8月4日オープンの「渋谷横丁」は、規模・食材・メニューあらゆるものがギネス級

渋谷は再開発のエネルギーに満ちている。新しい大型施設が出来上がるたびに街の表情ががらりと変わっている。

山手線の内側、JRの線路に沿って存在した宮下公園は商業施設の「MIYASHITA PARK」として生まれ変わり、この7月28日以降段階的にオープンしている。その一部の「RAYARD MIYASHITA PARK」South1階に8月4日、「渋谷横丁」が誕生した。

「〇〇横丁」とは、今や新規に飲食フロアを構成するときによく用いられる手法であるが、その元祖となるのは2008年5月に第1弾がオープンした「恵比寿横丁」である。昭和レトロの横丁のイメージをさらに印象深く掘り下げて老若男女が集まる空間をつくり出している。

遊歩道を行き交う人々とテラス席のお客との一体感により、賑わいが増す

 

ここをプロデュースしたのは浜倉好宣氏と浜倉氏が率いる浜倉的商店製作所で、「恵比寿横丁」でドラスティックな再開発のパターンをつくり上げて、以来「横丁プロデューサー」として全国にさまざまな横丁や店舗再生をもたらしている。

 

全店直営ながら、各店の収益を割り出し店舗間で競争

「渋谷横丁」は原宿方面からJR渋谷駅に抜ける遊歩道に面していて、端から端まで100mという長さがある。施設の中は303坪、ここに1200席を配している。遊歩道側にはテラス席が設けられ300席を配している。100mという距離の中に1500席以上の食卓風景は圧巻である。

 

「渋谷横丁」の中には19店舗が出店、地方の産直食材を使用した店は13店舗

施設の中は19区画に分けられ、19店舗で構成されている。まず産直食材の店が13店舗「食市」という名称でコーナーを構え(北海道、東北、関東、横浜中華、北陸、東海、近畿1、近畿2、中国、四国、九州、沖縄、韓国)、この他に鶏肉に特化した店「布袋」、牛・豚肉に特化した店「大黒」、魚に特化した店「魚利喜」、元力士が調理と接客を行い力士時代の部屋の食事を提供する店「力士めし萬(よろず)」、日中はカフェ、夜はバーの「渋谷バル」、そしてレトロ感を演出した純喫茶・スナック「思ひ出」がある。

壁も天井もあらゆるスペースが劇場空間を演出している

 

「食市」13店舗は、それぞれの地域の産品を使用してメニューを構成している。

産直食材を使用する店が13店舗存在するということは、そのまま食材の調達能力を示すものだが、これはこのプロジェクトのために行ったことではなく、これまで浜倉的商店製作所がつくり上げた生産者とのつながりがこれらを可能にさせている。

同社では2010年11月、有楽町産直飲食街(現、有楽町産直横丁)をオープンしていて、2019年12月のリニューアルオープンに伴い、全国の生産者からの産直食材を使って各郷土料理を提供する店を構成した。これらの経験を積んできたことから、このたびの13店舗を構成できることに至っている。

 

メニューは店舗あたり100から多いところで250におよび、「渋谷横丁」全体ではおよそ2500となる。どこの店にいても、横丁内の他店の料理をデリバリーで頼むことができる。客単価は3500円程度。浜倉的商店製作所の「横丁」の中でも「渋谷横丁」は駅至近で渋谷の中心であることから、ランチ需要を高く想定し、食事メニューを豊富にしている。

 

これらの店舗はすべて浜倉的商店製作所の経営で、各店舗に店長が存在する。各店には厨房が設けられ、FLコスト、光熱費などすべて坪数で割り出されて、店舗ごとに収益を算出している。これによって、いい意味での店舗間競争が生まれるだけでなく、店舗間で調味料やスタッフの貸し借りをするなど、共同体意識をもたらしている。各店舗には正社員3人のほか全店のアルバイトを合算すると、従業員は約300人となる。

「これでもか!」というほどのカオスが、最終的に強烈な一体感を醸し出している

 

スクランブル交差点の街頭ビジョンと連動

「渋谷横丁」の中にはデジタルサイネージが約100カ所設けてあり、各地の祭り映像や番組などを流す。一角に設けられた「横丁広場」は都市住民と地方を結びつけるコミュニティの場としても活用し、盆踊りや地域の祭り、演歌アーティスト、DJのパフォーマンスなどとのコラボや、アニメ、Vチューバーなどのクールジャパンをテーマとしたイベントを計画している。さらに、スクランブル交差点近くの薬局「三千里薬品」の街頭ビジョンと連動していて、「渋谷横丁」内で行われているイベントなどがスクランブル交差点含め周辺からも見ることができる。

店内には約100個のデジタルサイネージを設置、スクランブル交差点近くのビジョンとも連動する

 

それぞれのつくり込みは細部にわたり、さらに人が集まることでこの横丁は本領を発揮する。これらを盛り上げる存在が、流し、マジシャン、占い師といったアーティスト、パフォーマーたちだ。これらが加わることで異空間の完成度が高まっていく。

これまで数多くの「横丁」を手掛けてきた浜倉的商店製作所にとっての集大成ともいえるものだ。

 

ちなみに、MIYASHITA PARKは東京都渋谷区と三井不動産がPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ。官民連携事業の総称)事業として、渋谷区立宮下公園の再整備事業のために建設した低層複合施設である。敷地面積1万740㎡、延床面積約4万6000㎡、全長約330mの施設に公園・駐車場・商業施設・ホテルが入居する。多種多様な人々が集まる商業施設やホテルなどが融合することで、公園の持つ魅力を施設全体で最大化させ、これまで以上に街全体の賑わいを創出し、災害発生時には周辺地域滞在者などの帰宅困難者の一時退避場所として機能する。

 

さまざまな役割を担う同施設で、最も人通りが多く目につく場所にあるのが「渋谷横丁」。強烈に目立つ100mの店頭を横に見ながら、誰もが「東京の新名所」ということを口に出している。

 

さて、「渋谷横丁」をプロデュースした浜倉好宣氏とはどのような人物なのか、このような「東京の新名所」をつくり出すに至った経験値とはどのようなものかは、次回8月24日に掲載する。

「ワンダーランド」「テーマパーク」あらゆる要素が詰め込まれている
流し、マジシャン、占い師など、アーティスト、パフォーマーたちが賑わいを演出する