SDGs達成に向けて飲食業界ができること ー目標1.貧困をなくそうー
近年、ニュースやビジネスシーンなどで耳にすることが多くなった“SDGs(持続可能な開発目標)”。2015年9月の国連サミットで採択された、2030年までに持続可能でより良い世界を目指すために決められた国際目標です。貧困・ジェンダー・イノベーション・気候変動などに関する17の目標が定められています。ヨーロッパ諸国と比べて、その取り組みが遅れていると言われている日本。SDGsの達成期限まで残り10年を切って、これまで以上に盛んにその重要性が話題となっています。各目標達成に向けて飲食業界が貢献できることは何か、紐解いていきましょう。
今回は全17個のうち、一つ目の目標として定められている「目標1.貧困をなくそう」について考えます。目標1には「あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる」というテーマの基に、「2030年までに、現在1日1.25ドル(約130円)未満で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる」など7つの指標が定められています。
世界銀行によると、世界における極度の貧困率(※1)は1990年から2015年の間で3分の1以下に低下しています。とはいえ、まだまだ困窮した生活を送らざるを得ない方は多く、世界中に7億人以上います(15年時点)。
貧困と聞くと途上国などを想像する方が多いと思いますが、実は他人事ではありません。厚生労働省の19年国民生活基礎調査によると、日本の相対的貧困率(※2)は15.4%、子どもの貧困率は13.5%(ともに18年時点)で、高い水準を記録しています。子どもは約7人に一人が貧困状態にあるということです。そのような子どもたちや貧困に苦しんでいる人たちを救うための取り組みがすでに始まっています。
(※1)極度の貧困率は1日1.9ドル(約198円)以下で生活をしている層の割合。2015年10月、国際貧困ラインを2011年の購買力平価(PPP)に基づき、1日1.9ドルと設定。15年10月以前は1日1.25ドル
(※2)相対的貧困率とは、世帯の可処分所得(手取り)などをもとに子どもを含めた一人一人の所得を仮に計算し順番に並べたとき、中央値の半分(貧困線=18年調査では127万円)に満たない人の割合
身近にある貧困者を救う取り組み「フードバンク」と「子ども食堂」
飲食業界にとって身近にあり、すぐにでも参加しやすい取り組みとして「フードバンク」や「子ども食堂」があります。
「フードバンク」は企業や家庭で余った食料品を寄付して、児童養護施設などの団体、高齢者や一人親世帯など、その日の食事を満足にとることが難しい方へ無償で提供する取り組みです。例えば、発注ミスや急なキャンセルで余剰食材が出てしまったときにフードバンクに寄付すれば、食品廃棄を防ぐことに加え社会貢献にもなります。農林水産省が把握しているだけでも20年12月時点で全国に130団体あるため、調べてみたら意外と自社店舗の周辺など、ごく身近にあるかもしれません。取り扱う食材の種類や寄付の方法などは団体によって異なるようなので、寄付などを検討している際は問い合わせをしてみてください。
一方の「子ども食堂」は、さまざまな事情により家庭で食事をすることが難しい子どもたちに料理の提供を行う取り組みです。先ほども述べたように、日本国内では約7人に一人の子どもが貧困の状況にあります。子ども食堂ではそのような子どもたちを中心に、無料~300円程度の安価で食事を提供しています。飲食店では日々廃棄商品が出るといった事情もあります。それらを有効活用して、子ども食堂に参加するというのも手です。
活動に参加するのは、さまざまな観点からリソースを割くのが難しい、という意見もあると思います。ですが、ブランディング力を高められたり、ビジネスチャンスを拡大させられたり、会社を通じて社会貢献していると従業員が自覚することで自信やモチベーションが高まり組織力の向上を見込めるなど、企業にとっても大きなメリットを享受できる可能性は高いです。
また、子ども食堂を開始したくとも食事を提供するスペースを確保できない、という課題を抱えている方もいます。子どもが自宅から徒歩で行ける範囲内に十分な調理スペースを備える場所となると、なかなか難しくなるのが現状です。実際、子ども食堂に関するコミュニティやSNSなどでは、場所を探している方もいらっしゃいます。飲食店は調理スペースと食事スペースをもともと備えているため、すぐにでも活動を開始できる最適な場所です。営業にさしつかえない範囲で子ども食堂の開催場所としてスペースを無償提供すれば、コストをほぼかけずに活動に参加できます。
フェアトレード認証製品で世界の貧困にアプローチ
日本で飲食店を経営しながら、世界の“貧困”にアプローチすることもできます。その一つがフェアトレード認証製品の活用です。現在海外で生産されている食材の内、特にコーヒーやチョコレート、スパイスなどは、生産者に適切な賃金を支払うことができないほど低い価格で売買されています。日本で販売されているこれらの商品も同様で、適正価格を大幅に下回っているものがほとんどです。我々日本人にとっては安く手に入れられるため歓迎すべきことですが、産地では生産者に対して正当な賃金が支払われないだけでなく、長時間労働をさせたり、生産性を上げるために健康に害を与えうる量の農薬を使用したり、過酷な労働環境から脱出できないという状況が世界中で起きています。フェアトレード認証製品はそれぞれの生産物を正当な価格で売買し、生産者の労働環境を守り、適正な賃金を支払っていることを保証した製品です。継続的にフェアトレード認証製品を利用することで、生産者の健康や暮らしを守ることができます。
また、近年、社会の流れとして企業には社会貢献を行う責任があると考えられるようになりました。飲食店でフェアトレード認証製品を利用すれば社会的認知度を高めることにつながり、来店客が意識して購入するようになるなど、活動が広がる一助となる可能性があります。企業には社会貢献につながる製品を使用していることを伝える活動を求められてもいるのです。
“SDGs”、“貧困をなくそう”と聞くと、国や大手企業が対応すべきことで小規模事業者には関係ないと捉えがちですが、日本国内にも貧困に苦しんでいる人がおり、当然世界にはもっと多くの困窮者がいます。それらの人を救うために一人一人が社会貢献を意識することが大切です。フードバンクや子ども食堂に限らず、さまざまな取り組みをどんどん広げ、増やしていけば、よりSDGsの目標達成に近付くことは間違いありません。日本の飲食業界から世界を元気にするべく、まずは実施しやすい取り組みから始めましょう。
今回紹介したフードバンク、子ども食堂、フェアトレード認証製品は目標1だけでなく、飢餓・健康と福祉・つくる責任つかう責任など、SDGsの他の目標達成にもつながる取り組みです。今後も当サイトでは飲食業・飲食店が貢献しやすいSDGsの目標と取り組みを紹介していきます。
※1アメリカドル=約104円で換算
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