに設計されているがボリューム的には十分である。伊藤氏はこう語る。

 

「『情熱価格イベント』の『39円』や『安心の飲み放題』は、お客様にとっての『生活応援』の感覚で行っていること。お客様はこのメニューと価格を狙って来店するが、これだけを食べているいるわけではない。いろいろな食事をされて客単価3500円となっている」

 

「39円」のメニューはお客の100%が注文し、7割が「安心の飲み放題」を注文している。そして、約80品目のフードメニューによって、絶妙な粗利ミックスが生まれる。これらで原価率は20%あたり、FLコストは50%前半に抑えられている。

4-e店舗 ブリかま39円s

筆者が西葛西店を訪れたときに「情熱価格イベント」として、数量限定で「ブリかま」が39円で販売されていた

「総合居酒屋を否定的捉えている人がいるが、僕はそうは思わない。店の中に『居酒屋にありそうなメニュー』があるといった品ぞろえが、お客様のかゆいところに手が届くサービスだと考えている」

 

そして、このような品ぞろえにお客は安心感を抱き、リピーターとなってさまざまな使い勝手を楽しみ、粗利ミックスによって利益をもたらす営業環境をもたらしている。

 

教育・研修に力を入れ、好待遇で人材を募る

G-vision代表の伊藤氏は、「会社の成長」に舵を切るようになった。そして、会社の利益を従業員の「教育」に投資をして、「待遇」を厚くするようになった。

 

同社のホームページの「採用情報」には、これらの画期的な内容が公開されている。

書き出しは【未経験でも30万スタート】【年間休日109日】【完全週休2日制】で始まり、さまざまな待遇を詳細に掲げ、年収の例も公開している。

 

教育・研修については、2024年より1泊2日のクレド研修を行っている。今年も「2月3日(月)2月4日(火)研修合宿の為に店休」という告知ポスターを店内に掲げて、同社の真剣な教育的環境をアピールした。

 

現状の社員は13人、アルバイトを含めた全従業員は30人程度となっている。これからこの人員体制を増やしていって、事業拡大のビジョンを描いている。

 

それはまず、現状店舗を布陣している、東西線と総武線の沿線で業種・業態を広げていくこと。さらに、常磐線の亀有や綾瀬を拠点として、松戸や柏へと広げていきたいと考えている。これらの店舗は「かんぱい家」だけではなく、ホルモン焼きの店、油そばの店など、飲食業のバラエティを広げて展開していく。さらに、理容店など、従業員の福利厚生に役立つような店舗や施設を展開していこうと考えている。

 

「気が付くと、G-visionによって町が出来上がっている。このように、町づくりにつながるように事業を進めていきたい」

 

伊藤氏はこう語り、従業員の教育・研修や好待遇の保全に余念がない。いま人事コンサルティング会社に手伝っていただき、新しい制度づくりを進めていて、この3月からこの新しい制度に基づいて事業を展開していくという。

5-e店舗 壁s

壁にメニュー内容を張り付けていて、その一部に(右下)同社が「教育・研修」に熱心に取り組んでいることをアピールしている

tetsuyuki_chiba
千葉哲幸(ちば てつゆき) 外食ジャーナリスト 『月刊食堂』(柴田書店)編集長と、そのライバル誌の『飲食店経営』編集長(商業界、 当時)を歴任するなど、外食産業記者歴40年。2014年7月よりフリーランス。外食産業の 歴史を語り、最新の動向をレポートする。取材、執筆、書籍プロデュース、セミナー活動 を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)。 ■メール:chibatetsuyuki@gmail.com
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千葉哲幸(ちば てつゆき) 外食ジャーナリスト 『月刊食堂』(柴田書店)編集長と、そのライバル誌の『飲食店経営』編集長(商業界、 当時)を歴任するなど、外食産業記者歴40年。2014年7月よりフリーランス。外食産業の 歴史を語り、最新の動向をレポートする。取材、執筆、書籍プロデュース、セミナー活動 を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)。 ■メール:chibatetsuyuki@gmail.com