2021/07/06
社会にも環境にもやさしい取り組みをサポートする「阿里山カフェ」【飲食業界×SDGs】
東京から車で約1時間の場所にある自然豊かな町、埼玉県日高市高麗本郷にオーガニックフードやベジタリアンフードを提供する人気のカフェ「阿里山カフェ」があります。ハイキングで訪れる方やベジタリアンフードに興味がある方など、多くのお客様でにぎわっています。
「阿里山カフェ」を運営しているアリサン有限会社は、30年以上前からオーガニックフードやベジタリアンフードの輸入、卸業などを行っています。ベジタリアンフードの提供だけでなく、プラスチック廃棄量の削減など環境や社会に配慮したサステナブル(持続可能)な取り組みをたくさんされています。
今回は同社の行う取り組みや、持続可能な社会を目指して制定されたSDGs(※1)との関連性などについて代表のJohn Bayles氏にお話を伺いました。
(※1)SDGsとは、2015年に国連にて採択された持続可能な開発目標のこと。貧困やジェンダー平等、環境問題など世界的に取り組む必要のある課題に関して、17の目標と計169の細かなターゲットがあり、2030年を目標達成期限としている。
目次
日本でのベジタリアンフード提供のパイオニア
―ベジタリアンフードやオーガニックフードの提供を始めたのはどうしてですか?
20代のころバックパッカーとして世界中を旅行していたのですが、ある時友人に誘われ、日本を拠点として骨董品の輸出入業を行うことになりました。私は肉類が苦手で野菜中心の食生活をしていたのですが、当時の日本にはベジタリアンフードを手に入れられる場所が少なく、海外に行く度に現地のオーガニックフードやベジタリアンフードをスーツケースいっぱいに入れて持ち帰っていました。それを友人など、周囲の方に配るようになったのが始まりです。
分け合うことが増えてきたため、それならばと骨董品の輸出入業から食品の卸業をメインに舵を切りました。事業の始まりが分け合うことだったこともあり、当社は今でも「わけあいたいわけがある」を経営哲学としています。
―肉類が苦手だからベジタリアンフードやオーガニックフードへの関心が高かったということですか?
それもありますが、ベジタリアンやビーガン(※2)の方向けの食事、オーガニックフードは健康によいと聞いたことも要因です。これらは、環境問題の観点からも地球に与える負荷が少ないということで、関心がより高まりました。
食肉を生産するには野菜を栽培するよりも多くの資源、エネルギーを必要とします。そのため、食肉の消費が減ることは世界的に大きなインパクトを与えることになると考えています。
世界には十分な食料を得ることができない方が大勢います。家畜の飼料を作るのではなく、野菜や穀物などを育てれば、よりたくさんの方に食料を届けることができると思うのです。家畜の生育過程で発生する二酸化炭素排出量の削減にもつながるため、社会にとっても環境にとってもいい影響を生み出しそうですよね。
※編集部注:肉類が各家庭の食卓に届くまでには、家畜の生育過程で大量の穀物を必要とし、多くの水、土地を利用する。加えて家畜は排泄する際に大量の二酸化炭素を排出。野菜が食卓に上るまでに必要なエネルギー消費量や二酸化炭素排出量は食肉よりも少ないことから、ベジタリアンフードは環境に優しい食事スタイルと言われている。オーガニックフードは土壌や河川、海洋の汚染を防いで生物多様性を保つなど、地球にとっても優しい食材とされている。
(※2)ビーガンとは肉、魚、乳製品のような動物性の食品を一切食べない食事法のこと。
ビーガンについて詳しくはこちら→SDGs達成に向けて飲食業界ができること-目標15.陸の豊かさも守ろう-
カフェを通じてベジタリアンフードを発信
―卸業だけでなく、カフェを設立されたのはどうしてですか?
実を言うと、私たちがおいしいコーヒーを飲みたかったから、というのが最も大きな理由です。
当社は高麗本郷の自然豊かな場所にあり、景色も非常にいいため、ここでおいしいコーヒーを飲めたらすてきだろう、せっかくなら他の人にも楽しんでもらおうと考えました。
現在はコーヒーだけでなく、ビーガン対応のハンバーガーやカレーなども用意しています。えんどう豆をベースにしたパティなどを使用しており、味も食感も非常においしいと人気です。
カレーはスパイスを自家調合したこだわりの一品です。料理はほとんどがビーガン対応メニューですが、おいしさも追求したいと考え、ケーキなどに関しては卵を使って調理しています。
食材は平飼いの卵、フェアトレード(※3)かつオーガニックのメープルシロップやアガベシロップなど、健康・社会・環境にこだわったものを使用しています。
(※3)フェアトレードとは、発展途上国などで作られた生産物を正当な価格で売買し、適正な賃金を支払うなど、生産者の労働環境を守る貿易のありかた。
フェアトレードについて詳しくはこちら→SDGs達成に向けて飲食業界ができること ー目標1.貧困をなくそうー
―ベジタリアンやビーガン向けの料理というだけでなく、食材にもこだわられるのはなぜですか?
私が良いと感じる食べものを広めたい、知ってほしいという気持ちからです。
ベジタリアンやビーガンフードはあまりおいしくないと認識している方が多いように思いますが、そんなことはありません。どのような方にとってもベジタリアンフードが日々の食事において選択肢の一つとなるよう、おいしい料理を提供することは必要不可欠と考えています。
ベジタリアンやビーガンが一人増えるより、100人が1週間に1回だけベジタリアンメニューを食べる方が環境に与える影響は大きいと思います。その機会を増やせるよう、おいしいベジタリアンやビーガンフードを提供し続けて、多くの方にご来店いただきたいです。
すでにベジタリアンやビーガンだけでなく、肉類を食べる方が友人とともに食べに来たり、高麗本郷の山を訪れたハイキングの帰りに来店してくれたり、と多くの方に楽しんでいただいています。
最近は、日本人の間でもベジタリアンやオーガニックフードに対する意識の高まりを感じるようになりました。興味を持つ人が増える中で、当カフェがベジタリアン、ビーガンフードの使い方を知ってもらうきっかけとなることもあるようです。今後はベジタリアン、ビーガンフードの使い方だけでなく、各食材のストーリーも発信していきたいです。
生産者のサポートなどサステナブルな取り組みを推進
―ストーリーとはどのようなものでしょうか?
私が扱っている食材それぞれにフェアトレードや女性の労働支援、各農家ごとの苦悩・想いなどの背景があります。
例えば、ケーキに使用しているメープルシロップはフェアトレードに配慮されているものです。生産者の方々の健康に害を及ぼすことがなく、正当な賃金を得ていることなど、作る方の権利が守られているものになります。
私は生産者さんを直接訪問し、背景を含め理解して仕入れています。取り引きの開始時のみならず、新型コロナウイルス流行前は年に2回ほど実際に生産者さんを訪れて農業体験をし、一晩共に過ごして交友を深めることも多々ありました。
生産者さんを農家としてだけではなく、作り手の個人、個人を認識し、経営の大変さや想いのストーリーを日本のみなさんへ提供するようにしています。
約30年にわたり関係を続けている方など、多くの小規模農家と取り引きをしているのですが、商品とストーリーを併せて伝えることで、消費者に深く印象を残すことができますし、生産者さんを支えることにもつながると考えています。
また、これまでは海外との取り引きが主でしたが、現在はフードマイレージの観点から、日本で無農薬栽培をしている生産者さんとも連携しています。遠距離輸送は大量のガソリンを必要とするなど、多くのエネルギーを消費するため環境に悪影響を与えてしまうからです。
地産地消の環境の影響について詳しくはこちら→SDGs達成に向けて飲食業界ができることー目標13.気候変動に具体的な対策をー
―どのように連携をされているのですか?
地産地消を促進するため地元の無農薬食材をつくる農家さんの食材を使用して、「阿里山カフェ」で提供しています。また、土日にはカフェの店頭で市場を開催するなど、地域の人々とコミュニケーションする場にもなっています。
新型コロナウイルス流行前は年に2回ほど、当店駐車場で市場に加え、オーガニックコットンを使用した雑貨などのサステナブルな商品を販売する方にも来ていただき、サステナブルフェアのようなものを開催していました。お客様にも好評でしたので、早く再開したいです。
―他にも何かサステナブルやSDGsに関連する取り組みをされていますか?
現在カフェではプラスチック廃棄量削減のために、プラスチックストローの提供を行っていません。大人の方にはステンレスストローを、お子さまには紙ストローをお渡ししています。
また、ジェンダー平等にも取り組んでいます。カフェの責任者だけでなく、他の事業部も当社のチームリーダーは女性が多いです。昇級などの際に性別によって判断を変えることもなく、実力主義で登用しています。
カフェで提供するメニューに限らず、当社の運営全体として社会や環境への配慮を意識しています。
SDGsとプラスチック廃棄量削減について詳しくはこちら→SDGs達成にむけて飲食業界ができること-目標12.つくる責任つかう責任-
SDGsとジェンダー平等について詳しくはこちら→SDGs達成にむけて飲食業界ができること-目標5.ジェンダー平等を実現しよう-
―カフェ以外では、どのようなことをしているのですか?
例えば、賞味期限が近い食料をフードバンク(※4)に提供することや資金援助、mymizuプロジェクトへの参加などです。
mymizuプロジェクトとは、無料で給水できる場所を公開することでプラスチックペットボトルの使用を減らし、プラスチック廃棄量の削減を図るというものなのですが、当社も給水スポットとして登録しています。
また、世界の避難民の方に教育支援などを行っているREI(国際難民支援団体)、主にアジア、アフリカ、太平洋地域からの代表の方に暮らしや生計をたてるための技術・知恵、持続可能な社会についてなどを教えるARI(アジア学院)への寄付も行っています。
(※4)フードバンクとは企業や家庭で余った食料品を寄付して、児童養護施設などの団体、高齢者や一人親世帯といった、食事を満足に取ることが難しい方に無償で提供する取り組み。
フードバンクについて詳しくはこちら→SDGs達成に向けて飲食業界ができること ー目標1.貧困をなくそうー
―たくさんの取り組みをされているのですね!社会や環境への配慮を心掛けていらっしゃるのはどうしてですか?
累計5年以上世界旅行をする中で、いろいろな地域を訪れ、世界のさまざまな場所に友人ができました。自らが訪れたことのある地域や友人のいる国について、環境問題の弊害や多くの避難民の方がいるなどという話を聞くと、他人事とは思えなくなります。心が近く感じ、何かできることはないかと考えます。
先述したように当社の経営哲学は「わけあいたいわけがある」です。生産者さんのストーリーなども併せて発信することで、当社の商品を通じて日本の方が世界のことを知り、地球や社会に優しい生活をしようと感じるようになることもあると思うのです。
分け合う輪を、おいしくて、健康にいい食べ物とともに、サステナブルな社会、環境への配慮に繋がっていくよう提供し続けていきたいです。