神奈川県唯一の過疎地域・真鶴町で地方創生をテーマとする飲食店「AMAYA-海女家-」をオープン〈前編〉【飲食業界×SDGs】

 

日本の人口の10分の1以上が東京に住んでおり、一極集中の状態が続いています(東京都推定。2020年時点)。島国という特性から海と山があり、自然豊かな日本。全国各地で地の利を生かした文化が育まれ、食文化においても多種多様です。しかし、日本の総人口は減少の一途で、厚生労働省の「令和元年(2019)人口動態統計(確定数)の概況」によると、リモートワークが進み地方移住者が増えているコロナ禍の現在においても、人口の東京一極集中の状態が続いています。
東京一極集中が加速すると、災害が起きた際の被害が甚大になるばかりか、地方の素晴らしい文化・食文化を継承する人材が不足し衰退の危機を迎えます。すでに、一部の地域では、その危機が現実化している状態のため、地方創生は待ったなしで取り組むべき喫緊の課題です。

 

また、地方創生は地域の雇用創出や住みやすい街づくりの観点などから、SDGs(※)との関わりが非常に深い取り組みでもあります。

そんな地方創生や自然保護に取り組む海鮮バーベキューと海女粥の店「AMAYA-海女家-」が、神奈川県足柄下郡真鶴町にあります。オーナーの衛藤昌弘氏(冒頭写真)は東京生まれ、東京育ちでありながら、2021年4月に真鶴の地域活性化に貢献する目的で週5日を真鶴で過ごし、「AMAYA-海女家-」を開店されました。

 

なぜ、衛藤氏は縁もゆかりもない真鶴の地域活性化に取り組むようになったのでしょうか。そこには、さまざまな魅力を持ちながらも、過疎化に歯止めがかからないという地方の現実がありました。町を生まれ変わらせるべく尽力する衛藤氏の取り組みについて、前後編の2回にわたってお届けします。
前編の今回は、真鶴の地域活性化に注力する理由と想いを中心にお話を伺っていきます。

(※)SDGs(持続可能な開発目標)とは、海洋や土壌汚染などの環境問題、雇用創出、持続可能なまちづくりなど世界全体で解決すべき課題に関して定められた国際目標。計17の目標があり、2030年を達成期限としている。

東京生まれ東京育ちとのことですが、なぜ真鶴で地域活性化の取り組みを?

2年ほど前、知人に日本三大船祭りである貴船祭りに誘われて、初めて真鶴に来ました。東京・品川駅から新幹線で最短45分にもかかわらず、海や昭和の雰囲気を感じられる皇室ゆかりの国有林(※)があるなど魅力的な自然がたくさんあることに驚きました。

たった1回の訪問で真鶴の魅力に引き付けられ、そこから定期的に訪れるように。
最初はレンタル自転車で町を周り楽しんでいたのですが、次第に知人が行うボランティア活動への参加や音楽祭の企画・実施など、地域との関わりを強めるようになりました。

(※)1800年代から1947年まで皇室が所有していた森林で、御料林と呼ばれていた。現在は全て国有財産となっている。

 

どのようなボランティア活動に参加されていたのですか?

貴船祭りに誘ってくれた知人が開始したボランティア活動です。真鶴半島の入江にある洞窟に内袋観音様が鎮座しているのですが、40年ほど前にすぐそばにある水族館が閉館され手付かずになって以降、観音様へと続く参道も草やがれきで人が通れない状況になっていました。そのがれきや木々などを取り除いて再び人が通れる状況にし、観音様にお参りできるようにするボランティアに参加していました。

ボランティアには地元・真鶴の方も参加されており、そのような活動の中で次第に漁師さんなど町の方々との交流を深めていきました。するとある日、真鶴港の物件が空く事を地元の人から教えて貰いました。

 

衛藤さんは店の運営を希望されていたのですか?

いいえ、当時飲食店を出店する考えはありませんでした。自然に触れたり、ボランティアを行うことを目的としていました。

しかし、真鶴に何度も訪れ現状を目の当たりにするにつれ、何とかしたいと考えるようになりました。実は、真鶴は神奈川県唯一の過疎地域として指定されているのです。

綺麗な海と国有林という魅力的な自然が目の前に広がっているものの、人口は約7000人(出典:神奈川県真鶴町)で高齢化が加速していることから経済活動は鈍化し、産業も衰退傾向にありました。

 

加えて人口流出が進み、町内にあった商店なども軒並み閉店と、町はかなり疲弊している状況だと知りました。私は元々企画会社運営などを行っていたため、企画を発案するノウハウは持っています。次第に何か真鶴のためにできないか、真鶴の魅力を発信する方法はないかと考えるようになっていったのです。

考えを巡らせているうちに、港町の真鶴には、新鮮でおいしい海産物が豊富にあることに着眼しました。それらを食べて、おいしさを実感してもらえば、真鶴の魅力発信につながると考えたのです。

また、新鮮な海産物を提供する飲食店を出店することは地元の活性化、雇用創出にもつながると感じ、「AMAYA-海女家-」のオープンを決定しました。

「AMAYA-海女家-」では、真鶴でとれる新鮮な海産物を使った料理を提供している

 

真鶴が置かれている現状は、そんなに厳しいものなのでしょうか?

先ほども話したように人口流出が進み、町の商店などは減り続け、それに伴い、町内の働き口も減っています。結果、現在町内にお店といえば、コンビニエンスストア2軒、スーパーマーケットと薬局がそれぞれ1軒しかありません。

 

人口減少は店舗の売上にも影響します。当然ながら、都会ほどの売り上げは見込めません。ですが、最低賃金は神奈川県内で一律のため、横浜などの都市部と同額です。売上が低いため、ただでさえ人を雇うことが難しいのに、人件費は都市部と同額という二重苦です。結果として、真鶴でお店を続けていくことは難しく、新規出店を行う企業なども増加しないのです。過疎化や人口流出の大きな原因の一つは雇用なのです。

この雇用が減る一方という悪循環を打破するために、自ら出店し、雇用創出を図ることは重要であると考えています。

 

では、店舗スタッフは皆さん真鶴在住者なのでしょうか?

現在は真鶴町民のスタッフを5人雇用しています。この5人は、真鶴で知り合った方のお子さまや紹介していただいた方などが中心です。現在は5人ですが、当店が今以上に連日多くのお客様でいっぱいになれば、より雇用を創出できます。

スタッフに当店が働く上で魅力的と感じてもらえるよう、運営方法、固定経費などを工夫し、時給も最低賃金より多く支払っています。今後、より繁盛店となれば時給をさらに上げて雇用創出につなげたいです。

 

また、当店の来店を理由に真鶴に訪れる人が増えると、町内にある他店などの利用者も増えるでしょう。飲食店の出店には、地域の魅力発信と雇用創出という二つの面で地元にメリットがあり、引いては地域の活性化につながると考えています。

「AMAYA―海女家―」を真鶴で運営していく最も大きな役割は、「真鶴にしかない景色と食材を提供することで知ってもらうこと」と「真鶴の魅力を感じられるアクティビティを体験してもらうこと」で、当店を足掛かりに真鶴を活性化させていきたいです。

 

後編では、衛藤さんが考える「AMAYA―海女家―」の役割について、具体的に運営方法や活動内容を伺っています。ご期待ください。