ワイン好きが高じてワイン事業者に、素人発想が鍛えられECで成功

株式会社ソムリエ代表の守川敏氏。ワインのインポーターとしては後発ながらECによって成功を収めた。

 

「ワイン好き」という人は数多い。そしてワインショップを巡り、自宅にワインセラーをつくる人も。これが高じてワインを事業にして成功をおさめ、さらにこの事業拡大を目論んでいる人物のお話である。アイキャッチの人物がその守川敏氏(56歳)。現在、株式会社ソムリエ(本社/東京都港区)の代表取締役を務めている。

*動画で登場するのは、取締役ワイン事業部本部長の古澤慶太氏。

 

同社の拠点は東京・六本木の地下鉄六本木駅から六本木ヒルズ方面に進む裏通りにある。緩い上り坂を登ったところに、カジュアルイタリアン、ベーカリーショップ、パティスリー、ワインショップと、「食」の複合店舗があるが、ここが同社の拠点。食事をしてからワインショップで買い物、ワインショップを訪ねた後にパンやケーキを購入するとか、ここのショップから多様な「食」への展開を楽しむことができる。

 

同社はワイン事業を展開しているだけに、ここの1階と地下1階に設けられたワインショップの品ぞろえは圧巻である。アイテムとして800種類のワインが置かれているという。

そこで、代表の守川氏は、いつどのようにしてワインを事業とするようになり、どのようなビジョンを描いているかを紹介しよう。

2ー店内s

六本木駅の裏手にあるワインショップの店内。現地の生産者の表情や特徴のあるラベルを展示している。

独立した翌年に別の事業の会社を設立

ソムリエの代表、守川氏はワイン事業を手掛ける前は、いわゆる「ナイトビジネス」の世界にいた。守川氏は10代からこの世界にいて、20代そこそこで店長になるなど実績を積んでいた。この当時の守川氏のことは、漫画家・弘兼憲史氏の著作『六本木騎士(ナイト)ストーリー』に詳しくまとめられている。華やかな世界であるが、その裏側にあるシビアでかつ理不尽な人間模様、そして反社組織と真正面で向き合うなど、この著作にまとめられている内容は壮絶である。

 

守川氏がナイトビジネスで独立して会社を設立したのは1995年。そして、その翌年にもう一つの事業を育てていこうと株式会社トゥエンティーワンコミュニティを設立した。この会社は不動産関連から事業を始めたが、2004年からワイン事業も手掛けることになった。

 

そのきっかけは守川氏が「骨折」したこと。ある日の休日、守川氏はストリートバスケットを楽しんでいたが、ここで転倒し骨折した。しばらく外出することができない。それまで休みなく働いていたが、この機会に好きな高級ワインを楽しもうと考えた。ワインの知識がないながら、毎日ワインを飲んでいて、「ワインって、おいしいな」と。一方で「なぜワインは高いんだ」と疑問を抱くようになった。

 

そこで守川氏は、「ヨーロッパのワイン生産者から直接買えば、高級ワインも安く売ることができるのではないか」「直接仕入れて直接販売すると、お客様に喜ばれるのではないか」と考えるようになったという。

 

さて、無名の若者が、いきなり「ワインの取引をしたい」と申し出たとして、全く相手にされない。それは、すでに大手インポーターがこの市場を抑えているから。しかしながら、ワイン市場の隙間を見ていくと、これまで知られていない小さな生産者のワインの中に「素晴らしい!」と、感動するものが存在した。そこで守川氏は、知られていない小さな生産者のワインを集めて、良心的な価格で売っていこうを考えた。

 

直接仕入れ、直接販売で「お値打ち価格」

いざ、ワインを日本で売ろうとなったときに、既存の流通ではインポーターが大手問屋や業務用酒販店に納品することになる。しかしながら、ここでも無名のインポーターは相手にされない。

 

そこで考えたことは、EC(通信販売)によって B to C の形でワインを販売するという方法。これであれば、従来の形であるインポーターから大手問屋や業務用酒販店に卸す際の中間マージンを省くことができて、お値打ち価格で提供できるのではないか。このような仕組みでワインのECはこれから伸びていくのではないかと考えた。

 

こうして、2009年にワインECサイトの『ワインショップソムリエWine Shop Sommelier』を開設し、楽天マーケットに出店した。

3-ECs

同社のECの企画は、産地を独自に開拓した同社ならではの秀逸なものが見られる

 

同社のワインの仕入れ方は、小さな生産者のワインを発掘して品ぞろえをする形であるから、たくさんの在庫を抱えた。しかしながら、この仕組みを継続していくうちに販売力がついて、それによって購買力が高まっていき、利益をしっかりと確保できるようになった。直接仕入れ、直接販売によって「お客様に還元する」というビジネスの循環が整うようになった。このようなビジネスの在り方に確信を抱くようになり、同社では「業革」を推進した。2018年には楽天マーケットで「楽天市場ショップオブザイヤー」を受賞、Yahooショッピングでは「年間ベストストアー2023」を受賞した。

 

このようにワイン事業が力をつけてきたことから、分割型分社化によって2023年にソムリエを設立した。

4ー島耕作s

同社のオリジナル商品「島耕作シリーズ」は、家族や知人の昇進祝いなどで人気となっている

「もやもや」を払拭して、事業拡大を決断

ソムリエではECによってB to C市場を切り拓いてきた。これから視野に入れているのはB to Bの拡大である。これまでは一般消費者に向けて販売してきたが、これに加えて、飲食店などの事業者に販売していくということだ。日本のワインのマーケットは1兆円とされていて、このうちの68%は飲食店で消費されているという。そこで「日本のワイン市場のB to Bを取っていくぞと決意した」(守川氏)という。

 

これに向けて、ワインの倉庫を2019年静岡県浜松市に移転した。ここはワインのB to Bで多くの需要が存在する関東と関西のほぼ中間に位置している。そこでここにワインの在庫を集中させて、配送コストの効率化を図った。

 

同社ではいま「4年後に株式公開」を目指している。これに至るには、どのような背景があったのだろうか。守川氏はこう語る。

「当社は不動産を所有し、借財もなく、ワインの事業自体は自己資本で営んでいる。飲食事業も場所がよく順調です。そんなことで、あるとき成長意欲がなくなり、みんなが食べていくことができるのであればそれでいいやという雰囲気が少なからずあったことは事実。このような状態が続いていくと企業文化は劣化する。お客様に提供するサービスの質が低下する。次のアクションに踏み切るべきではないだろうか、と。なんとなく、もやもやとした想いがあった」

 

「これではいかん、このもやもやを払拭しなければと。もう一度、事業に真剣に取り組んでいこうと事業拡大の路線を決断した。ですから、上場は当社にとってのゴールではなく、当社のことを世間の人にもっと広く認知してもらうためのプロセスに過ぎない」

 

筆者の取材に対して代表の守川氏の談話は一貫していた。それは「消費者に還元する」「お客様もスタッフも喜びを享受する」ということである。このような軸がぶれないことから、新しいビジネスの領域を生み出し続けているのだろう。

5ー店舗s

ワインショップと同じ屋根の下にあるカジュアルイタリアンの「SAKURA」は近隣の住民や勤め人から愛されている存在