2024/08/19
「生業商売に徹する、やきとり大吉」の新しいチャレンジを牽引する
「やきとり大吉」(以下、大吉)という焼鳥専門店が主に郊外住宅街で展開している。看板は赤い色の地に勘亭流(歌舞伎文字)に似たロゴで強烈に印象に残る。この店は1978年、兵庫県尼崎市に1号店がオープンし、以来急速に店舗を増やして、1998年には1000店舗を突破した。
創業者は辻成晃氏という人物で、1977年に会社を立ち上げ、翌年から「大吉」の全国チェーン展開を図っている。独自に生み出した「150万円で経営者になれる」という開業システムによって店舗展開を続け、1987年にダイキチシステム㈱に社名を変更して、一段と出店を加速した。こうして「日本一の焼鳥チェーン」となった。
そしていま、新しいチャレンジを行い大きく動き出している。その指揮を執っているのがアイキャッチの人物、同社代表取締役社長の近藤隆氏である。
目次
直営店を持たず、すべて個人オーナーの店舗で構成
「大吉」では、「生業(なりわい)商売に徹する」ことを理念としている。
その内容はこうだ。
――他人を働かせるのが「事業」であり、自分自身が汗を流して働くのが「生業(なりわい)」である、と私たちは考えています。大吉の商売は「事業」ではなく、「生業」なのです。(ほか、略)――
これらの考え方は、『理屈をいうな、だまって儲けろ!』『辻成晃のなりわい語録』といった辻氏の著作にまとめられている
「大吉」の最大の特徴は、店舗の全てが加盟店で、個人オーナーであるということ。直営店はなく、地区本部やスーパーバイザー(以下、SV)も存在しない。本部対個人オーナーという関係性で成り立っている。
近藤氏は、自身がサントリーの営業担当として1994年から6年間「大吉」を担当した。当時は500店舗から1000店舗へとオープンラッシュが続いた。
「私は『辻イズム』を徹底的にたたき込まれました。それは『生業とは汗して働くこと』。あるとき『1億円あるから10軒つくってくれ』という人がやってきて、それに対して辻さんは『うちは生業や、個人対個人で商売をしているんや』と言って追い返していました」
「大吉」にはSVが存在しないと述べたが、その代わりを務めるのがダイキチシステムと取引をしている全国100の業務用酒販店である。業務用酒販店は、1日ないし2日に1回は「大吉」店舗を訪れる。このときに本部が作成したチェック項目を確認する。ここにも「生業の精神が活かされている」と近藤氏は語る。
「これは、お酒を納入するついでに店をチェックするというのではありません。『うちの会社の可愛い店のことをしっかりと見て、報告してください。良いことも良くないことも』。このようなことを店側も理解して、店の営業体制が保たれているのです」
このような「大吉」では、2022年から次の成長に向けて動いている。一つは、新しい「開業プラン」。これによって、加盟店となる動機を広げている。もう一つは、新しい客層を開拓するための「新業態」である。
新しい「開業プラン」で加盟の動機を広げる
まず、新しい「開業プラン」に取り組むようになった理由について、個人オーナーの高齢化に伴う店舗の減少傾向が挙げられる。
「大吉」は1990年代に急速に店舗を増やしているが、その背景にはバブル経済崩壊がきっかけとなった独立開業ブームが存在する。退職金を元手に「大吉」に加盟して、個人オーナーとなって開業するという事例が相次いだ。2000年当時に45歳で開業したとして、いまは70歳である。初代が引退してから子息が後継者となっている事例が2~3割あり、また新規開業も継続しているが、閉店の方が多く年々漸減傾向を示している。
そこで、現在の総店舗数は約500店舗となっている。この現象に歯止めをかけるべく「NEW」をうたった開業プランを設けた。
「大吉」では、これまで2つの開業プランで店舗を増やしてきた。
1つは「リース方式」(低資金で開業)。本部の店舗を、加盟金をはじめとして約150万円程度で借りて開業するというもの(2年更新)。これに月々店舗家賃や店舗使用料、ロイヤリティ(3.3万円)などの本部への支払いがある。ここで条件となるのは、低資金で開業ができても「本部の店舗」であるから、自分がどのエリアで開業できるか分からないということである。そこで、このプランで開業するオーナーは、自己資金を貯めて、もう一つの開業プランを目指すパターンが多い。
それが「オーナー方式」(本人の希望するエリアで開業)。これは、店舗の装備を自分で整えて(初期費用約1800万円以上)、ロイヤリティや改装積立金などを本部に支払い、店舗家賃は家主に直接支払うというもの。「リース方式」に対するここのメリットは、本人が希望するエリアで開業できるということだ
現在の総店舗数は約500店舗と述べたが、このうち「リース方式」は50店舗、「オーナー方式」は450店舗となっている。
そこで「NEW」の開業プランは「エリア指定リース方式」(リース方式とオーナー方式の中間)というもの。前述した「リース方式」は「2年更新」と述べたが、リース方式で最初の2年間スキルを磨いた後に、希望する地域で開業することができる。この店舗は本部が借り上げているために、具体的なエリアについては本部と要相談となる。本部への支払いは「リース方式」と同様で、エリア指定移行時に別途保証金を330万円納付することになる。
「リース方式」と「オーナー方式」の二つの中間の要素を持った「エリア指定リース方式」は、「親の面倒をみたい」といった背景を持つ人にとっては「リース方式」よりも便利な内容であり、リリースしてからの問い合わせが多くなっているという。
「白い大吉」によって女性客を5割獲得
さらに、前述した「新しい客層を開拓するための新業態」とは、既存の通称「赤い大吉」をベースにして開発した「白い大吉」である。
この業態をつくることになった理由は、「赤い大吉」のリブランディングが必要ではないかと考えたことだ。そこで2021年春に「全国1万人アンケート」を実施した。
ここで質問したことは、まず「ブランド認知」、次に「入店したことがあるか」ということ。
「ブランド認知」については、全国、北海道・稚内から沖縄まで店舗が存在していることから認知は浸透していた。
次の「入ったことがありますか」の段階でスコアが下がった。
その理由は「赤い大吉は、外から店の中が見えにくく、雰囲気が分かりづらいので入りにくい」というものが大半を占めた。
「では、外から店の中の様子がものすごく分かりやすい店をつくろう」(近藤氏)と、カジュアルで明るい店を開発することになった。
「白い大吉」のメニューは、「赤い大吉」が築いてきた「焼鳥専門店」の伝統を踏襲しながら、「ササミのカツ」「レバーのパテ」「ラーメン」などのフードメニューを増やした。
こうして「白い大吉」は2022年9月、神戸市内に1号店をオープン。現在、東京、神奈川、大阪、兵庫の4拠点、9店舗で客層の動向などを検証中だ。
検証した内容によると、「赤い大吉」では女性客が2~3割だが、「白い大吉」では5割になっているという。また、客層は「赤い大吉」が40代~80代に対し。「白い大吉」は20代~80代となっている。女性客と若い年代の客層が増えたことで、「白い大吉」の雰囲気は華やいだものになっている。これからの新規出店は基本的に「白い大吉」で展開していくという。
居酒屋を取り巻く環境は著しく変化している。女性の活発な社会参加、お酒を飲む若者が減少などさまざまな要因が挙げられて、店づくりは、それに対応したものが必要とされてきている。「白い大吉」はこのような変化を捉えている。
「大吉」のコンセプトは「笑って、生きていく。」である。これは、創業以来一貫して変わらない「個人オーナーの生業精神」を一言で表現したものだ。
同社では、これらの個人オーナーのストーリーをホームページにまとめQRコードにして、それを付けたポスターをトイレに貼っている。
お客はこのQRコードを読み取り、いま自分が利用している店の成り立ちを知ることになる。これによって大吉の顧客に「セカンドキャリアを大吉開業で考える」という気付きも生まれることであろう。