2025年、飲食店の原価高騰が止まらない——食品値上げラッシュと経営戦略の再設計

目次

飲食店を襲う原価上昇の構造変化

2025年春。再び、値上げの波が日本の食卓と外食産業を直撃している。特にその影響を強く受けているのが、食材価格の動きに敏感な飲食店だ。帝国データバンクによると、4月だけで4,225品目の食品が一斉に値上げされたという。

これまで「コスト高=短期的な波」と捉えていた経営者も多かったかもしれない。しかし、年間で見ればすでに11,707品目が値上げされ、前年比でも異例のペース。これはもはや一時的な現象ではなく、飲食業に構造的な転換を迫る“兆候”である。

飲食業におけるコスト増の実態とは

帝国データバンクの統計では、今回の値上げのうち、調味料:2,034品目、酒類・飲料:1,222品目が最も多い。これは、表面上のメイン食材(肉や魚)よりも、裏方である“味の決め手”に当たる商品群が大きな影響を受けていることを意味する。

なぜ調味料がここまで上がるのか

要因は3つに集約される:

  1. 原材料価格の国際的高騰(97.8%の企業が理由に挙げる)  例:砂糖・大豆・小麦などの原材料が、天候不順・地政学的リスクにより高止まり。

  2. 物流費の上昇(81.8%)  2024年の「2024年問題」により、トラック運転手の労働時間規制が強化された影響がじわじわと業界全体に波及している。

  3. 人件費の増加(45.1%)  最低賃金引き上げや人手不足による労務費の上昇。特に地方小規模メーカーでは製造コストが顕著に上がっている。

 値上げの深刻度を測る「率」

値上げされた4,225品目の平均改定率は月平均16.0%。これは単なる数%の微調整ではない。
例えるならば、100万円分仕入れていた食材が、同じ量を買うのに116万円必要になった計算であり、飲食店にとっての粗利構造を一変させるインパクトである。

 年間累計は?

2025年1月〜4月の累計値上げ品目数は11,707品目。前年同時期と比べても9割超の達成率であり、このペースが続けば2025年内に15,000品目を超える可能性も見えてくる。これは過去5年間で最大規模の「コスト再編期」だ。

Product Sales Line Chart Graph (3)

消費者物価指数(CPI)から見る飲食コストの現実

数字が示すのは、コストの上昇が家庭内にとどまらず、外食産業にも確実に波及しているという事実だ。

総務省の「消費者物価指数(CPI)」によると、2025年3月の総合指数(2020年基準=100)は111.1。これは前年同月比3.6%の上昇にあたり、明らかにインフレ傾向が強まっている。

注目すべきは「食料品」カテゴリ全体の動向である。とりわけ加工食品や日配品を中心に上昇が顕著であり、家庭内調理における負担増が続くなか、外食との価格差が縮まりつつある。これは消費者の「食の選択」に影響を及ぼし、安価な外食への需要が高まる一方で、中価格帯以上の飲食店はますます“選ばれる理由”が問われる状況にある。

また、CPIの内訳をみると、食品の中でも「調味料」「加工食品」「油脂類」などの価格上昇が特に大きく、これは業務用仕入れコストにも連動しやすい。つまり、外食産業は原価と消費者ニーズの両方から圧力を受ける、“ダブルインフレ”構造に直面しているといえる。

こうしたデータが示すのは、飲食業が「消費者の節約志向」と「自店のコスト圧力」という両面から挟まれる“板挟み状態”に置かれているという現実だ。

ChatGPT Image 2025年4月24日 16_26_01

飲食店経営に迫る“二極化”の波

価格転嫁ができる店とできない店。その差は、顧客の「納得」を生むかどうかにある。たとえば、都市部のラーメン専門店では、1杯900円台から1,000円台への移行が進んでいる。だが、同じ価格帯を地方の定食店が設定すれば、客足は鈍るかもしれない。

フルサービス業態(居酒屋、カフェ)は特に難しい立場だ。料理だけでなく接客や空間も含めて満足度を担保する必要があるため、値上げによる客単価アップだけでは不十分。価格以上の「体験価値」を提示できるかが分水嶺になる。

一方で、注文・決済・配膳までを自動化したファストフード業態では、人件費削減による吸収が可能なケースも。ここに明確な“構造改革型店舗”の兆しが見える。

成功する店舗の共通点は、「価格ではなく理由を伝える力」にある。ある都内の創作居酒屋では、価格改定に際し「契約農家の野菜比率を80%に引き上げます」と宣言し、逆に常連客を増やしたという事例もある。

今こそ見直すべき5つの戦略

① 原価率の再設計と“儲かる看板メニュー”の創出

高原価食材の単品運用ではなく、セットメニューや期間限定などで利益の出やすい設計に。例:うなぎ丼+だし巻き+味噌汁の「満腹セット」など。

② 仕入れの多様化と“共同購入ネットワーク”の構築

地域の同業者と連携し、業務用食材の共同仕入れによるコスト削減を。冷凍・加工食材の使い分けで歩留まりも改善。

③ 値上げ時の“ストーリーブランディング”

「価格変更=企業姿勢の表明」として打ち出す。例:「地元産食材を守るための選択」「スタッフの労働環境改善のため」など、納得感のある理由づけ。

④ 従業員満足度と省人化の両立

マニュアル整備やオーダー自動化、レジレス導入などで一人あたりの生産性を最大化。シフト制ではなく“業務ごとの担当制”で回す柔軟性も重要。

⑤ 原価だけを見ない「長期視点のLTV経営」

リピーター1人の獲得=長期利益と捉え、月次の粗利ではなく、年間LTV(顧客生涯価値)での利益管理へ。

 

2025年の飲食店経営を生き抜くために

2025年の春は、単なる物価上昇ではなく、飲食業にとっての「経営の再設計期」として記録されるだろう。

原価の上昇は避けられない。それをどう吸収し、どう伝え、どう納得してもらうか——経営の創造性が問われている。

「価格を上げて客が減った」ではなく、「価値を伝えて選ばれた」。そう語れる店を目指して、いま数字と向き合うことが、未来の武器になるはずだ。

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織田 夏海
GーFACTORY株式会社 Promotion Support 飲食店舗のHPやSNS運用、メディア向けリリース業務などを通して「食」の世界に触れてきました。また、これまで飲食店経営者へのインタビューや飲食業界のSDGsに関する特集記事など、飲食業界に特化した記事を執筆してきました。このサイトでは、これらの経験を活かし、飲食業界の皆様に役立つ情報や、日々の業務に役立つヒントを提供していきます。
織田 夏海
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