SDGs目標達成にむけて飲食業界ができること-目標8.働きがいも経済成長もー
少子高齢化の進行で労働力人口が減少している日本。育児や介護との両立など、働く方のニーズも多様化しており、「働き方改革」は国を挙げて取り組むべき課題として声高に取り上げられています。各業界で投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが求められています。今や働き方改革に取り組むことは、雇用者の責任とも言えるような環境になってきました。
この働き方改革は、当連載で注目しているSDGsを達成するための取り組みの一つです。SDGsとは、貧困や飢餓、環境問題などの世界的に取り組むべき問題の解決を目的として定められた国際目標ですが、その中に、働き方を改善することに関して言及している「目標8.働きがいも経済成長も」があるのです。今回は目標8について飲食業界から取り組めることを考えていきます。
目次
「目標8.働きがいも経済成長も」とは
目標8は、「包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する」のテーマのもと、「2030年までに、若者や障害者を含むすべての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、並びに同一労働同一賃金を達成する」など計12個の指標が定められています。
働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)とは、「仕事があることが基本ですが、その仕事は権利、社会保障、社会対話が確保されていて、自由と平等が保障され、働く人々の生活が安定する、すなわち、人間としての尊厳を保てる生産的な仕事」(引用/国際労働機関:ILO)ということです。なんだか小難しい印象ですが、要は「安定して働く機会」「十分な収入」「仕事とプライベートの両立」「仕事で差別を感じない」「自己の成長、働きがいを感じる」など、働く環境が整っていることです。
現在世界の失業者数は1億8800万人おり、もっと長い時間働くことを希望している人や何らかの理由で労働市場に加わる機会を失っている人などを含むと、約5億人に及ぶ労働力を活用できていません(出典:ILO「世界の雇用及び社会の見通し―動向編2020年版」)。
日本国内でも、現在194万人が求職中であるものの就業できていないという状況にあり(2020年12月時点)、前年同月と比較すると49万人、11カ月連続の増加となっています(出典:総務省統計局「労働力調査(基本集計)2020年(令和2年)12月分結果」)。新型コロナウイルスの世界的な流行もこの状況に大きな影響を与えており、これまで以上に雇用の創出に尽力する必要があるのです。
日本の課題は雇用創出だけではありません。厚生労働省の『令和元年度「過労死等の労災補償状況」』によると、2019年度に過労死(自殺未遂を含む)と認定された件数は174件にものぼります。ディーセント・ワークという観点からも、過度な労働を防ぐ必要があるでしょう。
実は、飲食店で勤務している人は全産業の労働人口のうち約17人に一人で(2019年時点。総務省統計局「労働力調査(基本集計) 2020年(令和2年)12月分結果」)、これは社会保険・社会福祉・介護事業に続く多さです。飲食業界にディーセント・ワークが浸透すれば、より働き方改革の実現に近付くことができると言えます。
飲食店の最重要課題、労働時間の問題を解決しよう
飲食店の働き方改革というと、まずは労働時間が挙げられます。農林水産省によると、飲食店の繁忙期には24%の従業員が80時間以上の時間外労働を行っています。その理由は主に人員不足です(出典:農林水産省食料産業局 第4回働く人も企業もいきいき食品産業の働き方改革検討会「外食・中食産業における働き方の現状と課題について」2018年)。
とはいえ、繁忙期のみ人員を増やすことは難しいため、雇用する側としても、そこはジレンマを抱えているのではないでしょうか。人数は増やすことなく、業務を効率よくこなす方法として、業務の一部を外部委託するという手段があります。労務管理や経理、広報などを外部の専門業者に委託すれば、プロの視点を取り入れることができますし、それらの業務に費やしていた時間を削減することができます。来店客の増加など、大きな効果を生む可能性もあります。
外部委託するとコストはかさみます。しかし、時間的な余裕が生まれれば従業員の超過勤務の削減につながり、働き方の多様化にも対応できるようになるでしょう。そうなれば従業員満足度が向上し、スタッフが生き生きと働くようになり、店舗も活気に満ちるという好循環が生まれます。活力ある店には就労希望者が増えるので、人材不足という難題も解決します。就労という観点から、企業や店舗の価値を向上させることができそうです。
労働時間を増やさず利益を上げる方法として、テイクアウトやデリバリーの導入、ゴーストレストランによる拠点の増加やEC(通販サイト)での販売などがあります。実店舗では限られた席数のため、回転数を増やしたとしても売上に上限がありますが、上記で紹介した方法を導入すれば店外需要やピーク時間以外のニーズも取り込みやすくなります。店内営業のみでは得ることのできなかった客層も獲得できそうです。
飲食店の販路拡大方法に関して詳しくはこちら→【NEXTを探せ!】時代の変化に対応した飲食店の新戦略とは?調理器具の開発と名店のレシピ配信
テクノロジーを駆使して生産性を上げる
生産性を上げる方法として、進化し続けているIT技術を利用するという方法もあります。
新型コロナウイルスの流行で人と人との接触を避けることが求められている現在、ロボットによる配膳が注目を集めています。今でも回転ずしでは電車の模型が料理を届けてくれるなど、一部店舗では料理の提供を機械が行っていますが、配膳ロボットは店内を自由に移動して配膳してくれるため、レールを敷くなどの設備投資は不要です。ただ、導入には大きなコストがかかるため難しいのが実情です。
コストを抑えつつIT技術を導入するなら、タッチパネルメニューを利用するのがおすすめです。スタッフが注文を受ける必要がなくなるだけでなく、そこからキャッシュレスで料金を支払うようにできれば、人的コストを大幅に削減できるでしょう。人材不足の解消にも一役買ってくれます。
他にも、AIの本領発揮分野として、売上管理や来店予測をするという方法があります。AIが天気などの要素から来客数を予測し、食材の仕入れ量の算出や売上目標の設定、シフト管理を自動で行ってくれます。最近では、ちょうどいい焼き加減になるように、たこ焼きを焼いてくれるAIロボットもあるそうです。
働き過ぎと言われることが多い日本。少子化によりさらなる人材不足が懸念されていますが、今以上に働きやすい環境をつくることで子育て中や持病がある方など多様化する働き方のニーズに合わせて、企業が変化していかなければなりません。飲食業界でも外部委託やIT技術を取り入れて業務の効率化を目指し、販路の拡大による生産性向上を行う必要があります。飲食業界は日本の産業界の中でも従業員数の多い大きな産業だからこそ、働き方改革を率先して行い、誰もが働きがいを実感し人間らしく働ける社会をつくっていきましょう。
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