寡占的なドーナツ市場に参入、自社開発の「高付加価値商品」で人気を獲得
わが国のドーナツ市場には「ミスタードーナツ」と「クリスピー・クリーム・ドーナツ」というアメリカ発のグローバルチェーンが存在している。ここに「日本発のドーナツ」を標榜して独自性を発揮しているのが「ジャックインザドーナツ」である。同店を展開するのはビッグクリエイト株式会社(本社/東京都港区、代表取締役/北浦大作)。1号店は2011年10月に誕生し、現在31店舗と成長している。同店の商品は食感(生地)が多様で、カラーリングが鮮やか、濃厚で甘みがしっかりとしているのが特徴である。
アイキャッチの人物が代表の北浦氏である。北浦氏は1976年12月生まれ、大阪府出身。主としてFCによって飲食店を展開する株式会社プライム・リンクに入社し、スーパーバイザーやマネージャー等を歴任した。その後、お団子の販売を発祥とする米乃家に入社。取締役副社長兼統括本部長となって、フランチャイズチェーンシステムを構築し、5年間で店舗数を3店舗から83店舗に拡大した。
2011年、ビッグクリエイトを設立。「ジャックインザドーナツ」をはじめ、「鳥さく」「鳥〇食堂×タニタカフェ」などの店舗を商業施設内で展開している。
ドーナツチェーンが出店できない立地を狙う
北浦氏がドーナツビジネスに目覚めたのは米乃家に在籍していたときのこと。ドーナツチェーンとバッティングする場面があったことがきっかけとなった。そこでふと、「ドーナツ屋さんは、なぜこの1社だけが目立つのだろう」と考えた。
いろいろと調査を行って分かったことは、「ドーナツ店は押しなべて売上が高い」「この1社でドーナツ業界のシェア94%を占める」ということだった。そこで北浦氏は、「ドーナツチェーンは、いずれもアメリカ発のグローバルチェーンで、日本でドーナツ市場を切り拓いている。そんな中で『日本発のドーナツチェーン』をアピールしてみてはどうか」と考えた。
そこで、他社のドーナツチェーンが出店できない場所に出店しようと考えた。その場所は、意外にもそのドーナツチェーンの近くであった。その理屈はこうである。
そのドーナツチェーンはほとんどがエリア制の加盟店である。そこで、加盟店はほかのエリアに出店することができない。とは言え、そのエリアの加盟店は一気に多店舗展開というのは難しい。
例えば、駅前にこのドーナツ店が存在している。この横に大きな商業施設があるとする。このエリアではここで展開できるオーナーは1社だけ。隣の商業施設がこのドーナツ店に出店してほしいと思っても、ほかのエリアの加盟店は出店できないし、既存のオーナーとしてもカニバリなどを懸念して、すぐ隣の商業施設に出店することに二の足を踏む。
そこで、このような商業施設では、「そのドーナツ屋さんに出てもらいたいが、出てもらえない」ということで困っているという。こうして北浦氏は、このような場所を出店場所とすると、新参であっても巨大なドーナツチェーンと十分に戦うことができると考えた。
独自開発したドーナツで人気を獲得する
そこで、2011年にビッグクリエイトを設立して、商業施設内で「ジャックインザドーナツ」を展開していった。
この店舗は、製造機能と販売機能の両方を持つ必要があった。しかしながら、商業施設の中ではこの二つを横につなげるということができない。そこで、販売場所のスペースを確保して、製造機能は同じ商業施設内の総菜売場のために設けられた製造場所でドーナツをつくって、そこから販売場所に運んでいた。
当初の商品は、他社の商品に準じた内容で構成していた。しかしながら、このようなことを続けていて、売上が少しずつ下がっていった。「これではまずい」と。そこで、先方にはない商品をつくっていこうと考えた。
当時、コンビニのスイーツのラインアップを見ていて、プリンの品ぞろえが充実して、このような商品をドーナツに取り入れることができないものかと考えた。また、海外ではやっているスイーツをドーナツとして商品化することも研究した。
そこで、導入したのが「クリームブリュレ」である。ドーナツの中に濃厚なカスタードクリームをたっぷり入れて、表面をキャラメリゼして、パリッとほろ苦い。これが1号店を出した翌年の2012年のこと。この商品は大変よく売れて、いまでも人気ナンバーワンとなっている。こうして他社の商品構成から少しずつ離れていこうと、商品開発を独自に進めていった。
「ジャックインザドーナツ」の商品は、色映え、新鮮な形状、多様な食感といった特徴がある
価格設定では「デイリー価格」であることを順守した。北浦氏はこう語る。
「ドーナツとは、あくまでも『次いで買い』の商品だと思います。このようなことと、相手先にお土産として持っていっても、相手先から『気を使わせてしまった』ということを思わせない存在感。4個で1000円くらい。このような価格ラインを死守しないと、お客様の中にあるドーナツのイメージから変わってきてしまうのでは」
次に意識したことは、「食感のバラエティ」を豊かにすること。グルーバルチェーンのそれに対して、もちもち、さくさく、ふわふわなど、多様にした。さらに、ほかのドーナツチェーンと同じ商品領域を守りながら、「ジャックインザドーナツならではの圧倒的な付加価値」を付けていこうと考えた。
「糖質制限」は求められていないことを知る
一時期「糖質制限」にも取り組んだ。それは、コンビニがパンなどで「ロカボ」の商品をラインアップするようになった5年前のこと。ロカボドーナツ、米粉ドーナツ、豆腐ドーナツという具合にラインアップを行った。しかしながら、この中で一番売れなかったのが「ロカボドーナツ」であったという。
そこで、北浦氏はこのように考えた。
「ドーナツを召し上がるお客様は、糖質たっぷりなものに対して罪悪感を抱きながらも、月に1回、2回とか、『自分にご褒美』という感覚で食べたいのではないか」と。米粉ドーナツや豆腐ドーナツなどは、お子さんの健康を考慮してお母さんが購入する商品だ」と。
このように「ドーナツという商品にとって糖質制限の領域は薄い」と認識して、よりカラフルで、ゴージャスなものをつくっていこうと方針を整えた。
この路線を象徴するのは、3年前に導入した「ギャラクシー」という商品である。カラーリングしたホワイトチョコレートをドーナツにコーティングしたアート感覚のもので、見た目に映えて、記憶に残るドーナツである。これが「クリームブリュレ」に次ぐ人気商品になった。いずれも、同社独自の商品開発が人気商品をもたらしている。
2021年に販売が開始されたカラフルな「ギャラクシー」は、たちまち人気第2位
「ジャックインザドーナツ」のターゲットは20代から40代の女性がメインとなっている。アンケートでは、大体75%の人が「家族のために」とか「手土産」であったり、「誰かのために購入している」という。レジ単価は、営業している場所で異なるが、大体800円から900円あたりとなっている。
「日本発のドーナツ」の海外展開を展望
2023年の12月に「ジャックインザドーナツ」のセントラルキッチン(CK)をつくった。
この背景にあるのは、一時期出店がストップしていたこと。製造機能を持つことができる20坪程度の物件は、東京近郊の商業施設では確保することが難しくなっているという。
このような状況下で、駅と直結した電鉄系の商業施設から相談を受けた。それは「2坪3坪の店で、ほかでつくったドーナツを持ってきて売ることができませんか?」という趣旨であった。
そこで実験的にCKをつくりこのトライアルを3店舗で行った。売上もよかった。そこで「本格的にCKをつくろう」と、東京の辰己(江東区)に100坪のCKを構えて、工場のランニング費用が回収することも含めて狭小スペースでの出店を加速した。これらの店舗はいずれも生産性が高く、テラスモール湘南(神奈川県藤沢市)に出店した店舗は2坪で月商1000万円を売り上げている。
セントラルキッチンを設けたことによって狭小なスペースでも営業が可能になった(東急渋谷フードショー)
狭小な店舗ながら工夫が凝らされたデザインによって道行く人から注目される(ウイング新橋)
ビッグクリエイトでは現在、海外を展望している。そこで「日本発のドーナツ」というストーリーを再構築した。それは「ジャパン・ブランド」が輝いて受け止められている国々で発信するということだ。いま、アジアや東南アジアから出店のオファーが活発になっているという。
このように「ジャックインザドーナツ」の歩みは、巨大チェーンの市場に入って「オリジナリティ」を追求して「差別化」し、独自に市場を切り拓いたということに学ぶべき要素は大きい。