2020/01/17
意外性のある価値を加えた「なのに経営」の発想で学食事業も行う
株式会社ORIENTALFOODS(本社/東京都品川区、代表取締役/米田勝栄)は、学食ランキング1位を獲得した東洋大学の中で学生食堂を3店舗運営している。ここは学生食堂では珍しく南部鉄器を用いた料理やピザ窯で焼いたピザやケバブを提供している。スピードが求められる学生食堂で、短時間でこだわった料理を提供しているのである。
このほかに、同社では飲食店2店舗、キッチンカーを3台運営している。キッチンカーでは、地方活性化を意識し、47都道府県それぞれのご当地の料理や食材を提供するというコンセプトで運営している。今後は飲食店経営を行うだけでなく、「社会問題解決にも貢献できるようなプロジェクト」を計画しているとのことである。今回は同社代表取締役米田勝栄氏にプロジェクトの詳細や今後の展望について伺った。
学生食堂の立て直しから始まった飲食店経営
――飲食店経営に参入したきっかけはどのようなことですか?
飲食業界に携わることとなったのは、一流ホテルでバーテンダーをしたことが始まりでした。そこから、飲食店でも勤務する中で、あるときに「大学の学生食堂の立て直しをしてほしい」との相談を受けました。そして、その店舗を売上が1日3万円ほどだった状態から、16万円ほどまで増やすことができました。
しかしながらその運営を行っていた会社が撤退することになり、私も含めスタッフが全員解雇という状態になりました。路頭に迷っていた最中、ある恩師から「この学生食堂の経営をしてみないか」という話をいただきました。そこで、2006年に会社を設立しました。
――学食の立て直しはどのように行ったのですか?
基本的には、カフェだった店舗を、ご飯ものを提供する店舗に変えました。学生はやはりパンではなかなかおなかがいっぱいにはなりません。そのようなことも考慮しました。また、学生食堂なので短時間で提供する必要があるのですが、「いかに早く料理を準備するか、また、その短時間の中でもどのようにお客さまとコミュニケーションをとるか」という点も意識しました。その後、「1店舗目の隣の2店舗を運営してくれないか」というご依頼をいただき、現在では計3店舗学生食堂の運営をしています。
その中で、弊社のミッションとして、意外性を大切にして、それを「なのに」と言い、「なのに経営で驚き、価値、感動を提供する」というものをあげています。学生食堂でもこれを意識して、「学食なのに南部鉄器、ピザ窯、ケバブ」など、単においしい料理を提供するだけではない、「価値」を加えています。
株式会社オリエンタルフーズ 代表取締役 米田勝栄氏
――「なのに経営」は、学生食堂での運営以外でも実践しているのですか?
弊社の活動の全てでそれを意識して行っています。例えば、学生食堂以外に横丁でバルを2店舗運営しているのですが、そちらでも「横丁なのに世界各国のワイン」「横丁なのにおしゃれ」「横丁なのに肉祭り優勝」など、「なのに」を生むようにしています。
こちらの店舗では、ワインショップでも中々手に入らないような世界各国のレアなワインを多数取り揃えています。スタッフには「ワインを売るのではなく、文化を売る」のだということを伝えています。ソムリエのように、そのワインの詳細情報を述べるのではなく、スタッフみんなが世界各国の「へ~」というようなうんちくやワイン以外の文化を調べて共有することでそのワインの背景にある文化をお客さまにお話することでその味も変わってくると思うのです。このようにしてお客さまにその場を楽しんでいただけるようなコミュニケーションを心掛けています。
世界各国のワインをラインアップしているため、それぞれ各国のインポーターさんと取引も行っています。これらから現地の情報を聞き、共有もしています。できるだけ生産者さんの声を届けたいので、日本産のワインに関しても全て自分たちで生産地に行ったものしか出していません。
「なのに経営」で行うFood Food Project
――「なのに経営」の一つとして、「Food Food Project」を掲げていますが、これはどのようなものですか?
「風土とフードで47都道府県を繋げるプロジェクト」というコンセプトで、モビリティアンテナショップとして47都道府県別のコンセプトキッチンカーを都市で運営する、というものです。こちらでは、地方の名産品や特産品を地方の方々の代わりに都内で移動販売し、PRを行います。現在3台稼働していて、淡路島カレーを2台、北海道のザンギ(唐揚げ)を1台運営しております。これまで、山口県のコンセプトキッチンカーを行い、今後は鹿児島県のものも稼働予定です。現在、この3台で平日の5日間稼働しており、場所にもよりますが大体1日50食から100食ほど販売しています。
このプロジェクトを通して、「地方活性化」「新たな労働環境の提供」「ランチ難民の解消」などという社会問題の解決に貢献したいと考えています。これが「キッチンカーなのに社会貢献」という「なのに」を実現しているのです。
――キッチンカーに着眼したのはどうしてですか?
これまでもブームの度に意識はしていたのですが、2017年に「キッチンカーの時流」と感じ、参入しました。というのも、時代の変化に伴い、自動車の自動運転化など、モビリティとしてのキッチンカー業界には更なる可能性が生まれると感じたのです。今は一般的な方法での販売を行っていますが、今のうちに参入し、「成長していく業界の中にいることで時流に適応していく」と感じました。
そこで、横丁で運営している「東京食堂」で既にランチとして提供していた「淡路島カレー」の販売を行うことにいたしました。以前から「生産者の人たちの思いをもっと届けたい」と感じていたこともあって、「キッチンカーで他の地域とコラボレーションしていくことで実現可能ではないか、地方活性化にも繋がるのではないか」と考えたのです。私自身が東京出身で自分に故郷がないからこそ、「東京に住んでいる自分が東京で地方のことを伝える場になろう」と思って取り組みました。
都内のビジネスエリアを中心に稼働しているコンセプトキッチンカー
――社会問題に取り組もうと思ったのは、何かきっかけがありましたか?
当初から「会社を設立したからには、社会に必要とされる存在でいなければいけない、社会に貢献していきたい」という思いがありました。ですが、設立当時は募金などしか思い浮かばず、「それくらいしかできないのか」と考えていました。しかし、社会問題について調べる中で、自分たちでもできることがたくさんあることに気付いたのです。
その一環として、まずは廃棄ロスの問題に取り組むために規格外の農作物を買い取り、使用することから始めました。今では高知県の農家さんから規格外で市場に出せないトマトを購入したり、また、2019年の豪雨災害の際には福岡のフルーツを購入し、PRしながら販売しました。
――これからの取り組みとしてどのようなことを検討していますか?
大学生が飲食店を企画、運営する「ベンチャー食堂」というものを計画しています。日本は若者の自殺率や人口1人あたりの精神病院の数が多いことや、自己肯定感が低いということでは世界でワーストの国。私は「ベンチャー食堂」によって、このような課題に取り組みたい。
これらに関して、19から20代前半の大学生の時期が持つ影響も大きいのです。子供でも大人でもない時期で、社会への不安や夢がない人も多いのです。「働く」ということは、学生と社会人との間でそのイメージに大きく隔たりがある場合が多く、その経験がないからこそ、不安もあります。そこで「企業側」を経験することで、可能性も大きく広がるのです。
アルバイトではできない、「決定・決断」などの企業側を体験を重ねる中で、まずは大人たちがワクワクし働くことで学生たちもワクワクを体験し「社会に早く出たい」と感じ、自己肯定感を増加させることの手助けをしたい。私たちは、学生の意見を尊重しそれが成功するようにこれまでのノウハウを伝え、話を聞き、学生の夢を引き出したい。これを意識して、実際に私たちの既存店でもさまざまな取り組みを行っています。
――具体的にはどのようなことをしているのですか?
例えば、社内でメニューコンテストなどを行っています。これに参加できるのは学生アルバイトのみで、彼らのアイディアを実際に商品化しています。通常学生アルバイトは作業をするのみの場合が多いですが、彼らも自分たちで考え活躍できるような場を設けています。アルバイトが考えたメニューを店長や上司が全力で支援していき、スタッフ全員が協力して販売していくチームビルディングも行っております。
2019年の「五反田肉まつり」ではアルバイト達で考案した牛カツを店長を始めスタッフみんなが全力で協力し販売することで、優勝することができました。このような取り組みを行う中で、自然と店舗スタッフのSNSグループなどでは、「本日○○食売れました!素晴らしい!」など、店長からの声掛けも前向きで士気の上がるような言葉が多く出るようになりました。これをより大きな規模で行うのが「ベンチャー食堂」です。これらを通じて、若者が自己肯定感を高め、夢をもって社会に出ることができるように手助けがしたい。
2014年、2019年の「五反田肉まつり」ではスタッフ一丸となって伝説の2冠達成
――今後の展望を教えてください。
今後は、先ほど話したコンセプトキッチンカーの「Food Food Project」と「ベンチャー食堂」の二本柱を中心に進めていきます。ただ飲食店を経営していくだけでなく、社会問題を解決していきたい。
「Food Food Project」に関しては、まずは47都道府県47台のキッチンカーを稼働させたい。その先には世界各国の文化、料理を伝えるキッチンカーも行い、また、この日本のキッチンカーを海外で展開したい。そして、もう一方の柱である「ベンチャー食堂」を行うことで日本を若者が夢にワクワクする社会にしたい。
また、もう一つ大きな夢があるのです。それは世界の通貨を「喜び」にするということです。まずは社内の通貨を「喜」に変えました。
売上は目標にしない。売上は結果だから。どれだけ喜んで頂けたかの結果。
店舗でキャンペーンなどを行う際にも、「儲かるか」を基準にするのではなく、「どれだけお客さまに喜んでいただけるか」を基準に考えるようにしています。これが世界共通の飲食店の通貨になることが私の大きな夢なのです。
実際に店舗のメニューには、「喜」が記載されている